第203話 内輪揉メ
合流して間もないヨキに頼むのは申し訳ないのだが、可能なら早いタイミングでルーラー・オブ・レイスと会ってもらいたい。
フューリーに聞いただけで、実際に会ったわけじゃないからなんとも言えないところはあるが、ルーラー・オブ・レイスはレイスの王であり、その規模は一般的なレイスの比にならないらしい。そんな奴がもし砂の体の操作方法を憶えたら、たぶん敵なしだ。
砂嵐や台風、その辺の自然災害を、広範囲かつ自由に発生させられるようになるかもしれないと言えば、その脅威度が伝わるだろう。
メロイアンの防衛と社会インフラ、市民の生活の質の向上の
「すみません、ヨキさん。せっかく合流したのにすぐまた厄介なお願い事をしちゃって」
「かまわない。それにレイスの王にも興味がある」
さすがヨキだ。頼りになる。
「一人じゃ寂しいだろうから、ゴマを連れて行ってください」
「あぁ、そのつもりだ」
「ついでにリズさんにも頼んでみましょうか。ヨキさんのお供と言えばリズさんみたいなところがありますし」
「それは断る」
ん?
「なぜです? いままで一緒に旅をしてきたじゃないですか」
「お前もあの悪魔と行動を共にすればわかる。焚き火に飛び込んでくる羽虫並みに計画性がなく、間が抜けていてなにをするか予測がつかん。一瞬たりとも油断が出来きない。今回の旅の最大の敵は飢えでもゴブリンでもなく、頭をふればカラカラと音がなる能無しの悪魔だった」
言い過ぎでは? それはさすがに言い過ぎでは?
「あの悪魔はファウスト、お前だからこそ
「そ、そうですか」
「代わりと言っちゃなんだが、アイツを連れて行きたい」
「アイツ?」
当然だがヨキが離れるのは大きな戦力ダウンになる。そのうえ。
「そういうわけなんだマグちゃん。ヨキについて行ってくれないか? ルーラー・オブ・レイスと合流するまでの護衛をして欲しい」
「わかっタ」
マグちゃんまで失うのは辛い。
だがリズやヨキが俺と離れて成長したように、マグちゃんにもまだ伸び代があるかもだ。なにをするにしろプラスの面とマイナスの面がある。ポジティブに考えよう。
もし、ヨキとの旅で精神が成長したマグちゃんが、視野の広さや冷静さを獲得できたとしたら、後々の戦いが楽になるかもしれん。
「それではヨキさん、旅の仕度をしますので少しまっていてください」
「いや、その必要はない」
「なぜです?」
「お前の行動が読めるからだ。またわけのわからん物を造り、移動のコストを上げる。必要最低限の荷物だけで充分だ」
まったく……。
ヨキはなにもわかっていないな。
「マグちゃんの体重比の消費カロリーは僕やヨキさんとは比べ物になりません。体が小さいし、飛行にかなりのエネルギーを使うから、頻繁にご飯を食べなくちゃいけない。それに体も脆いから敵がうようよいる場所での戦闘は僕ら以上のリスクを負うことになる。リズさんが必要とするアイテムより多くの物を必要とするんですよ?」
「把握している。マグノリアとの付き合いは長いからな」
「では旅の仕度に気を使わなくてはならないことは理解できますね?」
「理解はしている。だがお前は過剰だ」
ちっ。
あぁ言えばこう言う。まったく面倒な奴だ。
そんなこんなで旅の仕度を始めたのだが、ヨキの野郎、まるで小姑のようにあれこれ口出しをしてくる。
「なにを造っている」
「バトミントンセットEXですけど?」
「なぜそれが必要だと思うのだ」
「ヨキさんとヨナさんが退屈するといけないので」
「いらん」
「なぜです!? 退屈は最大の敵じゃないですか!」
「阿呆が! 遊びじゃないんだぞ!」
「シリアスな場面こそ遊び心を! そんな簡単なこともわからないんですか!?」
「それを持ち運ぶ俺やゴマの身にもなってみろ!」
「ヨキさんのバカ! アホ! 間抜け! 移動が大変だからこそ
「だからと言って余分な物が増えれば負担になるだろうが!」
「あぁそうですか! まったくヨキさんは本当にわからず屋だ!」
「……」
「……」
「で、次はなにを創造してる」
「お香セットです」
「いらん」
「はぁ!? 旅をするとストレスがたまるでしょう!」
「だからなんだ!」
「だからお香セットが必要なんです! 厳しい旅の一服の清涼剤、それがお香セットなんだッ! 見て! こんな小さいんですよ?」
「いくら小さい物でも、お前のようにいくつも造ればたいした荷物になる。そんな使うか使わないかもわからん物をもっていく余裕はない」
「わかりました。百歩譲ってお香セットを使わないとしましょう。しかしこのお香セットを売ればそれなりの値段になります。路銀としてもっていけばいいじゃないですか!」
「なら鉱石の方が使い勝手がいい」
「鉱石で心の疲れは癒えないでしょうが! このあんぽんたん!」
「いらんものはいらん! いい加減にしろ、過保護鳥!」
ホーリーシット!
