第3章 絶望の子らに立ち上がる力を 双子姉妹ルマ&パルテに愛される

57.冒険者イスト誕生


 ミテラとのデートから3日経った。


 彼女はすっかり回復し、以前にも増して精力的に動き回っている。知り合いのギルドにおもむいて情報収集したり、職人たちと繋がりを作ったり、だ。

 何度かミテラに同行させてもらったが、行く先々で顔なじみがいるのは本当にすごいと思ったものだ。


 そして今日は、集めた情報を整理するため部屋にこもって作業することになっていた。

 資料を手に「さてはじめるか」というときになって、グリフォーさんが俺たちのいる部屋を訪ねてきた。


「ボスからの呼び出しだぜ。どうやら次の依頼が決まったらしいな」


 そう言って、使者から預かった手紙を渡してくれる。

 中身を読んで、俺は少し驚いた。


「俺だけでなく、フィロエやアルモアも?」

「きっと冒険者登録についてよ」


 ミテラの言葉に、なるほどとうなずく。


「すぐに出よう。ここの片付けは俺がやっておくから、フィロエたちを呼んでくれるか。レーデリアのところで落ち合おう」

「ええ、わかったわ」



◆◇◆



「うー……」

「どうしたんですかアルモアさん。そんな暗い顔して」

「フィロエ……あなたは楽しそうね」

「それはもう! 私、ギルド連合会の建物に入るのはじめてですから!」


 言葉通り、ウキウキした様子のフィロエ。


 ――今、俺たちはギルド連合会支部の廊下を歩いている。

 メンバーは俺、ミテラ、フィロエ、アルモアの4人。ついでに契約精霊のアヴリルもいる。


 シグード支部長の執務室が近づくにつれ、明らかに足取りが重くなっていく銀髪少女を見て、ミテラが俺に耳打ちした。


「いったい、なにがあったの?」

「寝不足をこじらせた支部長がトラウマなんだよ……」


 今日はまともだといいが。


 執務室に到着する。

 声をかけると、「どうぞ」と支部長の声がハッキリ聞こえた。よかった。今日は大丈夫そうだ。


 部屋の中に入る。室内にはシグード支部長の他に職員が数人、立っていた。

 今までになく物々しい雰囲気である。


「よく来てくれたね。まあ、座って欲しい」


 執務机から立ち上がり、シグード支部長が俺たちを迎える。

 向かい合って座ると、さっそく彼は切り出した。


「まずは先日のミニーゲルの件、ご苦労様でした。君たちのおかげでさんの拡大を食い止めることができた。あちらからの報告も届いている。ギルド連合会の支部長として、君たちの功績はとても大きいと認識しているよ。ついては――」


 合図をすると、控えていた職員が俺たちのところにやってきた。持っていた箱を開け、そこに収められたネックレスを取り出す。


 俺とアルモアには黄水晶シトリン級。

 フィロエには無色水晶クリア級。

 冒険者タグの付いたネックレスだ。


「イスト氏、アルモア氏、それからフィロエ氏の3名を正式に冒険者と認め、それぞれの階級の証を交付する」

「昇級だ……やった……!」


 小さく拳を握ったのはアルモアだった。彼女が感情を態度に表すのはとても珍しい。

 両親に憧れて冒険者を志した彼女だ。夢が一歩進んだことで喜びもひとしおなのだろう。


 シグード支部長の視線が俺に向く。


「特にイスト氏は、事件解決の功績とあわせてミニーゲルからの推薦状が添付されていることを考慮し、僕の権限で無色水晶級を飛ばして黄水晶級のランクを交付させてもらった。グリフォーとの共同作戦も不可能ではなくなったね」


 俺は冒険者タグを手の平に乗せた。

 この俺が冒険者、しかもいきなり色付きか。

 まさか、能なしとして追放された元ギルド職員がここまでくるなんてな。

 わからないものだ。


 支部長が口元を緩めた。


「君たちなら、六星水晶スタークオーツ級も夢ではないかもしれないね」

六星水晶スタークオーツ級?」


 冒険者の仕組みにうといフィロエが首を傾げる。

 俺は説明した。


「六星水晶級ってのは、冒険者の最上位ランクだ。世界に指で数えるほどしかいない、まさに生きる伝説といっていい連中のことだよ」


 冒険者ランクは全部で6つ。

 上から順に六星水晶級、白月水晶ムーンクォーツ級、黄紫水晶アメトリン級、紫水晶アメジスト級、黄水晶シトリン級ときて、一番下が無色水晶クリア級となる。


 シグード支部長が説明をいだ。


「冒険者タグの交付は一般のギルドにも許されているが、ほとんどが黄水晶シトリン級まで。名だたる大ギルドでも紫水晶アメジスト級までしか交付許可されていない。黄紫水晶アメトリン級以上の交付は、我々ギルド連合会の専権事項となる。つまり、それだけ取得が難しく、名誉ある称号と言えるね」

「私、無色水晶級……一番下なんですね」

「許してくれたまえ。これが通常の扱いだ。イスト氏が例外なのだよ」

「いえ。大丈夫です。むしろ燃えてきました!」


 握り拳を作って立ち上がるフィロエ。


「これから頑張って、必ずアルモアさんに追いついてみせます!」

「ちょっと。なんで私だけ? イストは?」

「イストさんは六星水晶スタークォーツ級までいくに決まってますので、私はその次でいいです」


 おいこら。勝手に人を伝説の冒険者に仕立て上げるんじゃない。

 ジト目でにらむが、フィロエは「なにがダメなんです?」みたいな顔しやがった。


 俺たちが騒いでいる間に、ミテラがギルド設立の許可証を受け取っていた。

 冒険者ギルド【エルピーダ】。ギルドマスターには俺の名前がしっかりと記されている。


「ここはシグード支部長のおもわくにありがたく乗らせてもらいましょう」


 ミテラが俺にそう耳打ちした。


「思惑?」

「わざわざ特権を使って私たちを囲い込んだのよ」


 なるほどね。

 ギルドとして登録すれば、少なくとも俺たちはシグード支部長の影響下に入るということか。


「やりがいありそうね」


 てきに笑うミテラ。彼女がいればたとえ支部長相手でもタダで利用されることはないだろう。


 やれやれ。

 本意ではなかったけれど、こうして皆がやる気になった以上、仕方ないよな。


 シグード支部長が再び合図すると、冒険者タグを運んできた職員たちは執務室を退出した。

 室内は俺たちだけになる。


「さて、この場には正式な冒険者とその関係者だけが残ったことになるが」


 支部長が声を落とす。

 ウィガールースのギルドを束ねる男の雰囲気が変わった。

 浮かれていたフィロエやアルモアは、自然と居住まいを正す。

 支部長は言った。


「君たちの次の任務を話そう。僕が【夢見展望】で見た、新たな可能性の内容を」

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