210.おしおき大掃除
俺に迫るステイ。
期待感で目を輝かせるリオ。
おしおきってこういうものだっけか。むしろ、俺がおしおきされてないかい?
「先生、先生」
俺の様子を見かねたのか、ティララが手を挙げて助け船を出してくれた。
「リオがそこまで言うならさ、館のお掃除でもしてもらえば? 盛大に散らかしてたでしょ、この子」
「それですわ!」
……と、なぜかおしおきされる本人が手を打つ。
まあ、リオもやる気になっているし、掃除そのものは自活に必要なことだし、いずれやってもらおうとは思っていた。
「じゃあリオ。これから罰としてお掃除の時間だ。ちゃんと俺の言うことを聞いて、真面目に掃除すること。いいね?」
「はいですわ!」
返事だけは良いわね、とステイがつぶやく。俺も若干、嫌な予感が拭えずにいる。
こうして。
俺の監督のもと、リオによる館の大掃除が始まった。
「さて、まずは掃き掃除からにしようか。散乱したものはメイドさんたちがほとんど片付けてくれているし――って、もういない!?」
掃除用具入れに向かうわずかな道のりでリオを見失い、俺は愕然とした。
こうならないように手を繋いでいたんだが……。
辺りを見渡しながらリオの名を呼ぶ。
そのとき、俺のところにノディーテとレーデリアが連れ立ってやってきた。
ノディーテが悪戯っぽく笑いながら自分を指差す。
「お兄。リオちーをお探しなら、ウチらにお任せだよ」
『あのあの。その、お力になれると思います。あああっ、ゴミ箱の意見などゴミとして己の中にしまっておけと言われればそのとおりなのですがっ』
「いや普通に助かるよ。けど、どうして君らはリオの居場所がわかるんだい」
前から気になっていたことをたずねる。
二人の元魔王は顔を見合わせた。
「たぶんね、リオちーのギフテッド・スキルが強力で、その気配を感じるから、かな」
「ああ、なるほど。確かにお前たちはギフテッド・スキルを感じ取るのに長けているからな」
『マスター。おそらくリベティーオは何度もこうした状況を作り出すはずですので……よろしければ、我らに精霊をお与え下さい。その都度、居場所をお伝えできると思います。もも、もちろん本日だけで結構ですので!』
精霊による遠隔通信。アルモアが何度か見せた精霊魔法だ。俺はうなずいた。
さしあたり、このわずかな時間のうちに一瞬でいなくなったリオの居場所を聞く。
彼女らの言うとおりの場所に赴くと、果たして、上機嫌で箒を振るリオが見つかった。
「ふんふんふーん、ですわ」
「ああこらこら。そんなやり方じゃあ返って埃が舞うよ」
まるで武器か何かのように箒を振り回すリオの手を取り、一緒に床を掃く。
部屋の隅に埃が溜まらないように。動かせる家具の下もしっかりと。
普段はメイドさんたちが仕事をしてくれるおかげで綺麗なものだが、リオが余計な作業を増やしたせいで手が回らなかったようだ。
集まっていく埃を、リオは目を輝かせて見つめていた。
「おおっ。これが集めたほこり!」
「顔を近づけるなって。息で舞う――って、言わんこっちゃない」
「けほっ、けほっ。あははは!」
ため息をつきつつ、掃除を教えていく。
基本的に素直なので、教えたとおりに真面目に掃除をするリオだが、いかんせんはしゃぎすぎだ。何が楽しいのか、ずっと笑っている上に落ち着きがない。
それでも、どうにか一部屋終える。
「よし。それじゃあ次の場所へ――って、またか」
忽然と消える亜麻色髪の少女。
ここまで来ると、ほぼほぼ魔法である。
俺は精霊魔法を使った。
「あー、ノディーテ?」
『りょーかーい。今のリオちーはねぇ――』
こちらもやけに楽しそうなノディーテの指示を聞き、場所を移動。
別階の掃除用具入れの前でごそごそやっているリオを見つけ、首根っこをつかむ。
「リーオ?」
「あはは。みつかってしまいましたの」
まるで悪戯をしてつかまった猫のような仕草だ。俺は何度目かのため息をつく。
「お前な。なんでそんなに嬉しそうなんだよ」
「ふふふ」
また笑いながら、掃除用具入れを探る。
洗濯された雑巾を二枚取り出して、一枚を俺に差し出した。
「イスト・リロスがみつけてくれるのが、うれしくて」
「あのなあ。かくれんぼして遊んでるわけじゃないんだぞ」
「わかってますわ。はいこれ。今度はふきそうじですわよね」
窓拭き用の雑巾を手に、腕まくりをするリオ。
「窓はたくさんありますわ! 腕がなります!」
「やる気満々なのは結構なんだけどね。……割るなよ?」
「せーの!」
「割るなよ!?」
ぎりぎり、割らせずに済んだ。
――こんな感じで。
ひとつの作業が終わるごとにリオが姿を消し、ノディーテたちが居場所を確認し、俺が見つけ出して小言を言って。そんなことを繰り返した。
傍目には楽しそうに映ったのだろう。
いつの間にか他のエルピーダの子どもたちも掃除に参加し、館の中は一気に賑やかになった。
ミティ、ティララとともに掃除に勤しむリオを見る。
「これはおしおきと言えるのかね」
掃除道具片手に呆れる俺の前で、リオとミティが仲良く体力切れになった。
彼女たちを抱きかかえながら、思う。
……一ヶ月間、こんな日々が続いていくんだろうな。
眠るリオの背中をぽんぽんと叩きながら、俺は部屋へと戻っていく。
この日の賑やかな『おしおき』は、これで終了となった。
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