第206話 愛 ノ 形
マンデイの手が入ったメロイアンは、いままでにも増して活力に満ち溢れているように見えた。
働けば手形が渡され、手形は俺が創造する金や財宝へと変わる。狂鳥のためにと盲信的に働いていた市民には形ある報酬を約束され、食事も安定して手に入るようになった。
最初からマンデイに介入してもらえばよかったな。自分がツテで勇者に選出された無能野郎だということを、すっかり忘れてたよ。
「ファウスト」
「なんでございましょう、マンデイ様」
「それ止めて。気持ち悪い」
「あっ、ごめん。つい。で、なに?」
「街の建造物をより強固にする方法がある」
「俺の創造以外で?」
「いままでのファウストは周囲の生き物に与えてきた。強い体、未来、安定した生活。でもこれからはそれだけじゃいけない。庇護する対象は増えたのにファウストは一人」
言いたいことはわかるが話が見えん。
「つまり?」
「ファウスト以外にも働ける生き物がいる」
「と、言いますと?」
マンデイの考えはこうだ。
当初の予定では、建物のベースを市民の皆様に建築してもらい、仕上げは俺の創造する力でする予定だった。
だが、その手法では結局、俺が現地に赴いて魔法を行使する羽目になるわけだ。メロイアンはそれなりに広い。【大風車】による発電などで魔力は確保しているものの、それでも時間と労力がいる。
ならば土地魔法でガッチガチに固めて、俺産の建材並みの物を造ればいいじゃないか。
という作戦である。
「なるほど。考えは理解できたが、その土魔法は誰が使うのさ。土魔法って言ったらムドベベの旦那だけど、あのおバカちゃんにそんな細かい作業が出来るか?」
「ノームがいる」
あぁ、すっかり忘れてた。いたな、そんなの。
「でもさ、街づくりに協力してくれるかなぁ」
「その気にさせればいい」
「どうやって?」
「知らない」
えぇ……。
「知らないってお前……」
「嘘でたぶらかすのはファウストの特技」
時々思うんだけど、マンデイのなかで俺ってどう言うキャラなんだろうか。たまに爆弾投下してくるんだよなぁ。
たぶらかす、か……。
間違ってはないんだけど……。
「出来るかなぁ」
「出来る。ファウストの嘘はその辺の詐欺師より巧み」
……。
なんか表現が一々気になるんだよなぁ。
「ねぇ、マンデイ」
「なに」
「ちょっと訊きたいことがあるんだけどさ」
「うん」
「俺のこと、好き?」
「好き」
「うん、ならいいんだ。なんの問題もない」
「そう」
好きならいいんだ。好きならな。
早速、アスナからノームの情報収集をしてみた。
――力をもった子供、そんな感じかしら。
ノームを一言で表現するとこんな感じらしい。魔法にはひたむきで、基本的には尊敬するアスナの指示には従順らしいのだが、面倒なことは嫌い。物の好みに関しては不明。なにを食って、日々をどう過ごしているのかもわからんらしい。
アスナとノームが会うのは週に一回程度。アスナが魔法を教えて、ノームがそれを聞く。以上。
プライベートな会話はなく、ただ魔法に関する情報交換だけが行われる。
「意外と浅い情報しかなかったな」
「アスナもノームの性格をまだ掴みきれてないのかもしれない」
一抹の不安を抱えつつ、アスナに教えてもらったノームの住処に飛んで来たわけだが……。
「寝てんな」
「うん」
「起こしてみる?」
「精霊は怒らせない方がいい」
「だな。日に何度か訪ねてみるか。いつか起きるだろ」
「うん」
精霊ノーム。
そう聞いて俺が想像していたのは、玄関や庭に飾られる陶器の人形だ。とんがり帽子をかぶって白ヒゲを生やした小さなおっさん。
だが目のまえにいたのは、なんとも形容しがたい形をした、半透明の生き物だった。
特徴としては水棲生物に近いかもしれない。体毛はなく、外皮の色は騙し絵のようにみる角度によって変わる。淡いピンクだったり、薄い水色だったり。
全体的にふくふくとした印象で、輪郭は丸っこい。体で特徴的なのは大きく発達した前足と長い尻尾。後ろ足は確認できない。
「なんかブサカワって感じだな」
「うん」
顔だが、無理矢理に例えるなら、コウモリとブタとハムスターを足して三で割ったような感じだろうか。
といって、俺が表現した特徴をもとに絵を描けと指示されても、ノームが完成するとは思えん。
どの生物とも違う形の生き物であり、とにかく形容しがたいのだ。
しばらくブサカワなノームの体や顔を観察して、さぁそろそろ帰って働こうかとマンデイと話していると、突然、ノームが目を覚ました。
「誰ぇ?」
見た目はそこそこ可愛いんだけど、体のデカさと魔力の保有量、他の生物にはない独特の存在感があるから、それなりに怖い。
