第141話 メロイアン 再ビ

 魔力のすべてを出しきると酔う。


 めまいがしたり吐き気がしたり、人によっては頭痛や記憶障害なんかが起こるそうだ。だが子供の頃からランニングコスト最低の創造する力をギリギリまで使い、アスナの魔法講座に耐えてきた俺は、魔力がないという状態に慣れてしまっている。


 しかも生まれてすぐ地獄の改造を施されたから、魔力の欠乏による体調不良などなんということはない。たぶんあれ以上の苦しみはこれからの人生でも経験しないだろうし。


 以上の理由から俺は魔力の欠乏を苦にしない。むしろ心地良さまで感じ、ハイになる。


 「疲れた」

 「また変ナ物ヲ造っタ」

 「そうだな。変といえば変かもしれん」


 極限まで魔力を吐き出し、完全にハイになっていた俺は厨二心をくすぐる物を造ってしまった。


 振ると刀身がブレて、相手に錯覚を起こさせる刀。実際に刀が震えるのではなく、周囲の光を屈折させるのだ。これはリズのスーツの技術を応用してみた。切れ味はヨキの刀【夜風】ほどではないが、自己修復機能付きだし、そこそこやれる。


 名付けて【妖刀・白夜】。


 この刀の基本戦術はいたってシンプル。ゴリゴリ押す、以上。


 ただ変なテンションで創造したから致命的な欠点もある。


 「見てると気持ち悪くなる」

 「うン」


 幻惑の刀は使い手の感覚も変にしてしまうのだ。


 「まぁ水に送ったら誰かが使えるだろう」

 「そうハ思えなイけド」


 どうにかなるさ。スキュラのマ・カイも帯剣してたし、きっと誰かが使えるだろう。最悪この刀が敵の手に渡ってもそこまで脅威じゃないから安心だ。なぜなら使い手が気持ち悪くなっちゃうからね。


 「あっ、あとマンデイ」

 「なに」

 「暗器を造ったよ」

 「え!?」


 この子は武器関連になると本当に可愛らしいな。


 「投げナイフ四点セットだね。投げナイフ六本、太腿に巻くベルトはもちろん怪我しないようにガードが付いてる。こうやってほら、シュッっと取りだしてパッと投げる感じ。で、これが動く的。昔俺が魔法の練習に使ってたドローンを改良したんだ。当時とは技術力が段違いだから当てるのは難しいと思う。だからこの裏についているスイッチで難易度を調整できるようにしてみました。最後は砥石だね。血液や肉で自己修復する機能はあるけれど相手にヒットするまえに切れ味が悪くなることもあるだろう。だから造ってみた。ちなみにメリケンサックも改良しているからね。投げナイフとシナジーがとれるように」

 「すごい!」

 「だろ? しかもナイフは素材にもこだわってる。獣の骨をベースにして、それを獣の因子ビースト・ファクターで強化した。使ってビックリのクオリティだぞ」

 「ありがとう!」

 「ふっ、いいってことよ」


 いい感じに眠くなったし、創造をして気分も落ち着いた。そろそろ眠ろうかな。明日からは風車と暗殺用スーツの創造だ。


 疲れ果てた俺は泥のように眠った。夢を見る間もないくらい、それはそれは深く眠った。そして目覚めてみるとそこには抜き身の刀を手にしたマンデイが。


 「おはようファウスト」

 「おはよう」


 寝過ぎて頭が痛い。一体いま何時だろう。


 「マンデイ、俺はどれくらい眠っただろう」

 「夕方」


 えぇっと、ほぼ丸一日眠った感じか。マズイな、昼夜逆転しちゃう。


 「で、マンデイはなんで妖刀をもってるの?」

 「この剣を使える生き物がいなかった」

 「かなり使い手を選ぶ仕上がりだからね。で、なんでマンデイが?」

 「食材を切るのに使ってた。でも気分が悪くなる」

 「そうだな。指を怪我したりしたらダメだから妖刀を包丁代わりに使うのは止めなさい」

 「うん」


 俺は一つ学んだ。変なテンションで創造するのはよくない。こんな誰のためにもならないものを造ってしまうのだから。


 「捨てるか」


 なんか使い道なさそうだし。きっとヨキと再会できてもこれを渡すことはないだろう。ヨキは【黒刀・夜風】と【幻刀・朝陽】で完成している。新しい刀をプレゼントしてもしょうがない。


 だが捨てるのはちょっと抵抗があるなぁ。せっかく造ったんだし。


 「売ればいい」


 するとマンデイがこう提案してきた。


 「どこで?」

 「メロイアン」


 なるほど。


 切れ味は保証できるし見た目も美しい。適当に話をでっち上げれば売れんことはないか。きんを使いすぎると物の価値のバランスが崩れるかもしれないし中々いい案かも知れない。でもメロイアンの人とはもう絡みたくないからな。まぁタイミングがあればいつか売ろう。


 さて、風車の創造だ。気合を入れていこう。


 とはいっても俺はマンデイの設計通りに造るだけ。いままでの経験からいうと、こういう複雑すぎる物は自分で考えて創造するよりもマンデイの知識に基づいた設計の方が質が高くなるのだ。


 熱のエネルギーをそのまま魔力に変換していた地熱発電と、風で回るプロペラからエネルギーを得るのでは踏むプロセスの数が違う。俺が何度も実験して質を高めていく間に、マンデイは頭のなかで簡単に済ませてしまうのだ。


