第126話 伊達政宗の最後
「伊達輝宗様ですね。抵抗なされますか?抵抗されたら殺しても良いと言われておりますが」
「そなたらは何だ?」
「武田勝頼様の親衛隊です。勝頼様のご命令でお迎えにあがりました。もう戦の決着はつきました。ここで死ぬか、勝頼様にお会いになるか、どちらかをお選びください」
桃は冷静に話し、守ろうとする旗本には逃げていいですよ、追いませんから、と言いつつ警戒は緩めなかった。輝宗はどうせ死ぬならと勝頼に会うことにした。
輝宗一人だけを武田本陣へ連行した。武器は取り上げてある。勝頼は小次郎を同席させた。輝宗は小次郎を見るなり叫んだ。
「小次郎、お前というやつは親に向かって兵を仕掛けるなど。恥を知れ!」
「余は蘆名小次郎である。蘆名家の当主だ。確かに父上ではあるが、敵対する伊達家の者。容赦は致しません」
さてどうするか。最初の案だな、やっぱ。
「余が武田勝頼だ。伊達輝宗殿、お初にお目にかかる。さて、そなたには嫡男の政宗という者がいるそうだが」
「政宗は嫡男、わしが腹を切る故、政宗に跡目をお願いしたい。米沢は差し上げる」
「随分と都合のいい話だな。差し上げるも何ももう米沢は武田の領地となった。そなたはまだ陸前、陸中に領地があると聞いているが、武田に付くというのならそこは残してやろう。どうだ?」
輝宗は考えた。このまま攻め入る気か?だが、まだ小山城は戦が続いているはず、その余裕はあるまい。政宗は明日には到着するが、たかが五千ではこの武田相手には何もできまい。さあ、どうする?
「敗者は勝者に従う者。仰せの通りにしよう。残りの領地と引き換えにわしが腹を切る」
「腹を切るのはお主ではない。政宗に切らせよ」
「!!! 政宗は嫡男、そればかりは」
「ならぬ。余は小次郎を気に入っておる。隣国に仲の悪い政宗がおっては気が休まるまい。伊達家には余の実子をと思うたがまだ若すぎるのでな、余の腹心の子を我が養子として伊達家に出そうと思う。人質ではないぞ、伊達家を継がせるが良い。若いが優秀な男だ。それで手を打て。未来永劫安泰だぞ。そうそう、お主は死なんでいいぞ。小次郎に父親殺しはさせたくないのでな」
「それはあんまりでござる。まず政宗が納得しません。」
「政宗には腹を切らす。これは譲れん。どうしてもというなら小次郎に伊達を継がせよ。蘆名へは余の養子を出すぞ」
揉めた結果、小次郎が伊達家に復帰して家督を継ぐ。蘆名へは勝頼の養子???を出すことに決まった。輝宗が伊達の血にこだわったのである。まあ、わからんでもないので了承した。小次郎へは、米沢には武田の者を置くのでそれまで預かってくれと頼んだ。最上はしばらく大人しくしてるだろう。さて、問題は政宗だ。なんで勝頼がそこまで政宗の死にこだわるか、この男、生かしておくと何するかわからん。家康が真田親子に一生怯えたみたいになりそうな予感がするのだ。今のうちに摘んでしまいたい。
翌日、政宗が米沢についた。すでに戦は終わっており、兵の死骸があちこちに散乱していた。政宗は慌てず陣を組んだ。
「何がどうなっておる、各兵に油断しないよう伝えよ。いつ戦になってもいいように備えさせろ」
そこに、輝宗の家老、遠藤基信が輝宗の代理としてやってきた。
「政宗様。すでに戦は終わりました。殿はご無事ですが米沢を武田に取られました」
「遠藤殿。どういう事ですか?父上は何処に?」
遠藤は事の顛末を説明した。何だそれは、ふざけるな。わしの命と引き換えに家を守るというのか、そんな父親がどこにおるというのだ。政宗は陣をひき、陸中へ引き上げ始めた。
「まだ負けたわけではない。仕切り直しだ。今この場で家督を継ぐ事を宣言する。遠藤殿。余がここから去るまでこの場にとどまってくれ」
