第163話 送リ物
【エア・シップ】を牽引してくれるイバリ一家と人手を獲得した俺は、すぐに次の目的地であるメロイアンに飛ぶ。
ダラダラしている時間はない。いつもメロイアンを訪問する時は【エア・シップ】を近くの山に待機させてからにしていたのだが、今回は時間がないから別の手段をとることに。
「なんだありゃ!?」
「おい! 人を集めろぉぉぉおお! よくわからんがとりあえず墜とすぞ!」
「うぉぉぉおおお!」
よくわからないものをなんの躊躇もなく撃墜しようとするのはさすがメロイアンのクオリティだと言える。とりあえず落としてみる、考えるのはそれからだ。
残念だがこの愛くるしいアホ共に付き合ってる時間はない。拡声器を使って住民に声を掛ける。
「私は狂鳥ファウストだ。いますぐにメロイアン・コネクションのサカ、仁友会のバーチェット、ランダーファミリーのウォルター・ランダーを連れてこい」
これでどうだ。
「うぉぉぉおおお!」
「きょ・う・ちょう、きょ・う・ちょう、きょ・う・ちょう」
「愛してるぞぉぉぉおおお! 狂鳥!」
「抱いてっ! 狂鳥!」
いや、俺が悪かった。この生粋のアホ共とまともに会話ようとした俺がバカだったな。コイツらは思い通りに動いてくれないんだ。
「マンデイ、ハク行くぞ」
「うん」『ぐjkうt』
ハクにリュックを背負わせて、マンデイには獣の【セカンド】フタマタを抱えさせてダイブ。
これが緊急脱出用スーツ【ダイバーN1】の初実戦投入の機会だったのだが、品質は問題なし。失敗は命の危機に直結するだけに何度も試作とテストを繰り返した品だ。安心して使える。
まずは両親への挨拶をする。
「ちょっとデルアの援軍として飛ぶことになった。またフタマタをお願いしたいんだけどいい?」
「えぇ坊っちゃん、構いませんよ」
獣にフタマタを預けるのも考えないではなかったが、やはりテーゼの方が安心できる。なんたって凄腕の家政婦だし、フタマタの表情を見ていてもテーゼに心を許しているのがわかる。
テーゼは非言語的なコミュニケーションが得意だ。相手が赤ん坊や言葉が喋れない獣相手だと、その能力がもろに発揮される。表情や空気感から相手の考えや望みを読み取って最適な行動をしてくれるのだ。
「危険なの?」
「合成虫のゴブリンらしい」
「合成虫?」
「知る人ぞ知るって感じだと思うよ。対策は練ってるから大丈夫。死なないように立ち回る」
「そう……」
子の身を安全を憂う親の憂いは俺も理解できる。
もしデルアが侵攻されたら不干渉地帯は……。息子のガイマンは……。
「すみません、母さん。すぐに行かなくては。これは【ホメオスタシス】という寄生虫。もし時間があったらフタマタの訓練をお願いしたい。根性のある子だけど、あまりに嫌がるようならすぐにやめてね」
「訓練?」
「【ホメオスタシス】の使い方と訓練の仕方はこの箱のなかに入れてるよ。わかりやすくマンガにしてみました」
「マンガ?」
「うん、ホメオ君とスタシ―ちゃんが簡単に使い方を説明してくれるから」
「よくわからないけどわかったわ」
後はマリナスだ。
「父さん、僕がいない間、家族をお願いします」
ハクの背中に乗せてきたの荷物を置く。
「自衛のための武器や道具。電気を起こせるステッキや、摩擦係数を限りなくゼロに出来る泡を排出する機械、カウンターが可能な盾などを造ってみた。説明書を同封しているから読んでみてね」
「おぉ、すまんな、ファウスト」
「……」
「これだけあればどんな敵が現れても大丈夫だなぁ、ハハハハ」
ダメだ。目が$になってる。たぶん売られてしまう。
「母さん、この道具が売られないように監視しておいてもらっていい?」
「もちろんよ」
「部下とかにも使わせて使用感とかも聞いててもらえたら助かるよ。一般市民が使いやすい道具がわかると今後のメロイアンの防衛手段を考える時にも役に立つ」
