第191話 風魔小太郎対前田慶次郎その2

「何だと。そこをどけ!」


 慶次郎は槍を構えて風魔小太郎と向かい合った。そして槍で素早く突いたが、軽く避けられ逆に苦無が飛んで来た。慶次郎は桃から風魔の苦無は弾くと爆発する事を聞いていたので、出来るだけ避け、避けられない物は槍先で弾いた。慶次郎の槍先は斬鉄でできているため刃こぼれはしなかった。


 そして負けじと桃直伝の苦無を投げた。小太郎はまさか慶次郎が苦無を投げてくるとは思わず一瞬焦ったが、忍び刀で弾いた。その時苦無が爆発し小太郎は顔から出血した。


「これは風魔の苦無、おのれ盗んだな」


「盗みは豊臣の方が得意だろ。参る」


 慶次郎は槍で小太郎を追い詰めていこうとするが、素早くて捕まえられない。再び小太郎が苦無を投げてきた。1つは正面に、もう一つは明後日の方向に飛んで行った。正面を弾いたあと、慶次郎は突然しゃがんだ。その上を背後から苦無が飛んで行った。そう、小太郎が明後日の方向に投げた苦無はブーメランのように帰ってきたのだ。以前服部半蔵がやられた戦法だ。慶次郎は半蔵からそれを聞いていたのでかわす事が出来た。


「ほう、あれを躱すのか。見事だ」


 驚いている小太郎の脇腹を慶次郎の槍が掠めた。小太郎は下がりながら苦無を投げるふりをした。慶次郎は身構えたが、その時慶次郎の背後から苦無が飛んできて頭を掠めた。


「何?」


 そう、先程明後日の方向に投げた苦無ブーメランは二段構えになっていたのだ。想定外の攻撃を受け一瞬怯んだ慶次郎に向かって忍び刀を持った小太郎が飛び込んできた。慶次郎は槍の柄で忍び刀を受けたが反動で槍を落としてしまった。小太郎は絶好機とばかり踏み込もうとしたが脇腹の傷が痛み勢いが落ちた。その隙に慶次郎が小太郎の膝の下を蹴った。弁慶の泣き所だ。しかも慶次郎は勝頼特製の鉄板入りスニーカー、現代でいう安全靴を履いている。安全靴トウキックは泣きたくなるほど痛い。小太郎は片足ケンケンで距離を取った。


 小太郎は片脚にひび、脇腹と顔から出血。慶次郎は頭から出血している。


「前田慶次郎、なかなかやる。昔殺しておくべきだったか。とどめを刺しておきたいが時間がきたようだ」


「時間だと」


「振り返って空を見よ!」


 慶次郎はさらに距離を取り空を見た。大阪城から飛んできたと思われるハンググライダーが宙にあった。あっと思い前を向くと小太郎の姿は無かった。慶次郎は信勝も気になったが、勝昌ごときにやられる事はあるまいと先ずは真田陣に走って向かった。



 慶次郎から離れたあと、風魔小太郎は隠してあった大凧を用意した。味方のハンググライダーは落とされてしまい、上空に気球が見えた。あれは何だ?何にしても落とすしかないと合図の狼煙を上げた。凧を上げるのは大阪城三の丸にいる風魔並びに豊臣兵だ。


 ここには小太郎1人しかいない。本来なら武田各陣営に潜り込ませていた草を使い凧の数を増やす予定が、蘆名幸村の策により全て追い出されてしまった。目に見えないところでも真田の軍略が効果を上げているのが武田軍の恐ろしさだ。


 小太郎は大凧に乗り空へ昇った。そして気球に近づいていった。気球に乗る兵はハンググライダーを撃ち落としたので、下にいる敵と大阪城からの攻撃を警戒していて背後から近づく大凧には気づかない。


 小太郎は気球に近づきつつ上空から辺りを確認した。


 ・信勝本陣が騒がしい。勝昌隊は制圧されたようだ。信勝はここからでは確認できん。

 ・上杉は動いていない。福島が抑えている。

 ・真田本陣の隙をついて毛利軍が攻め込んでいる、ん、またあの男が邪魔しているのか。

 ・信平軍が空からの攻撃に合わせて毛利軍を攻め込んでいる、しゃらくさい。

 ・信豊軍、真田軍が加藤清正軍を圧倒している。黒田軍が応援に向かってる。


「これならばいける」


 小太郎はさらに合図を上げた。そして素早く気球の風船部分に炸裂玉を投げた。何の合図かと気球の兵が振り返るのと気球が破裂するのがほぼ同時だった。気球は毛利軍に落下していった。気球には原油が積んであった。結果として気球は爆弾となり毛利軍本陣近くに落ち爆発し周囲の兵を焼き殺した。


「しまった。こういう結果になるのか、勝頼め」


 小太郎は埋め合わせをすべく真田本陣上空に近づいた。先ほどの合図、それは前回使用した凧爆弾だ。大阪城から同じように凧が上げられた。真田本陣の上空、それと信平本陣の上空に凧が一つづつ上がってきた。


「くらえ、凧爆弾」


 小太郎は凧にぶら下がっている爆弾の縄を切った。凧から爆弾が真田信綱の近くに落ちてくる。小太郎が良し、と思い次の凧を狙おうとした時爆弾が空中で爆発した。


「何?」


 前田慶次郎が投げた槍が爆弾に刺さり着弾前に爆発したのだ。爆風で陸地の兵も吹っ飛ばされたが、風魔小太郎の凧もコントロールを失いクルクル回転しながら落下していった。


 慶次郎は凧に気がついていたのだ。小太郎が出てきた以上凧を使ってくると考え、闘いつつ空中も監視していた。


 この凧爆弾回避策は蘆名幸村考案だった。前回風魔が凧を使った時、蘆名幸村と直江兼続は気球の上から凧爆弾の対策を話していた。幸村の案に誰が実行できるのかと兼続が問うた時、幸村は即答で3人の名を上げた。前田慶次郎、山上道及、そして本多忠勝だ。幸村は勝頼に対策を申し出た。この3人は勝頼の命を受けて密かに槍投げの特訓をしていたのだがその成果がでた。


 爆風で敵も味方も動きが一瞬止まったが、再び毛利軍が真田本陣で暴れ始めた。その時、もう一つの凧爆弾が凧ごと着弾した。さっきの爆風でもう一つの凧も落ちてきていたのだが誰もきづかなかった。この爆弾で真田信綱は重傷を負い戦線離脱することになった。真田昌幸は加藤清正攻めを信豊軍の本多忠勝に任せて真田本陣に戻り立て直しを計った。


 前田慶次郎は槍を投げた後、小太郎の行方を追っていた。凧は回転しながら信平軍の方へ落ちていった。敵の槍を奪い、敵を斬り裂き進もうとするが敵兵が多くなかなか進めない。


「逃す訳にはいかん」

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