第13話 ダマシ

「いい返事だね。大事だから強調しておくと、投資する人間ってのは、なぜだか高くなると買いたがるし、安くなると売りたがるもんなんだよ。暴落の時なんかまさにそう。あんたを貶してるわけじゃないけどね」


 零央は頷くことで応えた。

 確かに小夜の言う通りだった。自分も市場の圧力に耐え切れずに大幅な下落の最中に売った。多額の損失が出るのが分かっているにもかかわらず、だ。余力の減少に直面し、追証を差し入れるかどうかの瀬戸際まで追い詰められた事情はあったにせよ、小夜の解説する投資する人間の習性を地で行っている。


「そういう投資家はどうなるかって言うと―」


「損失を出す」


「そういうことだね」


 二人は苦笑気味の笑みを交わし合った。


「だから、人の逆をやらないといけないんだよ。人と違うことをやる、でも構わないけどね」


「逆張りを選択する理由の一つですね」


「そうなるね」


「一つ疑問があるんですが」


「何?」


「株が下落する時というのは、大抵ある一定の期間落ち続けますよね?」


「そうだね」


「買うタイミングはどう判断するんです? やっぱりチャートですか?」


「そうだよ。あんたがチャートを使ってること自体は間違ってない。読み解く必要があるけど、買う時期ってのはやっぱり見計らわないといけないからね。タイミングは大事だよ」


「読み解く、というのは?」


「チャートに関する本は読んだ?」


「はい」


「チャート―あんたが使ってるのはローソク足だね。あたしもじっちゃんも一緒―には、型があるだろ?」


「そうですね。名前までついてます」


「読み解くってのは、それを実際の値動きに当てはめて判断すること。全く同じになるなんて、そっちの方が珍しいからね。特に、『ダマシ』には気をつけないとしくじるよ」


「ああ。なるほど」


 『ダマシ』はチャートの形に出る。これから上がるように感じられても下げたり、下げるように感じられても上がったりすることがあり、紛らわしい値動きの様子を言う。零央も投資の過程で幾度か遭遇したことがあった。チャートは的確に読まないと意味を成さない。

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