第123話 病気 コンプレックス
「と言うことで、俺たちも近いうちに不干渉を出て世界の平和のために動こうと考えている」
「どこヘ行ク?」
「水が統治してる土地だな」
「獣ハ?」
「フューリーからの伝言だ。獣は我が統治する、ファウストはそれ以外の世界の均衡を崩させないように注力せよ。確かにこれだけ世界中が荒れてるのに数限られた代表者が固まって動くのは良くないかもしれない。フューリーは賢い生物だ。同じ過ちは繰り返さない。明暗、虫、魂も考えたが水を最優先にすると決めた」
「なゼ」
「魂の代表者ルーラー・オブ・レイスが拠点にしてる最果ての地と呼ばれる場所は、ここからも獣の虞理山からも遠いらいしんだ。なにか問題が起こった時にすぐ駆け付けられないのは辛い。それにルーラー・オブ・レイスには人格がいくつもある。全てが一つで一つが全て。それがレイスだからね。つまり敵がルーラー・オブ・レイスを抱き込もうと考えたら、世界中のすべてのレイスを裏切らせなくちゃならないわけだよ。俺だったらそんな面倒臭い奴は絶対に狙わない」
「虫ハ?」
「一番悩んだのはここだね。囁く悪魔は不満や野心を爆発させて裏切りや謀反をさせる。だが虫の代表者は虫の因子を持つ生物を強制的に操ることが出来る。敵からするとシナジーが悪いんだな」
「じゃア虫ハ行ク必要ガなイ」
「いや、そうとも言い切れん。もし俺が囁く悪魔なら、真っ先に狙うのは虫だから」
「なゼ」
「代表者はそれぞれに馬鹿みたいな能力を保有してる。不死身、攻撃無効、最強の肉体、死者蘇生、創造(笑)、その中でも虫の代表者の能力は桁外れだ。群れというのは所属している個体数が多いほど強くなり、種の数が豊富なほど対策が難しくなる。数の有利はデルア戦でよくわかったでしょ?」
「うン」
「俺が囁く悪魔の立場なら絶対に考える。もし虫の代表者を仲間に出来たらと。虫の代表者を一匹仲間にしたら、それは全世界の虫を味方につけるということをを意味する。それほど強力なんだ。虫の代表者は」
「でハなゼ虫二行かなイ」
「虫の代表者が拠点を置いているとされているのは大陸の東、近いのは明暗。正直明暗の代表者である天使エステルの動向が気にならんでははない。あいつアホっぽいし。でもいまは獣に最も近くフォローしやすい水を抑えるのが一番だと思う。それに囁く悪魔の動きだ。奴は侵略者が生物を感化する手伝いをしている。どこまでが奴の仕業かはわからないが、リズが巻き込まれた明暗の戦争を奴の仕業と仮定する。次にデルアでの謀反、獣の裏切りときた。純粋に虞理山と位置が近いのは……」
「水」
「まったく確証はないけどね。可能性はあるかなと。情報がないからわからないけど、すでに虫や魂、明暗が敵に呑まれてるなんてパターンもあるかもしれない。みんな敵だというくらい警戒しておいた方がいいかもしれないな」
「わかっタ」
「だがガイマンが成熟しきるまでは動かないだろうね」
「うン」
現在のガイマンのサイズは成体のケリュネイア・ムースの三分の一程度。身体能力はぼちぼちといったところ。だが一番驚かされたのは知能だ。
なにかを創造する時、俺はマンデイにアドバイスを貰うことが多い。
なんなら複雑な創造物はほぼマンデイの知恵の結晶だったりする。「こんな物を造りたいんだけど」と俺が言うと、マンデイが物理の法則的なことを説明し始めるわけだ。すると俺の頭の上で小さな天使が飛ぶ。
なに言ってんだコイツ状態である。
だが説明がわからないというと父の威厳がなくなるから精一杯わかった振りをして創造してみるのだが、中々うまくいくもんじゃない。「違う、そうじゃない」と、また難解な授業がスタートする。
