第98話 本能寺ロード
<現代では>
美濃流は大崩の造船所があったところを探していた。地形が変わったのか道路が違うのかなかなかわからなかった。目印は花沢城からまっすぐ海へ行って少し行ったところ、多分ここだな。
何もない。四百年も経てばこうなるのか。お目当は、 どこ?
「えーと、この上から楓が飛んできてだから、うーん。あそこら辺?」
百均で買ってきたスコップを使ってとりあえず掘り始めた。そう、お目当は楓の墓だ。お市の残したメッセージの答えが何かと調べにきたのである。
「あった。金? それと刀と銃か?」
埋まっていたのは金が2kg程と油紙に包まれた斬鉄○こと『鬼切り丸』、それとリボルバー雪風だった。金以外は持ってると捕まるな。置いていこう。
そうか。そういうことか、さすがお市だ。
美濃流は金を現代のお金に換えた。それを軍資金に戦国に戻る方法、戻った時にやる事を模索し始めた。
安土城。織田信長の居城である。信長は信勝を天守へ案内した。
「どうだ、この景色は」
「素晴らしい景色でございます。上から見下ろすと世界が見えるようでございます」
「ところで勝頼殿は見つからんのか」
「はい、もう戻らぬ者として考えております。武田家の中にはまだ戻ってくる事を期待しているものもおりますが当てにはできませぬゆえ」
「あの勝頼殿がな。余の見立てでは戻ってくるな。あの男を殺すのは至難の事ぞ。以前貰った火のいらない鉄砲は国友村で真似させたがなかなかうまくいかん。秀吉が欲しがるのでくれてやったわ。珍しい物好きだからな。勝頼殿があれを余にくれるという事はもっと凄い物を持っていたのだろう。以前刀捌きを見たがまともに立ち向かっては勝てまい。殺すなら闇討ちか毒殺か、死体は見つかっていないそうではないか」
「はい。戻ってくればその時はその時と考えております」
「信勝殿。武田には東国を抑えてもらいたい。余はその間に九州まで制圧する。武田には今の領地のうち5カ国を認めよう。不満はあるか」
「武田は現在10ヵ国保持しております。これは武田が苦労して自らが手に入れた領地でございます」
「分裂して手こずっておるではないか。手助けしてやろうと申しておる」
「信長殿。これは武田の戦でございます。先ずは信勝が自ら制圧して見せましょう」
「ふん。まあそのくらいでないと大国の主は務まらん。お手並み拝見といこう。まあいつでも泣きついてくるが良い」
二人は大広間へ降りて宴会場に入った。そこでは接待役の光秀が忙しそうに動き回っていた。織田家重臣で安土に来ているのは丹羽長秀、滝川一益だった。丹羽長秀は本願寺残党の対応で各地に兵を分け奮闘している。滝川一益は伊勢水軍が毛利に全滅させられ責任を取り伊勢に蟄居していたがやっと許された。
信長は急激に膨れ上がる領地を治めるのに将が欲しかった。自分に逆らう者には容赦ないが少しの失敗位で腹を切らせていては人が居なくなる。一益にはいずれ武田から召し上げた領地を与えるつもりだった。
勝頼が居ないのなら武田は何とでもなるだろう。今回信勝に会ったのは、信勝を見極める為だった。
信勝は思っていたよりはやるようだ。だが、結果が出せなければそれまで。
宴は盛り上がり、信長は敦盛を舞った。宴たけなわの頃、光秀が余計な事を言った。
「このような立派な城で織田家は、武田殿とも手を結び残りは毛利、四国、九州のみ。我ら家臣一同、今まで苦労してきた甲斐があったというもの」
「光秀、もう一度申してみよ」
信長が怒気に満ちた声で言った。座がシーンとなり光秀は黙った。
「もう一度申してみよと言っておる。おのれが何をした、他の家臣はそのような事は言わん。お前より手柄が多い秀吉でさえ、織田が大きくなったのは自分のおかげだなどとは言わん。思い上がるな!」
信長は光秀に暴行を加えた。頭を持ち部屋の外へ出て欄干に頭を打ち付けた。
見ていた者達はなぜ信長がそんなに怒っているのかわからなかった。が、止めに入ればとばっちりが来る。止める事が出来なかった。
散々暴れた後、信長は席に戻り酒を飲み始めた。そこに秀吉からの伝令がきた。宇喜多勢二万を味方にした秀吉は毛利勢四万と衝突寸前であり、今こそ上様のご出陣をお願いしたいという事だった。信長はご機嫌になり
「猿め、余が行かねば勝てぬとよ。出陣する。光秀、先に備中へ行け。余は後から信忠と追う」
「武田様の接待はどうなされます?」
「丹羽にやらせる、さっさと行け」
信長は秀吉からの要請を今か今かと待っていた。こうなったら信勝は後回しだ。先に光秀に行かせ頃合いを見て到着すれば良いだろう。
「信勝殿。余はこの後備中へ出掛ける。そなたはせっかく来たのだ。京、堺を見て回るが良い」
光秀は信長に暴行され一時殺意を覚えたが封印し、命令に従い坂本城へ戦の準備に赴いた。秀吉の応援だと。俺をなんだと思ってるんだ。そこに近衞前久が現れた。
「明智殿、信長殿は官位について何て言っていた?」
「特に何も言っておられませんでした」
「困ったお人や。わしは反対なんや、征夷大将軍はまだいい。太政大臣、関白は藤原家でなければあかん。それがどれでもいいから選べなんて朝廷は何を言ってるやら」
「関白様は反対なのですか?」
「反対だが仕方ないんや。明智殿。信長殿に征夷大将軍を受けるよう上手く言ってはくれぬか」
「上様はそれがしのいう事は聞きませぬ。直接言われたらどうですか?」
「冷たいのう。機会があれば言うてみるわ。で、どこに行くんや」
「備中へ。羽柴秀吉殿の応援です。上様も後から御出馬されます」
「そうか。秀吉のところへか。そういえば秀吉が言っておった。信長は危険だ、あのやり方では反感を買う。いつか誰かに討たれるのではないかと」
「そんな事を羽柴殿が」
「それとな、明智殿の事を褒めておった。あの男は素晴らしい、秀吉にはあのような交渉はできんと。秀吉にできない事を簡単にやり遂げる。もし、信長に何かあれば天下を取るのは明智光秀だ、その時は喜んで味方すると」
秀吉が陰ではそう思っているのか、光秀は近衞前久を信用していたので素直に信じてしまった。
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