 今回、造る風車は二基だから、同一のパーツがいる。だからまず型を創造して、それから本体に取りかかることにした。


 さぁ、勇者とはかけ離れた地味地味タイムの始まりだ。


 「これってサイズは……」

 「それでいい」

 「ちょっと重すぎるかな」

 「風車の質量に耐えられる強度があればいい」


 こんな感じの会話が続く。ひどい絵面である。


 ハクはウトウトと眠ったり欠伸をしながら時間を潰し、マグちゃんは毒の生成と保存をしているのだが、とてもじゃないがこの光景は他所の人には見られたくないものだ。


 俺がもし聖剣とかを授けられた本物の勇者だとして、いや、本物の勇者でなくてもいい、世界を救おうと日々奮闘している生き物だとして、この感じの作業風景を目撃したらどう思うだろうか。たぶんこう思う。え? なにをしているの? ってね。


 いくらなんでも地味すぎる。


 本来は強敵と死闘を繰り広げ、そして戦いのなかで成長し、開けちゃいけない扉を開けちゃって呪われたりなんかしなくちゃいけないはずなんだ。


 フライングスーツ【鷹】からはまだ戦おうという意思が感じられた。魔力変換式攻撃ギアなんていかにも主人公っぽいし、魔法を使ったギミック、子機も戦闘向けだ。カッコいい。


 だが【カラス】を創造したことで完全に道を逸れてしまった。いや、それより以前だ。デ・マウとの戦いで相手を弱らせるという手段に味をしめてしまったのだ。徹底した対面拒否。戦わないで勝つ、楽して勝つ、リスクを負わないで勝つ。


 このままではいけないとは思う。でも不干渉地帯の主を接近しないで圧倒したり一国を相手に引けをとらないって普通にすごくないか? そんな強烈な成功体験をしてしまったらもう後には退けない。


 最後に楽をするには、道中で苦労しなくてはならない。坂道があったら次に来るのは下り坂。それが創造する力だ。


 そして最も恐ろしいのは地味すぎるこの作業が間断なく、延々と続いていくことだ。普通の人間なら精神的に病んだり、飽きてもういいやってなって敵を探したりなんかして俺ツエーしたりするのだろうが俺は違う。


 自慢じゃないが俺は小物だ。小心者でマイナス思考。準備をしているこの期間、不安な要素を埋めていく作業、これが何気に心の支えになったりする。


 そんな地味で刺激のない作業で完成したのが、それはそれは立派な大風車。周囲の生き物にイタズラをされないように電気の網や防護柵を創造して完成。


 塵も積もれば山となる。地味な作業でも続けていればこんなに立派な物が出来上がってしまう。


 次に仕上がったのは暗殺用スーツ【フクロウ】改。初代の【梟】はシェイプ・チェンジををすることにより【蜘蛛】になった。


 コンセプトは消音特化のフライングスーツ【梟】で潜入して、機動力と俊敏性に優れた【蜘蛛】で毒を打ち込んだり殴ったりするというものだったのだが、このスーツには致命的な欠陥があった。


 それ別にスーツじゃなくていいじゃん事案である。


 というのもうちのメンバーにはマグちゃんという秘密兵器がある。超高速で接近、敵に認識されるまえに意識を奪うというクソゲーを仕掛けることが出来るのだ。


 お気づきだろうか。このスタイル【梟】の完全上位互換なのである。


 そしてもう一人、このスーツの存在価値を地の底に叩き落とす子がいるのだ。


 マンデイである。


 水のパワードスーツを着用中のマンデイは、着地の衝撃などを微妙にコントロールしてまるで忍者みたいな動きをすのだ。で、闇に紛れて高火力のトンファーやメイス、蹴りを叩きこむ。もし敵に存在がバレてしまっても問題なし。持ち前の格闘技で乗り切ってしまうから。


 とにかくマンデイはなんでも出来る。頭いいし勘が鋭いし料理上手だし優しいし可愛いし状況判断が的確だし魔法や体のコントロールがヤバい。本当に万能だ。どれくらい万能なのかと言うと、俺のスーツを一着、無価値なゴミに変えてしまうくらい。


 本当に静かに行動したい時くらいしか利用価値がなかった【梟】を救いたい。そして【梟】暗殺向きに進化しました。


 では具体的になにを変えたのか。シェイプチェンジ先を変更した。【蜘蛛】から【】へと。


 このスーツは実に簡単な仕組みである。


 STEP1


 血を吸います。


 STEP2


 卵を生みます。


 STEP3


 爆発します。


 以上。


 このスーツは不干渉地帯に残してきた愛息ガイマンの護衛、粘菌のスーさんの体をモデルにして造った。ドロドロに変形するのだ。


 敵地に侵入して兵に張りつき、経皮的に血液や体液を吸う。もちろん声なんて出させない。口にも張りつくから。


 相手は失血で気を失う。原因が原因だからなかなか目を覚ませないし、この作業中はほぼ無音だ。マグちゃんの毒は敵が倒れる音とかまではどうしようもないが、これなら吸血中は俺が敵の体を支えているわけだから、倒れる音はしない。マグちゃんとは差別化できてる。きっとできてる。


 この工程が終わると血液を利用して卵を産み落とす。これは爆弾だ。


 充分な電流が流れると起爆、周囲の物を吹き飛ばす。爆風が届かないところまで逃げてスイッチをオンにすればいいだけの簡単なお仕事。


 敵は俺の侵入に気すかず、いつもまにか炎に包まれる。爆発まではほとんど無音で行動できるから、派手に暴れるマンデイとも差別化できるはず。うん、できてる。たぶんできてる。


 「さて、準備も整ったし夜が来るのをまって再度メロイアンの攻略に行こうか」

 「うん」


 カッ!


 投げナイフが動く的に当たる。たぶんあれは最高速だろう。よく当たるな、あんなの。


 「すごいなマンデイ」

 「練習した」


 この子は本当に有能だ。なんでも出来ちゃう。


 「だけど室内でナイフを投げるなよ? 危ないからね」

 「外だとドローンが飛んでいく」


 そうだな。君はいつも正しい。

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