第7話 一人一億
「なるほどね」
説明を聞き終えた小夜は口の端を上げて笑った。
「で、資金は?」
「一人、一億です。父の名義でそれぞれ別の証券会社に口座を開いて、実際の運用はぼくたちがやっています」
小夜が口笛を吹いた。
「ポケットマネーで億か。さすがだね。三億無くなってもいいと思ってるわけだ」
少し不快そうな表情に零央はなった。
「無くなりませんよ」
「何言ってんだい。あんた、減らしたから、あたしを呼んだんだろ?」
言葉に詰まって零央は黙り込んだ。
「で? 結局いくら損したの? 桁が一つ減ったってとこまでは聞いてるけど?」
「…五千万です。正確には、少し増えていたので六千万ぐらい損して五千万と後は本当に僅かな金額が残りました」
ようようのことで零央は言葉を吐いた。胸と胃の辺りが重かった。
「資金の半分、無くなってるじゃん」
反論の言葉もなく、零央は目線を落とした。小夜が軽く鼻から息を抜いた。
「ま、三億で優秀な跡取りが決まれば安いもんか」
「無くしたりしないために、あなたをお呼びしたんです」
顔を上げた零央は真剣な表情をした。
「分かってるよ。あたしも、そのつもりで来た」
二人は、しばらく無言で目を見交わした。
「おおよその事情は把握できたから、突っ込んだ話をしようか」
小夜が身を乗り出した。
「どうやったら、五千万も損できんの? 大体想像つくけどさ」
「…信用取引を利用しました」
小夜がため息をついた。
「やっぱ、そうか…。訊いてなかったけど、試験の期間はいつからいつまで?」
「この四月から来年の三月までの一年間です。期間を経過して最も多額の資金を確保していた者を後継者に指名すると父は言いました」
「それで選んだのが信用取引なんだ」
無言で零央は頷いた。
「バカだね、あんた」
小夜は容赦がなかった。
「大学行ってるぐらいだから頭はいいんだろうけどさ、賢さが足んないよ。大体さ、株やったことあんの?」
零央は首を横に振った。
「なのに信用なの? 自分で口座開いた? もしかして最初から設定してあったとか?」
今度は縦に振った。小夜が顔をしかめた。
「他の二人の経験は?」
「ないと思います。確かめたわけじゃありませんが」
唸りながら額に指先を当てて小夜が俯いた。視線をテーブル上に据えたまま独り言のように呟いた。
「わざわざ信用の口座作っといてやらせたのか…。意地悪いなあ」
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