あれれ? おかしいな、俺には良く成長する補正が入ってたと思うんだけどなぁ。頭も良いはずなんだけどなぁ、と思ってたのは随分昔の話で、いまはもう諦めてる。ルゥの著書のほとんどを読破してしまったマンデイ相手に、知識で勝とうと考えるのが無謀なのだ。
そういう経緯があって俺は、頭の悪さというコンプレックスをしだいに感じなくなった。
なんだかんだマグちゃんも理解していないみたいだし、お利口さんのリズの頭上にハテナマークが飛んでたこともあったし、ヨキなんてマンデイの授業が始まると逃げるようにゴマと遊びにいったものだ。理解できないのは俺だけじゃない。マンデイが凄いんだ。俺は頭悪くない。
……はずだった。そう、ガイマンが現れるまでは。
いまから俺が向かうのは味方以外全員敵精神の環境、しかも不干渉地帯のバックアップがない外の世界に行くわけだ。新しい攻撃手段が欲しいと手を出したのが共振を利用した兵器。地震兵器である。
今日も今日とておマンデイ大先生から貴重なご意見を
「姉さん、物質固有の振動率でエネルギーを増幅させるという仕組みは理解できましたが、振動は外へと伝播していき次第に……」
「無駄な振動はエネルギーとして貯蔵しておき、最後の振動と共振させて高いエネルギーの放出をさせる。ファウストの技術なら……」
あっ、そろそろローストビーフが食べたいな。最近食ってないから。あれって何気に面倒だったりするんだよな。前世ではタイマー式のオーブンがあったから便利だった。なんでも簡単。いっそ創造してもいいかもな。タイマー式のオーブン。
「そんななことが出来るのですか? とても……」
「ファウストの造る物のエネルギー変換効率は……」
マンデイ先生の激ウマソースをかけたら美味いよな。あぁ、お腹が空いてきた。そろそろ白米も食べたい。この世界にあるのかな。いや、ある。絶対にある。なんたってこの(偉大な世界)にはあらゆる世界の物が存在しているのだから。もしこの世界で米が絶滅していたとしても不干渉地帯で再構成されるはずだ。絶対に食える。いや、まてよ。もし再構成されていたとしたら魔核付きだ。砂を噛んだみたいな歯ごたえになる可能性がある。それはとても困るな。考えてもみろ。米のなかに魔核だ。食えたもんじゃない。いやいや、結論を出すのは早い。俺には創造する力があるじゃないか。はははははは。俺こそが神に選ばれた男。創造する力を授かりし者。精米機を造ればいいじゃないか。なんて簡単なことなんだ。なんのために授けられた能力ですか? そんなの美味しいお米とローストビーフを食べるためです。それ以上に有意義な能力の使い方がありますか? いいえ、ありません。
「不可能ではないのかもしれません。ですが……」
「規模を拡張すれば衝撃を内包しつつ……」
あっ、まだ議論してる。そろそろ終わってもよさそうなもんだけどなぁ。なんて可愛い奴らだ。よしよし、良い成長をしているな。父さん本当に嬉しいよ。将来が楽しみだ。マンデイはお医者さんでガイマンは弁護士さんかな? 安心していなさい。お父さんが白衣とスーツを造ってあげるからね。なんなら病院と裁判所を造ってあげてもいいよ? お父さん、凄いんだから。創造する力っていうすっごい能力をもってるから頭悪くてもいいんだ。
「なぁ、マンデイ、ガイマン」
「はい?」「なに」
「そろそろ食事にしよう。腹が減って頭が回らん」
「うん!」「うん」
食事が出来上がるまであいだ、悲しみに打ちひしがれながら旅に必要な物を創造していると、マグちゃんが飛んできた。
「ファウスト、どうしタ」
「どうしたってなにが?」
「負ノ気配ガすル」
「マグちゃんは優しいなぁ。将来は保母さんかな?」
「!?」