「わかったわ」
家族と顔を合わせるとついダラダラしたくなってダメだ。ミクリル王子や、友人のワイズ君、愛息ガイマンのため一刻も早く出発しないといけないのはわかってる。わかってるのだが、ついつい甘えてしまう。
「よし、マンデイ、ハク、次に行こう」
次の目的地は仁友会のトップ、カリスマ・バーチェット。
「ちょっとデルアに用事があるから行ってくる」
「デルアに?」
「明暗のワト軍からの攻撃を受ける可能性がある」
「君が行く必要があるのか?」
「俺の手がなければデルアは崩壊するだろう。もし崩壊すれば……」
「あぁ、それは理解できるよ。しかし
そうだな。
いままでの俺はどこにも所属していない完全にフリーな体だったが、これからは違う。メロイアンのクソッタレのアホ共のアイコンなんだ。
死ねない理由が増えたな。
「わかってる。ところでバーチェット、貴様の部下には徒手格闘が得意な獣人やドワーフが多いらしいな」
「あぁそうだな。仁友会には男を上げたい奴が集まる。
一見するとインテリで穏やかそうなバーチェットが言うから余計に凄味がある。
「そんな貴様らに布を創造してきた。ぜひ活用してくれ」
「布?」
ハクの背に乗せたリュックから布を取り出して置く。
「説明書を同封しているからそれを読むといい。適切な大きさにカットするとバンテージになる。拳を守り、同時に攻撃力を上げることが可能だ。被服にすればそれなりに防御性能が高くなるが時間がなくてこれだけしか造れなかった。バンテージにする方がいいだろう」
「感謝する」
「後で布の感想を聞かせてくれ。それと自白剤を置いていく。裏切り者を探しだして処刑しろ。すべての組織で似たような事件が起きているところを見るに、敵はすべての組織をまたにかけたチームである可能性が高い。ウォルター・ランダー、サカと協力してことに臨むんだ」
「あぁ、わかった」
「最後にガスパールという男の保護を頼みたい。このまえの決闘で最後まで立っていた男だ。徒手格闘ならかなり上位に食い込む実力者だと思う。いま死なすわけにはいかんが、頼れる相手も限られている。バーチェット、頼めるか?」
「頼まれた」
「助かる。それでは俺は行く」
「なぁ狂鳥」
「どうしたバーチェット」
「いや、なにもない。今度またゆっくりと話そう」
「? わかった。デルアの一件を片付けたらすぐに戻る」
次は薬中フェロモンババアか。
「よぉサカ、達者か」
「えぇ、問題ないわ。どうしたの?」
「デルアが侵攻されるからフォローに行く。その間、メロイアンの治安維持は貴様とバーチェット、ウォルター・ランダーに任せようと思う」
「デルアなんて放っておけばいいのよ」
「そうはいかん。鎮痛剤を売るには需要がいる。滅びたのでは売れない。それに世界情勢が安定したら美容などにも力を注ぐ可能性がある。未来の金づるは保護しておくべきだ」
「さすがは狂鳥ね」
サカも話せばわかる奴だ。しかしボディタッチが多いのには
「そう言えば、貴様の部下には暗殺や裏工作が得意な奴が多いらしいな」
「えぇそうね。仕事柄そういうのが多くなるから。金さえもらえればいいってのが集まるからプロ気質の子達が多いわね」
「そんな貴様には薬を持って来た」
「薬?」
「薬というより、生物と表現した方が近いかもしれない。目に見えないほどに小さな生き物だ」
「それをどうするの」
「感情を殺す薬を創造した時に出来た失敗作だ。実戦で投入するにはいくつかの問題があった。しかし貴様ならうまく使いこなせるだろう。自白剤もある。裏切り者を探し、いま与えた【微生物育成キット】を使ってみるといい。そして後で使用感を教えてくれ。今後運用するかどうかを貴様の感想で判断する」
「へぇ、なんだか面白そうね」
