第107話 清洲会議
明智光秀から、国の意思として帝の元、正しい日ノ本を作りあげるため、国賊信長と信忠を滅した、という文が日本中を廻った(西国は秀吉が止めたが東国の大名にはばら撒かれた)。そして暫くして、羽柴秀吉の名で逆賊明智光秀を討ち取った。その際、織田家の神戸信孝、重臣丹羽長秀、滝川一益は激戦の為命を落とした、との文が全国を駆け抜けた。
上杉と向き合っていた柴田勝家は唖然としていた。何がどうなってこうなった?上杉との戦は佐々成政に任せ、前田利家とともに清須へ向かった。
「信じられん。上様、信忠様がお亡くなりになりそれをやったのが光秀だと!さらに備中にいた秀吉がそれを討った?何故だ、何で光秀が。それに猿め、備中からどうやって戻ったのだ」
「それに信孝様、丹羽様、滝川様までお亡くなりに。信じられませぬ。猿は昔からずる賢く、その上動き出すととにかく速いのは知ってはおりますがそれにしても速すぎる」
「まずは戻ってからだ」
「親父殿。策を練りませんと。織田家で残るは信雄様ですが、猿がどう出るか?何やらきな臭い」
「何がだ?信忠様、信孝様が亡くなったのだ。信雄様しかいないではないか」
「……………」
前田利家は、まあこれが親父殿の良いところだから仕方ないか、と呆れながらわしがしっかりしないと、と気を引き締めた。
柴田勝家は古い武将である。考え方が古い。秀吉だけが生き残って丹羽長秀や滝川一益が死んだ事に、もっと疑問を持たねばならんのに光秀が強かったくらいにしか考えていなかった。この男に優秀な軍師がいればまた違ったろうに。
清須ではすでに秀吉が池田恒興、筒井順慶を従えて待ち構えていた。織田家からは信雄、源五長益が来ていた。
「これはこれは親父殿。遠路はるばるよう起こしなされた」
「猿。これはどうした事だ。わしはまだ信じられん。上様がお亡くなりになるなど。それに信忠様や長秀まで。何があったのだ」
「文に書いた通りですわ。明智日向が本能寺に滞在中の上様を夜討ちし、そのまま信忠様も葬ったのです。それを聞いた信孝様、丹羽様、滝川様が蒲生勢をお味方に明智日向に攻めかかりました。ところが、明智は安土城から持ち出した沢山の銃を使い信孝様達に勝ち、皆討ち死にされました。そこに備中から走り戻ったそれがしめが明智を討ったのでござる。もう少し早く戻れればと悔しくて悔しくて」
そこに前田利家が口を挟んだ。
「秀吉殿。上様がお亡くなりになられた事をどうやって知ったのだ」
「久し振りに会ったのにいきなり険しいのう。明智が毛利に出した文を奪ったのよ。それには、天命により上様と信忠様を殺したと、帝を立て明智が世を引っ張ると書いてあった。驚いて腰をぬかしたわ。暫く呆然としたが仇をうたねばと思ってな。毛利とは和解寸前だったので、急いで和解しそのまま駆け戻ったのだ。それでも高松城主は切腹、新たに三ヶ国を手に入れたぞ。親父殿達は何をしていたのだ?」
「猿、なんだその言い方は!上杉と戦だ。知っておろうに」
勝家が秀吉の態度にムカついて喧嘩腰に話した。秀吉は冷静に、
「上様がお亡くなりになった後、どうされたかと聞いています」
「だから上杉と向き合っていて身動きが取れなかったのだ」
「それはそれがしとて同じ事。毛利と向き合っており身動きはとれませんでした。その中で毛利の領地を分捕り、上様の仇までとった。この猿めに何か不服でも?」
「いや、 そ、それは 見事であった、と思う」
「思うとは何ですか。思うとは」
「…………この猿めが生意気に、」
「待たれよ。勝家、秀吉の軍功素晴らしき。讃えるべきではないか」
会話に織田信雄が割り込んだ。そうだ、信雄様がおられた。信雄様はどうされていたのだ?
「信雄様。上様の仇を取る戦には参戦されなかったのですか?」
「兵を集めていたのだ。その間に戦は終わってしまった。秀吉の戦、大義である。余はいい家臣を持った」
秀吉はなんだこいつ、と腹のなかで笑いながら、
「有難きお言葉。この秀吉、今後も織田家のために尽くす所存。ところで、今回皆々様にお集まりいただいたのは織田家の跡取りの事でござる」
信雄、勝家は秀吉が何を言っているのかわからなかった。生き残っているのは信雄だ。家督を継ぐのは信雄に決まっておろうに。
「それがしは三法師様こそが家督を継ぐべしと考えまする」
「@#¥-¥$$、 三法師だと」
信雄は思いもよらぬ秀吉の発言に驚き、怒った。
「秀吉、何を言うか。この信雄が家督を継ぐに決まっておろうが」
「恐れながら信雄様。織田家の棟梁は信忠様でした。その信忠様がお亡くなりになったのです。嫡男の三法師様が織田家を継ぐのが妥当ではないでしょうか?」
「まだ三法師は3歳、3歳の子供に何ができると言うのだ」
「信雄様とそれがしが後見人というのは如何ですか?」
そこに面白くない勝家が口を挟んだ。
「そんな大事な事を簡単に決めていいのか。そうだ、重臣皆で多数決だ。それがいい」
「宜しいですが、ご当人の信雄様は除くとしてどなたが?もう丹羽様も滝川様もおりません」
「わしとお主と、うーん、ここにおる者で、利家はどうだ?」
「前田殿は何をなされた?重臣というほどの活躍をされたのですか?」
「他におらんだろ。お主と二人では多数決にならん。」
「それでは、ここにいる池田恒興殿は如何です?それと今回明智の与力でありながら、上様の仇と立ち向かった筒井殿は?これで五人になります」
「利家も入れていいのだな」
「はい。この五人でこの場を納めましょう」
利家がいれば勝てるだろう。勝家は甘かった。
そして多数決により織田家の跡取りは三法師に決まった。後見人は信雄。そして織田家の領地は生きている者で分けられた。信雄には三法師の後見分として伊勢、近江、美濃が与えられた。柴田勝家には若狭が加増された。秀吉は拠点の長浜城を信雄に譲り、摂津、山城、河内、和泉を手に入れた。実際はそれより西はほとんど秀吉の物だった。
その頃、勝頼は駿府である男と話をしていた。
「清洲会議かあ。どうなったかな?なあ、信忠殿」
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