第178話 触ったんだから
武田海軍の砲撃が一周した頃、陸地では、上杉軍、信豊軍、真田軍が城から1500mのところまで前進した。念のため前と同じように高さ3mの鉄盾を正面に置いている。ただ城からの砲撃はなかった。海軍の二周目の砲撃が始まった時、信豊軍で動きがあった。城の目は海に向いていた。
「空軍、前へ」
信豊の他に50名の精鋭が盾の後ろに整列した。兵の前には何やら怪しい箱が置かれている。信豊の前にはさらに巨大な箱があった。
敵兵のほとんどは西側に気をとられていて武田軍の前進に気づかない。皆、次の攻撃は5日後と言われていた。気付いた兵もいたがこの数日、兵が出たり引いたりしていたので特に気に留めなかった。今日は攻めてこないと気が緩んでいたのかもしれない。天守の秀吉はふと視線をずらした時、向かってくる武田軍が見えた時、なんか雰囲気が違うと感じ狼狽した。
「何だと、5日後ではないのか?勝頼め、まさか盗聴に気づいて!」
直ぐさま一つ下の階に降り大砲の砲撃を指示したが、準備がされてなく発砲には時間を要してしまった。その間にも海からの砲撃が続いている。黒田官兵衛を呼び、陸兵の配置を指示した。
海へは三成を向かわせた。大砲はもうじき撃てる。陸の兵は官兵衛に対応をまかせた。時間がたてば右近が長距離砲をつくるであろう。これで勝てる、と思っていた。
武田軍はさらに前進した。城の兵はまだ出てこない。城の砲撃も始まらない。作戦通りに進んでいる。信豊は、
「空を舞え、鳥達よ!」
と叫んだ。空軍50名はそれぞれにあてがわれた大きな箱のような操作盤をいじくっている。武田陣営から鳥が50羽飛び立った、鳥か、飛行機か、いやラジコンの鳥もどきだ、大きさ1m程の鷹に似せた鳥が猛スピードで城に向けて飛んでいく。よく見ると上杉軍からも真田軍からも鳥が飛び立っていた。
空軍兵は勝頼から出来るだけ鳥を高く、速くを意識して、鳥を城へ突っ込ませるように指示されていた。電波は城までは届かないが勢いで城の何処かに落とすのだ。そう、この鳥はガソリンを積んだ火炎瓶ならぬ『火の鳥爆弾』であった。
大阪城の砲台では大砲を撃つ準備が進んでいた。秀吉は急げ、急げと自らが声をあげ急がせていた。ふと前を見ると鳥が城に向かって飛んできていた。100羽以上はいるだろうか?
「ん、鳥か。でかいな。いや、あ、あれは。おい、あれを撃ち落とせ」
大砲の準備をしていた兵の一部が階下に降り、武田軍の真似をして作ったマシンガンを撃ち始めた。大阪城の砲台の下の階にはマシンガンが多数配置されていた。武田の空からの攻撃の対応手段である。だが、鳥の速度が速く当てることができない。そうこうしているうちに、鳥は城内のあちこちに落下し始めた。
大阪城の周囲で『火の鳥爆弾』による爆発音と火災が無数に発生した。城内が混乱している最中、武田軍では三人の男が大型の鳥を操作していた。
城の東側から真田信綱、南側から武田信豊、北側からは直江兼続である。特別製のこのラジコン製の大鳥、その名を怪鳥ギャドンという。勝頼がゴジ◯派でお市がガメ◯派で、空を飛ぶ鳥と言ったらと双方譲らずどうでもいい信勝が間をとった。まあそれらしい名前になったので良しである。
ギャドンは体長3m、ガソリンエンジンを積み、木とアルミでできていて見た目は怪鳥型の無人ラジコン飛行機だ。表面には鳥の羽が貼られ遠目には鳥に見える。
「行け、ギャドン」
三羽?のギャドンはそれぞれの位置から城を目掛けて飛んでいく。目指すは大阪城9階の砲台である。まず正面、南側の信豊操るギャドンが秀吉のいる砲台に向かって飛んでくるのが見えた。秀吉は焦った。
「あ、あれはロプ◯ス、いやそんな馬鹿な。おい、撃て。今すぐ大砲を撃て」
「あれに当てるのは無理です」
「いいから撃て!」
兵は撃たないと殺されると思い、大砲を撃った。当然当たらない。またギャドンと大砲の高さがほぼ正面だったので慌てて弾を水平に撃ってしまった。そのため弾はあまり飛ばず大阪城正面の曲輪を破壊してしまった。
秀吉は向かってくる怪鳥を見た。ヤバイ、死ぬ、と思い後ずさった。その時、下の階からマシンガンが連射され、ギャドンの片側の羽に当たった。ギャドンは方向が狂い大阪城の3階にぶつかり爆発した。城の側面に穴が開いた。
大阪城は地上10階建てだ。大砲は9階に、マシンガンは3、5、7、8階に据え付けられている。信豊のギャドンは3階の一部を破壊した。
ホッとしていると、兵に
「殿下、次が来ます」
と言われて、東側を見ると炎に包まれた鳥が砲台に向かって飛んできていた。
真田信綱、炎の将と呼ばれている。信綱のギャドンは勝頼自慢の特別製だ。鳥の羽に油が塗られており、飛行中に火がつくようになっている。
「我が名は炎の将、真田信綱。行け、ファイヤーギャドン。化学忍法『炎の鳥』発動」
信綱の掛け声とともに鳥の羽に火が付いてギャドンが炎に包まれた。ファイヤーギャドンは燃えながら東側の砲台に突っ込んで爆発した。ギャドンの体内にはガソリンが積まれている。9階の東側は炎に包まれた。大阪城がいくら鉄板で覆われていようと内部は木材でできている。炎は10階に燃え広がっていった。秀吉はかろうじて階下に逃げた。
次に直江兼続のギャドンが北側から砲台に突っ込んだ。9階はほぼ壊滅した。
炎は9階の西側を除いて延焼、10階もほぼ燃えてしまった。火は8階にも燃え広がったがその時、大阪城天守から水が噴き出した。簡易スプリンクラーのような物で大阪城を建てた時に火災対策で秀吉が作らせたものだ。火災に気がついた右近が作動させたが、時遅くかなりの部分が燃えてしまった。結局秀吉は8階以上を放棄した。
頼みの盗聴器も燃えてしまった。
勝頼は
あれ、聞こえてねえのかな? もしかして聴く事しかできねえのかな?勝頼はもともと盗聴の危険がある事は予想していたので、各軍監にもしも盗聴されてたらこうするぞ、と暗号も決めて指示していた。最初のハゲタカ山に登れ作戦が秀吉に読まれていたので、盗聴されていると確信した。その上でわざと、3日後の作戦を5日後と言ったのである。そう、軍監の役目はあらかじめ立てていた作戦の伝達係、兼今後の暗号係だった。
たださすがの勝頼も今回の作戦で秀吉が盗聴できなくなった事は分からなかった。盗聴されている前提で以降の作戦も続いていく。
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