三十四話――不名誉撤回


 先に世話になっていた分を返してくれているだけなんだ。いや、面倒見がいいのはそうなのかもしれないが、こんないい歳こいてここほど世話が焼けるのもいないのかため息が連続で聞こえてくるが気のせい、気にしちゃダメ、と強く念じてクィースが角を曲がる。


 シオンが続いて曲がると、なかなか盛況な出店のような構えの定食屋が開いていた。


 テラス席が四脚で五つと店内も飲食可能なのかひとが先から頻繁に出入りしている。


 この様子からして多人数での経営ではなく少数もしくは個人のみの経営と思われる。


「ポポナおばさーん!」


「はーい? あらぁ、クーちゃんじゃない。毎度ご利用ありが、あら、そのコは?」


 そのコ、と言いつつポポナというらしい恰幅のいい女性が見たのはシオン。シオンは初対面の相手に最低限の礼儀で会釈し、親しそうにしているクィースを不思議そうに眺めるが、クィースは気づかず、ポポナおばさんとやらにシオンのことを話している。


「まあ、あの第三大通りの? じゃあ、すごいコなんだね。でも東方系に見えるけどクーちゃん、ちゃんとお世話できるの? 最近やっと自炊はじめたってこの間言ってい」


「待て。なぜ私がそのドジの世話になる? むしろ世話を焼いているの間違いだ」


「ぁうち、シオン! 思っていてもそういうこと言わないでよ、恥ずかしいじゃない!」


「不名誉撤回」


「ふぇえ、不名誉とか言われたぁ!」


 シオンの暴言に泣く寸前のクィース。


 泣きそうだったが、なんとか堪えてポポナに自分が食べたいものを伝えている。そのあとにヒュリア、ザラと続き、シオンも適当に選んだルビーナのよりどり定食を注文。


 あとはできあがりを待つだけ、と席を探しにいった女の子たちの分も食事の運搬を任されているザラのそばにいこうとし、不意にポポナが呼び止めてきた。


「ああ、そうそうシオンちゃん、ちょっと訊いてみるんだけど甘いものは大丈夫かい?」


「あまり得意ではない。何故なにゆえ?」


「ん? 甘いもの好きのクーちゃんと一緒でデザートとか欲しがられてないかね、と」


 ……。少し引っかかるが問い自体は別に失礼でもなんでもないのでシオンは別にない、というのを示すのに首を横に振る。シオンの答にポポナはにっこり笑って奥の方に引っ込んでいき、食事の準備をはじめたのかすぐ美味しそうなにおいが鼻腔を擽ってくる。


 それだけでザラの空腹の中に生息している蟲がぐおーぐおー鳴いているが無視。


 無視してシオンはザラの隣で腕を組んで壁に寄りかかるか否かという絶妙にきつい体勢で、なのに顔色ひとつ変えず定食ができるのを待っている。横目で見たザラが落ち込んでいる。なんだ、いったい。それに先からちらちらと見られていい加減気になる。


「なにか、質問でもあるのか」


「え、あ、ああ。まあ……そのなんだ」


 ザラはシオンからの振りに少々戸惑っているというかこれは訊いてもいいものか、と考えている様子だったがシオンがじっ、と宝石の目で見つめてくるので降参した。


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