政宗は時間稼ぎをしようと遠藤を戻らせなかった。だがその動きは武田軍、そう桃、紫乃に監視されていた。
「やっぱり逃げるみたいよ。これで、はい腹を切ります、っていう男ではないって大殿が言ってたけど、だったら何であんな要求出したのかしら?あ、紫乃、大殿に作戦『落ち葉』になったって伝えて」
政宗の軍は移動に継ぐ移動で疲れていた。そこにまた移動である。足重い移動であった。政宗は白石城へ向かった。そこまで行けば仕切り直せる。利府、千代にも兵を集めるよう伝令を飛ばした。
勝頼は作戦名『落ち葉』を発動した。素直に政宗が腹を切るわけない、わかってはいたけどね。ここで政宗を殺せば心置きなく西に目を向けられる。落ち葉、そう落ち葉のごとく散ってもらおう。
伊達輝宗を米沢城に留め監視をつけた。一時監禁状態にしたのである。一応悪さできないようにしとかないと。そうしておいて、蘆名小次郎に追いかけさせた。米沢から大軍が進むには道は限られる。山に囲まれた街道を伊達軍は急いで撤退していった。
昨夜、作戦『落ち葉』の為に10名の忍びが街道横の山、矢沢の山上に向かった。そう、勝頼が指示する前にすでに待ち構えていたのである。紫乃が城へ報告に行くのと同時に桃は矢沢にむかっていた。作戦『落ち葉』の発動はすでに桃の判断で行われていた。勝頼は桃の成長を感じ、任せていた、といっても事前にこのときはこうと指示してはいたが。
作戦を止める場合は紫乃が矢沢に駆けつける事になっていた。待つ事半日、日も暮れて山道が暗くなった頃、政宗軍が街道に現れた。政宗の近くには木村悟郎の手の者がいて、政宗の位置を知らせる事になっている。こんな事もあろうかと、悟郎は数年前から東北に拠点を作りつつ各大名に配下を忍び込ませていた。伊那の者だけでは手が足りず、茜に頼んで旧信玄の諜報網からも人を借りていた。
今回、武器の補充だけだはなく、ハンググライダー
暗くなった上空から見ると松明を灯りにゆっくりと進軍する姿が見えた。軍の中央に政宗がいると事前情報はあったが、あたりは暗く識別できない。悟郎配下の忍びは政宗の後ろ100mのところにいたが、作戦通り歩く速度を上げ政宗に出来るだけ近づき、政宗上空に
突然周囲が明るくなり何だ? と辺りを見渡したが上空の甲斐紫電には気づかない。そこに3機から相良油田の原油を使った火炎瓶、
政宗は突然周囲が明るくなり馬の足を止めた。すると前方すぐのところの兵が突然燃え始めた。慌てて後ろに下がろうと振り返ると背後の兵も燃えていた。火は急速で燃え広がり政宗の足に燃え移った。馬は怯えて暴れ出し馬から放り出された。その勢いで火は消え焼死は避けられた。が、そこに爆発音とともに多数の手裏剣が体に刺さった。
伊達軍の進軍は止まった。政宗が大怪我をし、近くにいた重臣も死んでしまった。生き残った政宗の側近片倉小十郎は数時間後、追いついてきた蘆名小次郎に降伏した。小次郎の軍には伊達家の家老、遠藤基信が同行していて、片倉を説得したのである。片倉は遠藤基信の勧めで政宗の側近になった経緯がある。今後は小次郎が伊達を継承するので小次郎を助けるよう遠藤に言われ、とりあえず従う事にした。片倉もこの数日の大変化に頭がついていけていなかったのである。小次郎の指揮の元、伊達軍は米沢に引き返した。小次郎は政宗を探した。小次郎が見つけた時には政宗はまだかろうじて息をしていた。小次郎は政宗の顔を見て、
「兄上、これも運命」
と呟き、政宗の首をはねた。
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