第165話 電話会議
信忠は眠らされていてなかなか目覚めなかった。呑気なものである。
お松の方が先に目覚め、何が起きたかを聞き、信忠に桶で汲んだ水をぶっかけた。
「う、ぶ、ブワッ、なんだ?」
「お目覚めですか?」
「松か、何をする、あ、いや、どうなったのだ?」
「大変な事になりました。蟄居し沙汰を待つべきかと」
信忠は話を聞き後悔した。沙沙貴彩にかけた恩情がとんでもない事を引き起こしていた。あの時無理やりにでも捕らえていればこんな事にはならなかった。信忠は自分の甘さを恥じ頭を丸めた。信雄の時に勝頼に甘さを攻められた事を思い出して泣いた。そして武田商店へ向かった。
武田商店では信勝は薬で爆睡中、とはいえ足は膝の少し下のところから綺麗に切断されていて痛々しい。昌幸は岐阜城へ戻り
そこに急遽頭を丸め、坊主頭の信忠が現れた。
「上様はご無事か?」
幸村が応対し、無事だが今は寝ておられるというと、起きるまで待つといい店の中に入ろうとしたところを慶次郎に止められた。
「本物の信忠様だとは思いますが今は大事な時、お引き取りを」
「いや、しかし」
「他にやる事があるでしょう。上様はご無事です。お引き取りを」
慶次郎は信忠を睨みつけ追い出した。慶次郎はドライである、こりゃ信長が生きていてもどの道織田は滅んだんだなと感じつつ護衛に戻った。
信忠は、我に返り城へ戻った。そして城内の家臣の詮議を始めた。裏切り者を処罰しなければならない。今の信忠のできる最善は尾張の平定だ。詮議は二週間にも及んだ。そして裏切り者30名を処罰する頃、信勝の姿は清須から消えていた。信忠への処分はなかった。
信勝は船で輸送され駿府に着いた。駿府ではお市が作った義足が用意されていた。
「サイボーグ上様ね!」
と訳がわからない事を言っているお市だった。ただの義足ではなさそうだ。だって作ったのお市だよ、潜水艦作っちゃう人だよ。
義足に慣れるには時間がかかりそうだがとりあえず歩く事は出来るようになった。信勝は自ら歩いて勝頼のところへ行った。
「ただいま戻りました」
「ご苦労、しかし油断したな。だが良かったのだぞ。あそこでお主が怪我しなければもう一矢あったからそこで死んでたかもしれん」
「何ですと、さらに次の仕掛けがあったのですか?」
「桶狭間でな。そっちに向かうように誘導され攻められるところだったようだ。お幸が突きとめた。小太郎はしつこいからな、終わったと思ってからが危ないんだよ。ところでな、関白から御達しがあった。征夷大将軍は召し上げだそうだ。秀頼元服後豊臣幕府を開くそうだ」
「それがしが面会した時もその事を申しておりました。できるものならやってみろと思いましたが本当にやりましたか」
「秀吉は自らの死を恐れているのだろう。このまま東西分割の状態で秀吉が死んだらどうなるか。豊臣は滅ぶのは必須だろ、焦っているのさ。だから無茶をする。無理と無茶は違う。俺がいた未来では皆無理して働く習慣があったがそのくらいは何とかなる。ただ無茶をすると大概失敗する」
「無理と無茶ですか。難しいですな、ですが秀吉には失敗してもらわないと困ります。そうそう、お聞きだとは思いますが信忠は処分しませんでした。甘いとお思いか?」
「甘いな。だが気持ちはわかる。織田を滅ぼすのは気が引ける、まあ源吾がいるがな」
源吾とは後の有楽斎である。戦ではあてにならないが各大名に顔が聞き使いようによっては便利な男であった。最悪は信心に織田を名乗らせてもいい。信心とは勝頼とお市の子である。
「信勝はどうするつもりだ?」
勝頼はあえて聞いた。勝頼は信勝を置いて信平と大阪城へ仕掛けるつもりだった。
「このまま黙っては居れませぬ。お市様に作っていただいたこの足に慣れ次第、出陣致しまする」
「そうか。負けた場合どうなる?余は武田の家は残したい」
「負けはしませぬ。それに信平、信心がおります。それがしの子、信和も。それにそれがしが出陣しなければ諸侯の士気にかかわります」
将軍としての自覚か?大きくなったなあと感心しつつ、
「上田、岐阜、江戸、米沢と
「そのような事が出来るのですか?」
「駿府に3台集めてスピーカーフォンじゃあなかった、他の声が聞こえるようにすれば出来るだろう。ちょうど川根で新しいのが仕上がってる筈だ」
軍議は三週間後、各拠点に皆が集まるように連絡した。上田には信平、直江兼続、佐々成政、内藤。岐阜には真田信綱、昌幸、織田信忠、江戸には信豊、原、佐竹、結城。米沢には伊達小次郎、蘆名幸村、そして山県昌景である。駿府には勝頼、信勝、曾根、本多忠勝、前田慶次郎、茜、そしてお市も加わった。
「テスト、テスト。各拠点聞こえるか?」
「岐阜聞こえます。皆揃っております」
昌幸が答えた。信忠は目を白黒させている。
「江戸聞こえます。これが噂の
信豊が嬉しそうに答えた。
「上田聞こえています。源三郎と助さんも呼んでます」
信平が答えた。助さんて誰?という声が聞こえたので勝頼が
「余の友人だ。皆、名も顔も知らんだろうが桜花散撃や雪風を作ってくれた武田家の功労者だ」
というと、おおっ、という声が響いた。助さんはハゲたおでこをペシっと叩きながら照れていた。相変わらずお茶目である。
「米沢揃っております」
山県昌景が渋い声で緊張感を高めた。世界初の電話会議が始まった。
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