これじゃあまるでなんでもイヤイヤ言う幼児と一緒だ。
結局、ヨキたちの旅のために造れたのはわずかなアイテムだけ。残念でならない。
「ごめんな、マグちゃん。これしか造れなかった」
「充分」
なんていい子なんだマグちゃんは。こんな装備じゃ心もとないだろうに、俺に気を使って……。
「ちゃんとご飯を食べるんだよ?」
「わかってル」
「危険なことはしないようにね」
「うン」
「虫の代表者はマグちゃんの心を乗っ取って意のままに操るんだ。虫の領土には侵入しないように」
「何度モ聞いタ」
「毒の多用も厳禁。マグちゃんの体にストックされてる体液は少ないから、使いすぎると貧血になるからね? それと本当に危なくなったらヨキとヨナを盾にするんだ。アイツらは簡単には死なない。マグちゃんは体が弱いってことを自覚しなくちゃいけないよ?」
「それヲ聞くノ、六回目」
「わかった。もうなにも言わない。最後にこれを受け取ってくれ」
「?」
「ボディーアーマーと防塵ゴーグルだ。いままでの物より若干重量はあるけど、我慢できる範囲だと思う。ヨキの体に使っている砂の体の技術を応用しているから、ヨキがいる限りは何度も再生できる。使い方だけど、病弱な娼婦が無垢な青年と恋に落ちる悲恋の物語調に解説しているから、是非とも読んでみてくれ」
「……、わかっタ」
こんなやりとりの末、ヨキたちを見送った。
草原の小姑ヨキのせいで無駄にイライラして別れにはなくてはならなかった。まったく……。
いや、考え方を変えれば、まだまだ仕事は山積しているし、変に感傷的にならなくてよかったかもしれない。
こんな別れ方だったからこそ、すぐに気持ちを切り替えられる。
「さっそくだけど、マンデイ。拠点造りから始めよう。メロイアンの中心部に近い地点を選んで天守閣を創造する」
「天守閣?」
「主にゲノム・オブ・ルゥが生活する場所だね。当面は風力発電と光による発電をメインにしようか」
「それでは発電量が不充分」
「わかってる。あくまでもインフラが完成するまでの話だ。当面は天守閣での発電と、水の拠点【大風車】で発電したエネルギーを利用して動く」
「?」
「最終的にはガス発電に移行しようかと考えている。これからの世界は食糧難になるだろう。だから肥料を造りつつガスを採取してそれで発電するんだ」
「どうやって」
「排泄物だよ。市民の排泄物を天守閣の地下に集めて、微生物を使って分解と発酵させる。微生物のデザインはメタンのような気体を発生させつつ、排泄物を肥料に変質させるようにしよう」
「簡単には造れない」
「承知している。でも俺とマンデイなら創造できるはずだ。いままでだってそうだったじゃないか。何度も何度も繰り返して完成に近づけていこう。それと並行してダイソン殻の創造にも着手する」
「ダイソン殻?」
「スペースコロニーだと考えてもらっていい。光を吸収する
「想像できない」
「イメージを送るから導線を繋げて」
「わかった」
そろそろ侵略者との最終決戦が見えてきた。
たぶん俺がまだ知らない規格外の化け物が存在している。気持ち悪いのは行方の知れぬ明暗の前・代表者である聖者ワトや悪魔アゼザル。軍神シヴァや国呑みなんかも気になる。そして最も戦いたくない相手、稀代の魔術師ル・マウも敵方に。
そんな化け物共が相手だとすると、いまの装備では安定して勝てないだろう。
自分を鍛えたり、スーツなどの装備ではどうしても限界がある。
ゲノム・オブ・ルゥは対策必須の変態集団だが、それでも勝てない奴らはウヨウヨといるはずだ。彼らの力を最大限に発揮させるためには奥の手がいる。危険な状態に陥っても冷静に動くためには心の余裕が必要なのだ。奥の手がある安心感が欲しい。
「ともあれ俺たちだけでどうにかできる問題でもない。仁友会、メロイアン・コネクション、ランダー・ファミリーに協力を要請しよう」
抗うつ剤、壁、食糧、学校、病院、メロイアンに蔓延している性病や肺病の特効薬、武器防具、薬物やアルコール中毒者のための療養施設も必要だ。
なんか久しぶりだな、この感覚。
不干渉地帯に逃げた時にもこんな感じだった。
やることが多すぎて、どっから手を付けていいのかわからないこの感じ。
やれやれだ。
頭を抱えたくなる。
だが忙しいのは、嫌いじゃない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます