59.お留守番の反応
その日の夕方――。
「うおおお!? すげえ! イスト先生、ついに色付きの冒険者になっちまったのか。しかもギルドマスターとか! うっほお、超かっこいいぜ!」
俺たちはグリフォーさんの館で夕食のテーブルを囲みながら、昼間の話題で盛り上がっていた。
内容はもちろん、冒険者登録とギルド登録の件についてである。
ナーグやリギンが目を輝かせるなか、フィロエが思いっきり胸を張る。
「そうでしょう、そうでしょう! 今日このときから、私たちエルピーダは新たなスタートを切ったのだよ!」
「おい。なんでフィロエが
「だって私も冒険者ギルド【エルピーダ】の一員だし。むしろエースだし。イストさんの右腕だし」
「なに言ってるんだ。
「うるさいなっ。いつかアルモアさんを追い抜くって決めてるんだから!」
いきり立つフィロエに、「だからなんで私だけ……」とうんざりした様子でパンをかじるアルモア。
にぎやかな子どもたちに少しだけ頬を緩めてから、俺はミテラに視線を向けた。
一足先に食べ終わっていた彼女は、口元を布でぬぐいながらうなずいた。
俺は食器を置く。
「皆、聞いてくれ。さっき話したとおり、エルピーダ孤児院は新たに冒険者ギルド【エルピーダ】として再出発することになった。そしてさっそく、大きな依頼を受けた。ウィガールースのギルド連合会支部長、シグードさんからの依頼だ。俺はこれを責任持って受けることにした」
ワクワクと瞳を輝かせる子が多い。だがグロッザやティララなどは真剣な表情になっていた。
支部長が直々に依頼をすることの重大さを少なからず理解しているのだろう。さすが
「それでだ。依頼をこなすにあたって、今回は連れて行くメンバーを選ぶ」
「え?」
「残りの子はここでお留守番だ」
「ええーっ!? そんなぁ!?」
だが、これは譲れない。
ミテラが加勢してくれる。
「次の目的地はエラ・アモという街。ウィガールースからレーデリアに乗っても片道7日はかかる。とっても遠いところよ」
ミテラが子どもたち一人ひとりに視線を配る。
「しかも、エラ・アモ周辺は何もない荒野地帯。気温も高いと聞くから、日中はおいそれと外に出られない。あなたたち、往復で最低14日間、孤児院の中で大人しくしていなさいと言われて、じっとしていられる?」
シーンとなった。
ミニーゲルの事件のとき、ずっと孤児院の中にいたストレスを覚えているのだろう。あれの何倍も長い時間
それにしても、さすがミテラ。子どもたちの手綱をしっかりと握っているな。頼りになる。
仮に俺が、「ミニーゲル以上に危険だから残っていなさい」と言ったところで、はたしてどれだけ聞き入れてくれたか。
ちらりとグリフォーさんを見ると、彼は重々しくうなずいてくれた。
すでにグリフォーさんには今回の任務について伝えている。シグード支部長の予知内容も、俺がアヴリルから聞いた「敵は過去の魔王クラス」という情報も相談済みである。
歴戦の冒険者の引き締まった表情を見る限り、今回の任務は今まで以上に緊張感を持って
それから俺はエラ・アモに同行するメンバーを伝えた。俺とフィロエ、そしてアルモア。戦える人間3人だけで臨む。あとは全員、グリフォーさんの館で待っていてもらう。
子どもたちのほとんどを残すので、ミテラも留守番役だ。
どことなくしょんぼりした子どもたちに、俺は順番に声をかける。
「ミティ」
「……なーに? せんせー」
「俺が帰ってくるまでに、おいしいキノコ料理を作っておいてくれないか。ほら、商店街のおじさんおばさんに教えてもらってさ」
「いいの?」
「ああ。めいっぱい、勉強しておいで」
それから他の子どもたちにも目を向ける。
「グロッザ、ステイ、それからエーリ。お前たちは引き続き、旧バルバの改装に取りかかってくれ。急ぐことはない。グリフォーさんや、ミテラの知人たちの力を借りて、できるところをやってごらん。将来、そこがお前たちのお店になるだろうからな」
「そう言ってくれると思ってた。イスト先生」
落ち着いた声音でグロッザが応える。
「こっちは任せて。皆と力を合わせてやるだけやってみる」
「ああ」
「それより先生、僕がいなくてご飯は大丈夫?」
まあなんとかするよ、と俺は答えた。たしかにシェフがいないのは痛いが、仕方がない。
「ティララは」
言いかけたところで、彼女は膝に乗せていた本を掲げた。
最近、メイドさんのひとりに勉強を教わっているらしい。本の趣味が合うとかで、とても仲がよいそうだ。
俺は苦笑した。
「ティララらしいけど、汚れるから食事の間はしまっとけよ」
「大丈夫よ。子どもじゃないんだし」
いやいや。
後ろで
俺は残ったふたりに言った。
「さてナーグ、リギン。俺は知ってるぞ。お前たち、こっそりグリフォーさんに剣の稽古を付けてもらってるんだろ?」
「う……恥ずかしいからわざわざ別の場所でやってたのに。まあぜんぜん相手にならないけど」
「けっこう充実してるらしいな。せっかくだ。徹底的に鍛えてもらえ」
「……ん」
うなずくナーグ。一方のリギンは無言のままで、どこかモヤモヤしたものを抱えているように見えた。
「リギン? どうした」
「なんでもないよ。せんせ。なんでも」
リギンは言った。珍しく、奥歯にものが
……あとで話を聞いてみるか。
そう思い直してパンに手を伸ばしたときだ。
「アヴリル? どこ行くの?」
アルモアの肩に止まって大人しくしていた大精霊が、やおら翼を広げ、窓辺まで飛んだ。
『だれかいるよ』
「来客?」
俺とアルモアは窓辺に立った。
外はもう暗くなっていて、人の姿は見えない。
「誰もいないぞ」
「イスト。あそこ見て。花壇のところ」
アルモアが指差す。
窓に張り付いて目を
『やあ、こんばんは』
「君たちは……!」
グリフォーさんの館にやってきたのは人ではなく、猫精霊ホウマとその仲間たちだった。
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