43.【空間拡張】で教室作り
アルモアが両親とロドに別れを告げて数時間後。
「イスト君。着々と予言のとおりになりつつあるわね」
ふとミテラが言った。
なんのことだろうと思っていると、彼女はアルモアを指差し、
「シグード支部長さんのお話。近い将来、あなたがとってもかわいい女の子を
「……なんか言い方にトゲがないか?」
「そうかしら」
すっとぼけるミテラ。
――俺たちは今、ミニーゲルを
新しい仲間、精霊術師であり
皆とうまくやれているかどうかは……まあ、そこそこといったところだろうか。
出会った当初より改善されているけれど、それでもまだ人付き合いは苦手なようだ。
その証拠に。
エルピーダ孤児院の子どもたちがグイグイとくるその押しの強さに、すっかりたじろいでしまっている。
加えて、アルモアは年齢の割に小柄で幼く見えるから、リギンやナーグといったお調子者が、まるで年下に対するように遠慮なく接するものだから、苦手意識を持ってしまったようだ。
とはいえ、なあ……。
将来的に立派な成果をあげようとしている駆け出し冒険者の少女が、いつまでも他人とのコミュニケーションを避けているのはよくない。
悪ガキどものやりすぎは注意するとして、せめてエルピーダの子どもたちとは良好な関係を築けるようになって欲しいと思う。これも経験だ。
――そんなふうに考えながら、俺は目の前の作業をこなす。机で書類とにらめっこだ。
向かいにはミテラも同じように事務処理にあたっていた。
俺たちが取り組んでいるのは『教材づくり』だ。
いくら孤児院は自由だといっても、子どもたちを無学のまま世間に放り出すわけにはいかない。
そこで俺やミテラが教師役になり、最低限の学びの場を作ろうと考えている。
「うーん……」
ミテラがペンを口元に当ててうなっている。教材の整理はひととおり終わっているので、悩んでいるとすればひとつ。
教えるスペース、つまり教室の確保だ。
エルピーダ孤児院は俺や子どもたちが暮らしていくには十分な広さだが、皆が集まって授業をするとなると少し
授業のたびに内装の変更をするのは面倒だし負担も大きい。
ましてやウチには落ち着きのない問題児もいる。
家の中で奴らがきちんと勉強するかと言われれば、はなはだ疑問だ。
ミテラが意見を言う。
「どうする? ウィガールースでどこか部屋を借りる?」
「うーん。それだと街に戻ったときしか授業できないからなあ」
「そうよねえ」
『あのう……』
そのとき、レーデリアの結晶がふよふよとやってきた。
「レーデリア、どうした」
『もしかしてお困りですか?』
「ああ、ちょっとスペースがな……あ」
しまった。
これじゃあレーデリアの内部が狭いって言ってるのと同じだ。
そうなったらこの子のことだから、『我はゴミ箱ぉーっ!』と
『あ、あの。それでしたら、ひとつご提案が』
――違いない、と思っていたらレーデリアの方から提案。
あれ? 珍しいな。
『【空間拡張】を使用されてはどうでしょう』
「空間拡張?」
『はい』
彼女が言うには、スキル【空間拡張】を使用するための力がたまったので、俺に報告と使い道の相談に来たらしい。
ミニーゲルでの事件を解決したことで、一時的だが多くの人間の生命力に触れる機会を得たことが影響したそうだ。
「渡りに船とはこのことね。イスト君」
「ああ。レーデリア、さっそくスキルを使いたいんだが」
『わ、わかりました。ではこちらへ』
目の前にはなんの
「あ、先生だ」
「どうしたのせんせー」
「そこは壁よ? じっと見て、なにかあるの?」
めざとく俺を見つけた子どもたち、そしてアルモアがやってきた。
若干名、残念な人を見る視線が混ざっているのはツライ。
『そ、それでは失礼しますマスター。よいしょっと』
レーデリアは俺の胸元にぴったりとくっつく。
「あ、レーデリアちゃんずるい」
『はわわ……いえ、そんな大それたことをするつもりではッ!』
……なんの話をしている。
「で、こっからどうすりゃいいんだ?」
『はい、あの。これからここに新しい部屋を作りたいと。ですからどうぞ。イメージしてください』
ざっくりだね。まあいいが。
とりあえずエルピーダ孤児院の建物を創り出したときと同じ要領で目を閉じ、強くイメージする。
ひとつひとつの内装を思い浮かべていくうち、胸元からレーデリアの力が流れ込んでくるのを感じた。
『来ています……! いってます……!』
どことなくレーデリアの声が
しばらくして、背後から子どもたちの声がした。
「おおーッ!」
すげぇ驚いている。
俺は目を開けた。
目の前の壁にいつの間にかぽっかりと穴が開き、奥行きのある四角い空間が続いていた。
まるで職人の手作業を時間を早めて見ているように、地面からひとりでに長机や長椅子、教壇が組み上がっていく。
子どもたちが声を出したのもわかる。
すでに孤児院の建物を創った経験のある俺でも、思わず舌を巻く光景だった。
ものの10数分で立派な内装ができあがる。イメージしたとおりだ。
入口から突き当たりにある大きな窓など、外の景色までばっちり再現されているほどの完成度だ。
いや、あらためてすごいなレーデリアの力は。
後ろの子どもたちもきっと同じ感想を持ったはず――。
「イストせんせーすごーい!」
「へ? いやこれはレーデリアが」
「さすがイスト先生だな」
「や、ちょっと」
「細部まで完璧じゃない。これはおそれいったわ先生」
「だから」
「……やっぱりあなたはすごい力の持ち主。そんな
「その、な」
「これって教室じゃーん。勉強やだー」
「勉強はしなさい」
にこにこと――一部不満そうに頬を膨らませる子はいたが――子どもたちが俺を見上げてくる。
うーん……。
また意図せず周りの評価が上がってしまった、のか。
せめて俺だけでも。
「すごいぞレーデリア」
『我のようなゴミ箱にそのような言葉はッ!』
う、うー……ん。
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