ローストビーフ的な物が出来たから、皆を集めてご飯にした。
「と、言うわけだから、今後は水の領地に向かう。内戦が起こっていたら仲介をする。他国や他の世界の生物と争っているのなら基本的には代表者のいる方を支援する方針だが、代表者自体が敵に感化されている可能性もないことはない。慎重に見極めて動く。マンデイ、なにか?」
「ない」
「よし、出発はガイマンが成体になってからだ。それまでは装備や兵器、他の代表者と情報を共有するツールの創造に力を入れていこうと思っている」
と、ここまで言った時にガイマンが。
「ダメだよ父さん」
「どうして?」
「いま世界が父さんを必要としているんだろう? 僕なんかが独り占めしたらダメだ」
なんて真っ直ぐな子なんだガイマン。
「おぉガイマンよ。お前はなんと心優しい子なのだろう。父さん、感動しているよ」
「なら――」
「ダメだ。世界が不安定だからこそ浮き足立つわけにはいかない。しっかり力を付けて、ちゃんと生き残れるという確信を持ってからじゃないと動けない」
「父さん、いままさに苦しんでいる生き物がいるんだろ? だからいますぐにでも行ってあげるべきだ! 僕なら大丈夫だよ父さん。僕にはユキオがいるしマルコもスーだっている。それにもうこの辺の生き物には負けないんだ」
「ダメです。ケリュネイア・ムースの群れが攻めてくるかもしれません。死霊術師に侵入された過去もあります」
「父さんのわからず屋!」
「ガイマン、わかってくれ」
「わからないよ! 僕の父さんは勇者なんだ! 父さんは行くべきなんだ! 助けを求める生き物のために……」
「ガイマン……」
「父さんは自分の事を悪く言う。洋服屋さんだとか器用貧乏だとか他の代表者に劣っているとかマッドサイエンティストだとか。でも僕はそうは思わない! 父さんは……、父さんは誰よりもカッコいい勇者なんだ!」
勇者?
カッコいい……。
勇者、だと?
「よしわかった今すぐ行こう」
「本当に!?」
「いや! ダメだ! 危ない危ない」
「なんでさ!」
おぉガイマンよ。お前は最高の息子だ。
「うぅん、どうしたもんか」
確かにガイマンの主張にも一理あるんだよなぁ。フューリーやミクリル王子だけに戦わせるわけにもいかんし。
「マンデイ、どう思う?」
「ガイマンの安全を確保する物を造ればいい」
なるほどなるほど。
「マグちゃんは?」
「ガイマンは既二、生キ残ル為ノ能力ヲ保有していル」
うぅん。
「ハクは?」
なぜ私に訊くの? 面倒くさいったらありゃしないわ。どうでもいいんじゃないそんなガキのこと。
って顔をしている。
「わかった。シェルターを強化して、ガイマンでも使える兵器を創造し、置いていく。でも約束だ。絶対に戻ってくるから元気にしてるんだよ?」
「はい! 父さん」
「怪我もしちゃダメだよ?」
「はい!」
「病気になった時のお薬も置いていくからね?」
「はい」
「寂しくなった時用に等身大の俺とマンデイとマグちゃんとハクのお人形さんも造っておこうね。あとリラックス効果がありそうなアロマも準備しておこう。きっと気に入ってくれるよ」
「……」
「それとガイマンが退屈しないで過ごせるように鹿タワーを造っていってあげようね。一階は動く床、二階は……、そうだなぁ、ボールのプールなんてどうだろう。楽しいぞぉ」
後は……。
「ファウスト、病気ガ出てル」
マグちゃんが横槍を入れてくる。
「病気?」
「自覚症状がなイかラ厄介」
「へ?」
なにを言ってるんだマグちゃんは。
俺が病気だなんてそんなはずがないじゃないか。
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