37.君のスキルは贈り物(ギフテッド)


 天の声が俺の頭に響いてくる。



《レベルアップしました。23→24

 レベルアップしました。24→25

 レベルアップしました。25→26

 レベルアップしました。26→27

 レベルアップしました。27→28

 レベルアップしました。28→29

 レベルアップしました。29→30

『サンプルLv2』の効果により、取得経験値の半分をアルモア・サヴァンスに分与します》



「なに、これ……レベルが」


 かつてのフィロエと同じような反応をするアルモア。


 俺は長い息を吐いた。

 背筋には冷たい汗が流れている。

 万能感や達成感よりは、巨大な力が暴走せず発動してくれたことへの安堵あんどの方が大きい。


 フィロエの【閃突】もそうだったが、なんつう威力だ……。


 これで一気にレベル30か。

 経験値が入ったということは、相手はモンスターであったということ。しかも『パープルスライム』より経験値が多い。

 黄水晶シトリン級冒険者たちがもはや人間ではないことを、こんな形で思い知るのはつらい。

 超レアモンスター以上の存在に人間を作り替えてしまうなんて、この場所はいったいなんなんだ。

 室内を見渡しても、俺の疑問に答えてくれるものはない。


 今は気持ちを切り換えるしかない。


「イスト……」


 目を大きく見開いて、アルモアが言った。

 まだその場にへたりこんだままだ。


「あなた、精霊術師だったの? 父さんの最大魔法を、あんな簡単に再現するなんて……すごいなんてものではないわ」

「いや。正直に言うと、精霊魔法はおろか魔法そのものを使ったのもはじめてだよ」

「なんですって!?」


 アルモアは立ち上がった。

 駆け寄ってくる。


 そしてなぜか――俺の身体をぺたぺたと触る。


 そのほかにも叩いたり、もんだり、服をめくったり――って、やめい。


「ご、ごめんなさい。気が動転して。なにか特別な工夫があるのかと……」


 アルモアは咳払いをした。


「本当に驚いた。あなた、すごいひとだったのね」


 純粋な尊敬のまなざしを向けられる。

 俺は例によって申し訳ない気持ちになった。


 本当に才能があるのはアルモアであり、彼女の父親だ。

 だから正直に白状した。


「俺はギフテッド・スキル【覚醒鑑定】を持っている。このスキルがあれば、他人のギフテッド・スキルを解放したときに、回数制限付きで、そのスキルをコピーできるんだ。だからさっきのあれは本来、君の力なんだよアルモア。俺はその力を借りただけだ」

「そう、なの。でも、それでもギフテッド・スキル所持者なのは本当なのね……。これまであなたのこと、正直少し、あなどっていた。でも見直した」


 まあ、その。

 むずがゆい。

 いまだに称賛を受けることに慣れないのは、もはや俺の性分しょうぶんなんだろうな。

 俺は俺のできることをするだけだった。

 アルモアの才能を解放し、彼女が無事なら、それでじゅうぶんだ。


 俺があいまいに笑っていたとき、ふとアルモアがなにかを思いついた。


「待って。イストはさっき、『【覚醒鑑定】は他人のギフテッド・スキルを解放する』って言ったわよね」

「ああ」

「……私も?」


 自分を指差すアルモア。

 その表情は、なんというか、申し訳ないけど笑ってしまうほどすきだらけだった。

 ミティがやりそうな仕草と表情と言えばわかりやすいか。


 俺は力強く「そうだよ」とうなずいた。

 アルモアは目を伏せた。細い二の腕をさする。俺に背を向け、うろうろと辺りを歩き出した。


「信じられないかい、アルモア」

「……」


 アルモアは、『白光爆波アストラブリッツ』によって元冒険者たちが消し飛ばされた場所に立った。


「この凄まじいスキルと同じ力が、私に」


 アルモアはぽつぽつと話しはじめる。


「私の両親はどちらも素晴らしい人だった。今でも尊敬しているし、目標にしたいほどはるか高みにいる存在だった。けど、それでも両親はギフテッド・スキルの持ち主じゃなかった」


 俺を振り返る。


「ねえイスト。私、どうすればいいのかな。父さんや母さんでさえ授けられなかった力……私は、どうやって受け入れればいいのだろう」


 心からの言葉なのだと思った。

 正面から悩みをぶつけてくれたことに嬉しさを感じながら、俺はアルモアに問いかけた。


「負い目を感じてる? こんな自分が、両親を差し置いてギフテッド・スキルを持つなんて、と」

「……」

「俺はもっとシンプルに考えていいと思う。アルモアのスキルは、まさに贈り物ギフテッドなんだ。両親が心から君のことを想い続けてくれたからこそ、得られたものだと思う。そんなギフテッド・スキルを胸を張って使いこなすことはご両親の願いでもあるんじゃないかな」

「父さんや母さんの願い……」

「少なくとも、俺は将来自分の子がギフテッド・スキルを持っていたら、それを自分のため、世界のために自信を持って使って欲しいと思うよ」


 俺がそう言うと、アルモアは赤くなった。

 ……なぜ?


「ありがとう。なんだかあなたの言うように、本当に自信が湧いてきた」


 アルモアは眉を下げた。


「それにしても、あなたは不思議ね。まるで教師みたい。誰かを導くのが上手」

「いちおう、皆からは先生と呼ばれてる。孤児院の保護者だから意味は違うけれど」

「そっか。イスト先生か」


 アルモアは笑った。


「それじゃあイスト先生。私もあなたのような精霊魔法が使えるのかしら」

「むしろ、修練を積んでいる君のほうが俺より強力な魔法を使えると思う」

「あなたよりすごいかはわからないけど……うん、イメージは湧いてくる。不思議な感覚」


 両手を広げる銀髪少女。

 精霊たちが集まってきた。術師がかもしだす強力なオーラに引き寄せられているのだ。


 アルモアは精霊たちに静かに語りかけた。


「皆、私の声を聞いて。私には助けたい人がいる。えたい人がいる。安心させたい人がいる。恩を返したい人がいる」


 ちらりと俺を振り返る。


「その人たちのために、お願い。私に力を貸して。――ギフテッド・スキル【精霊操者】!」


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