「あぁ。だが、なかには体の内側から筋肉を食べる微生物がいたり、精神を破壊するもの、深刻な後遺症を残すものもある。使い方には充分に気を付けるように」
「ふふふ、ゾクゾクするわ」
お前がゾクゾクすると俺の体の一部もゾクゾクするから少し抑えてくれると助かるよ、フェロモンババア。
【微生物育成キット】は使い方を誤ると、大変危険だ。変な使い方をしなければいいのだが……。
そして最後のお友達はウォルター・ランダー。
「なんだと!? ふざけてんのか狂鳥!」
ウォルター坊やはその
「デルアが崩壊すればメロイアンの組織にも影響が出る」
「知るかよ! あんなクソッタレをアンタが助けるっていうのか? なぁ嘘だと言ってくれよ!」
ランダー・ファミリーはメロイアンでも古参の極道だ。しかも仁友会のように実力主義でトップが変わるのではなく、家族経営。つまりデルア王国とバチバチに争っていたのはウォルター・ランダーの父親や祖父、曾祖父なのだ。
組織の一員が傷つくということは家族が傷つくということ。家族の仇敵は組織の敵でもあり、自分の仇でもある。非常にまとまりがある組織なのだが、感情論が先走り融通が効かないというのが欠点だ。
「貴様らの家族の無念を俺が知らぬとでも思ったか」
「は?」
「俺がデルアを救う。デルア国民やデルア王家は俺を無下には扱えなくなるな」
「あんな奴らのリスペクトなんてクソ食らえだ。そうだろ狂鳥!?」
「俺は別にリスペクトなどいらん。ただ俺の傘下である貴様らランダー・ファミリーはどうだ」
「ん?」
「救国の英雄の傘下であるランダー・ファミリーもデルアからの尊敬を勝ち得るだろう」
「だからそんなものっ!」
「貴様の先祖がなんのために戦ってきたと思う」
「はぁ?」
「名誉のためだ。俺たちはここで生きているという存在証明を拳に乗せて、武器に込めて戦ってきたのだ! ウォルター・ランダー。よく考えてみろ、デルアからのリスペクトは本当に不要か?」
「……」
「熱くなるな。貴様はメロイアンを支えるランダー・ファミリーの親だ。家族のことを考えて行動することだな」
「だけどよぉ」
ウォルター・ランダーはガキだ。感情的で愚直だ。
だからこそだ。だからこそ成長の余地がある。
「ところでウォルター、貴様のファミリーは、武器の扱に長けた者が多いらしいな」
「まぁな、俺らみたいな集団がメロイアンで勝ち残るには武器の扱いのスペシャリストになるのが手っ取り早いんだ」
「そうか、では貴様らランダー・ファミリーには【リボルバー創造キット】を譲る」
「これは!?」
「使い方の説明は同封した説明書を読んでくれ、リボ君とルバーちゃんが優しく使い方を教えてくれる。近距離から中距離で強みを発揮する武器だ。贈り物のなかには自白剤も入れてあるから裏切り者を炙り出しておいてくれ。俺が戻ってきた時には健全なランダー・ファミリーの姿に戻しておけよ?」
「ま、待て狂鳥、俺はデルアのクソッタレを救うことを認めたワケじゃねぇぞ!」
しょうがないな、コイツは。
「貴様の親はデルアに殺されたそうだな」
「な!」
「祖父も、兄弟も」
「だからどうしたってんだ!」
俺はウォルターに近づき、胸ぐらを掴んで膝をつかせると、きつく抱擁した。
「なぁ坊や、俺を親だとは思えねぇか。兄弟だとは」
「……」
「俺は死なねぇよ坊や。その上デルアのクソッタレに頭を下げさせて、○○を舐めさせてひざまづかせてやる」
「……」
体を離し、必殺頭ポンポンをかまして一言。
「俺が帰って来るまでしっかりファミリーをまとめてろよ、坊や」
「狂鳥……」
俺のアドリブ力や極道力もバカにならないと誤解した方がいると困るから訂正しておく。この演出はもちろん、マンデイ先生の指示のもと行われた茶番である。
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