第195話 死ぬも生きるも自分次第

 島左近。勝頼ができるなら会ってみたかった武将の1人だ。前世の歴史では、石田三成に仕え関ヶ原で大活躍、関ヶ原で死なずに逃げたという噂もある。さて、どんな漢なのかな。


 島左近は縛られて個室に監禁されていた。一緒にいた風魔は殺したようだ。


「よう、お主が島左近か。勝頼じゃ」


「大御所でございますか。お目にかかれて恐悦至極。ただこんな形でのご拝顔は想定外でございます」


「左近。見事な攻撃であった。だが、この程度では武田は崩せぬ。そういえば其方は以前筒井順慶殿に仕えていなかったか?」


「それがしの事をご存知でございますか?恐るべき武田の情報網。いかにも、以前は筒井家の家老でございました」


「見限ったのか?」


「はい。お仕えするに値しないお方と考えた故」


「ふーん、そうか。直接会ったことはないが恩を仇で売る輩だと聞いている。お主程の漢が見限るのだから噂通りかも知れんな。では石田三成殿はどうじゃ?お主が仕えるに値する漢か?」


「我が殿は素晴らしいお方。真っ直ぐなお方です」


「それ故に危ないのであろう」


「!!!」


 左近の顔色が変わった。その通りなのだ。真っ直ぐゆえに敵が多い、真っ直ぐが正しいと決めつけてしまうため、人の気持ちをないがしろにし敵を作ってしまう。三成は物事を白か黒かで考える。だが、わざとはっきりさせずグレーにしておいた方が揉め事を起こさない場合が多い、いわゆる大人の対応が三成は苦手なのだ。


「三成殿が駿河に来た時、余が自ら歓迎した。その時に感じたのだ、この漢はいつか何かしでかすとな」


「何かとは?殿が何をしでかすというのです?」


「それはわからん。先のことは誰にもわからんよ。ただな、例えばだが秀吉があと5年で死んだとしよう。豊臣家はどうなる?」


「それは、秀頼様が跡を継がれましょう」


「誰が補佐する、全国の大名は従うか?毛利は?宇喜多は?秀吉子飼いの福島や加藤は従うだろう。だがそれだけで他の大名を抑えられると思うか?」


「前田利家様がいらっしゃいます」


「前田家はほぼ滅んだよ、聞いてないのか?加賀はもう武田の領地だ。さて、お主の殿、三成殿はどうすると思う?」


「我が殿が先頭に立って秀頼様を支えて政治を行って参りまする」


「そうかもな。だがその時に三成に従う大名がどれだけいるか?その時に三成がどんな行動を起こすか?時間をやる、考えてみろよ。じゃあな」


「お、お待ち下さい。殿、殿はご無事なのですか?」


 勝頼は、わからんよ、と言ってその場を離れた。島左近、思っていたのと少し違うな。忠勝とも違うタイプだ。賢さそうではあるが。まあいい。






 怒露駿技愛ドロスギアから海岸に運ばれた電動台車デダイに乗るのは世界初のパワードスーツ 剛力召喚チカラモチを纏ったお幸、その横を紅が運転する勝頼考案の装甲車 強竜羅判力ゴリラパンチが護衛として走っている。お幸は剛力召喚チカラモチのマジックアームを使って伝説龍王参号機グレートゴーリー電動台車デダイに乗せ怒露駿技愛ドロスギアに戻った。ちなみに剛力召喚チカラモチ伝説龍王軍団ミンナゴーリー 達を製作する時の副産物というか試作品だ。戦闘力はないが、運搬補助には優れている。


「よく頑張ったね、あなた以外はみんな戦死したみたい」


 お幸は操縦席から段を引き出して話かけた。


「救出いただきかたじけなく。そうですか、光太郎と弦も……、お、お市様は?」


「無事のはず、今大御所が会ってる」


 段は自分だけ生き残った事を口惜しがってる顔をしていた。それをみたお幸は、


「まだ戦は終わってない。参号機はもう動かないけどまだあんたは働けるでしょ。シャキッとしなさい!」


 と、怒鳴りつけた。段は我に返ったような顔をした後、自分の頬を叩き気球に向かって歩いて行った。


 さて、準備しますか。お幸と紅は出撃準備中の戦国飛行隊の元へ向かった。





 佐々成政は大阪城正面に陣を取り、でかい城だ、まともに突っ込んでもダメだろうなとは思いつつ、城の図面を思い出していた。武田家には大阪城工事に潜り込ませていた間者が書いた図面があった。


 正門前には堀が無い。外堀は正門から城を一周、幅30mはある広く深い堀で兵が渡るには橋を渡るか正門を通るしかない。正門を抜けると内堀までは家臣の屋敷らしき建物が迷路のように建っているらしいが、火計を恐れて崩されたと聞いている。


 所々に石垣や黒い曲輪があり、侵入者への防衛拠点となっているようだ。内堀は外堀と同じような大きさだが城へ入るには跳ね橋を渡るしかないようだ。


「魔王城とお市様が言っていたそうだが正にそう見える。このまま突っ込むべきか、さて」


 選択肢を考えた。もう日が暮れる、戻って毛利の背後を突く。夜討ちもあるな。城へ一番乗りしても猿の顔を見る前に全滅しそうだ。不思議と毛利、宇喜多、黒田はこっちには向かってこない。余裕がないのかも知れんが普通 『しまった!』とか言って向かってくるだろう。つまりわしの軍が城へ入っても脅威ではないという事か。


 佐々成政は直ぐに動かない事に決めた。この位置に自分がいる事に価値があると考えた。と、そこに西側から疲れ切った敵兵がゾロゾロと現れた。あっという間に佐々軍に蹂躙されたが、その中で周りの兵が必死に守っている将らしき者がいた。これは?と思い捕らえる事にした。


「佐々成政じゃ。随分とお疲れのようだが、どこの者だ?」


「浅野長吉が嫡男、長慶」


 佐々成政は浅野長吉とは面識がなかったが秀吉の親族だとは噂に聞いていた。


「浅野殿。西の戦いはどうなった?お市様はご無事でか?」


「知らぬ。知っていても話さぬ。さっさと殺せ!」


 元気な餓鬼だな。若者はこうでなくては。佐々成政は浅野長慶を気に入った。が、秀吉の親族を許すわけにはいかない。


「お父上はどうなされた?」


「何も話す事はない」


「そうか、亡くなったのだな。戦は誰かが死ぬものだ。次はわしかもしれん。さて、何も話さぬのならお主の価値はない。大阪城について知っている事を教えてくれれば大御所に取り入ってやらぬ事もないが。もう夜だ。一晩考えるが良い。死ぬのも自分次第、生きるのも自分次第だ。どうするのかは自分で決めろ、浅野家の嫡男よ」

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