「どうも初めまして。僕はファウスト。ノームさんですね?」
「うん、ノームだよ」
雰囲気はとても緩い感じだ。
どっかの森の妖精を
「僕はアスナ・ビズ・レイブの息子であり一番弟子です。アスナをご存知ですか?」
「知ってる。綺麗な魔法を使う金狐人だねぇ。ボクに魔法を教えてくれてるんだよぉ」
「えぇ、母から聞きました。あなたは優秀な生徒らしいですね」
「優秀? それはアスナが言っていたの?」
「えぇ、とても上手に魔法を使うって」
「そうなの? うれしいなぁ。うれしいなぁ」
「僕の次に魔法を使うのがうまい」
「ん?」
「だから、アスナの弟子で一番魔法が上手なのは僕で、その次にノームさん、あなたなんですって」
「……」
乗ってくれるかなぁ、挑発に。
なんか争いを好まないみたいな情報があったし、もしかすると【負ける】ということに対してあまり抵抗がないのかもしれない。
「そうなんだぁ、すごいんだねぇ、君」
ダメだったか。
無理に冷静さを演出している感じもないから、本当に悔しいと思っていないんだろうな。魔法には興味がある。だが誰かと比較してどうだとか、そんなことには一切の興味がないんだろう。自分をどれだけ高められるか、その一点に着目している。
で、あれば次の手だ。
「そんな優れた魔法を行使する僕だからこそ、いまのノームさんを見ていてこう思う」
「ん?」
「勿体ない、と。あなたはもっと美しい魔法を手に入れることが出来る。兄弟子たる僕ならその道を切り開くことが出来るでしょう。ちょうどメロイアンが生まれかわろうとしている
「なにをするの?」
「土魔法を利用して街を造るのです」
「街を、造る!?」
おっ、目がキラキラし始めた。この促し方が正解だったみたいだ。
誰かを動かしたいと思った時、相手が大切にしている物や価値観を知っているか知らないかでは雲泥の差がある。美しい魔法を手に入れたいと思っているノームにはその方向性で話を進めればいいのだ。今回はアスナの事前情報があったから、わりと楽だったな。
「詐欺師……」
隣でマンデイが呟いた。
「マンデイ」
「なに」
「もっかい確認するけど、本当に俺のこと好きなんだよね?」
「うん、好き」
ならいいんだ。好きならばOKでーす。
魔法の上達をエサにノームを釣った俺は、彼? 彼女? を引き連れてメロイアンに移動した。
ノームはふわふわ宙に浮かびながらゆっくり移動することしか出来ず、しかも半透明の体は抱えることも引っ張ることも出来なかった。速い移動に慣れている俺からするとけっこうなフラストレーションだ。
毎度毎度これをしていたらストレスで髪の毛が抜けそうな気がしてくるから、ノーム運搬専用の飛行船なんかを創造してもいいかもしれない。
早速だけど建物を硬くして頂こうかと思っていたのだが。
「ふぁ~。眠たくなってきちゃったよぉ」
とのこと。
ノームの睡眠時間はとにかく長い。
元々メロイアンから外れた森の洞窟を拠点にしていたノームだ。こんな街中で眠るのは嫌だろう、と、寝床を創造してあげた。
モデルは洞窟。暗くて涼しくて静かな場所だ。
「うわぁ、すごい。これは土魔法なの?」
「いや、属性魔法じゃない。【創造する力】っていう特別な魔法ですよ」
「ボクも使えるようになる?」
「無理だと思う。これは神様からのギフトだから」
「そっか。残念だよぉ」
あと一人くらいこの能力を使える奴がいれば仕事がはかどるんだが、さすがのノームでも創造する力の習得は無理だろうな。
教えてやりたい気持ちはある、でも生まれた時から創造する力を授けれらていた俺は、後天的にこの魔法を習得する方法を知らない。ていうか、死ぬほど苦しい思いをして手に入れた魔法を、後天的に入手できますよって言われたら、グレる自信がある。管理者に助走をつけて殴りかかるレベルでキレるだろう。
「で、どうですかコレ。洞窟の環境を再現してみたんだけど」
「ちょっと乾燥してるかなぁ」
乾燥か。それは考えてなかった。
すぐさま加湿器を創造、寝床に設置。
「どう?」
「ファウストは本当にすごいんだね」
「ノームさんの兄弟子ですから。一応、神に選ばれた人間でもあるし」
「そっかぁ」
ノームの懐柔には成功した。もしノームが外壁や建物を強固にしてくれるのなら、俺の手はいらなくなる。今後の動きがだいぶ楽になるだろう。
ちょっと余裕が出来そうだし、俺はチマチマ武器防具や褒賞品を創造したり、地下施設の建造に着手するとしようかな。
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