第74話 風魔小太郎

 風魔小太郎、その姿を見た者は身の丈七尺の大男という者もおれば、こじんまりした爺さんという者もいる。そう、変装の名人で風魔でも一部の上忍しか本当の顔を知らない謎の人間である。


 風魔は、北条水軍だった岡部が駿河で土屋と名乗っている事、間宮兄弟が駿河へ逃亡した事は調査済みだが、武田と北条は同盟を結んでいるので表立った調査はしていなかった。


 今回の北条水軍行方不明事件、船の残骸が東伊豆の海岸に打ち上げられ、船が砕けたような壊れ方をしていたため、暗礁に乗り上げたか、戦闘があったかどちらかだと思われた。


 水軍は海を良く知っている。暗礁になど乗り上げるはずもない、となれば戦闘だがどこの船かと考えると隣国を疑うことになる。


 小太郎は風魔忍者20名と駿河へ向かった。自分も一忍者としてである。味方も自分が小太郎とは気づいていない。以前、駿府城の調査に行った忍びは誰一人戻ってこなかった。


 それを踏まえ慎重に行動するよう、偽の小太郎から指示されていた。






 その頃茜は伊賀の里にいた。伊賀忍者の棟梁、服部半蔵に会うためである。服部半蔵は徳川家康に仕えていたが徳川家滅亡により、次の仕官先を見極めるべく各地に配下の忍びを派遣していた。


「半蔵様、お久しぶりでございます」


「茜か。今は武田諜報網の棟梁だそうだな。大した出世ではないか」


「亡き信玄公のご寵愛を受けながら忍びの役目もしておりました。現在のお屋形様になってからは、武田諜報網を任されております。武田には他に、お屋形様直属の伊那の者もおり皆優秀な者ばかりでございます。

 今日お目にかかったのは、お屋形様の命によります。服部半蔵並びに伊賀者を是非に雇いたいと申しておられました。手付金として金二百両を持参しております」


「勝頼殿の活躍は知っている。すでに5カ国の太守であるし、ただな。旧徳川家に仕えていた身としては心情的にな」


「お屋形様は、天下を見据えておられます。敵は信長ではない、秀吉だと申しておりました。秀吉は甲賀忍者を使っております。故に伊賀の者を使いたいのです」


 ほう、信長ではない秀吉だと言うのか。半蔵も同じ意見であった。忍びの情報は裏の裏まで見抜く。勝頼に先見の目があるのなら検討の余地はある。秀吉が甲賀忍者を使っているのは知っている。


 だが、信長が使っているのは伊賀者だ。直接関わりはないが、知らぬ輩ではない。


 と、そこに甚三郎が現れた。


「棟梁、前にお話した通りそれがしは勝頼殿に借りがございます。諏訪の工場で捕らえられた際、捕虜とも思えない格別なもてなしの上、怪我まで治療していただきました。その上、何も要求することなく解放してもらいました。

 それがしを、勝頼公の元へ派遣させていただけませぬか。家康様亡き後、勝頼公こそお仕えすべきお相手だと存じます」


 甚三郎め、随分と惚れ込んだものだ。会ってみるしかあるまいなと半蔵は旅支度を始めた。





 その頃、勝頼は大崩の造船所にいた。船は出払っていて、小型船が二隻止まっているだけである。研究所に助さんとその配下、あと戦国飛行少女隊、もう少女という歳ではないので戦国飛行隊に名前を変えさせた4人のくノ一が次の試作機の検討に入っていた。またまた勝頼が無茶な要求を出したのである。一応周囲は楓と伊那忍者数名で警戒している。


 駿府城におつかいに行っていた小姓が戻ってきた。何か不吉な予感がしたので、勝頼は見晴らし台兼銃発射台に黄与、紫乃とともに登った。


「なんか変だ。楓から連絡は?」


「ありません。他の者も異様に静かです。おかしいですね」


 この造船場は海に面している。道は一つしかなく、横は崖でその上は森になっている。森の中には無数の罠が仕掛けてあり、忍び込むのは困難だ。崖を降りるのはまず無理で、勝頼のいる見晴らし台からは一応森も見えるが敵が攻めてくるには道を来るしかない、と思っていた。


 突然森の中から矢が飛んできた。


「え、そこから来るの?普通じゃねえな。どこの忍びだ? おい、撃つぞ」


「了解!」


 勝頼は銃口を森に向けた。そう、この銃は連発銃である。弾倉としてベルトの上に弾丸を乗せ横にスライドしながら連射できる、いわゆるマシンガン。というと凄く聞こえるが、最初の50発は内蔵した高圧エアーで連射が可能、ところがそれ以降はエアーが切れて、 1:引き鉄を引く、2:ベルトをずらす、 3:たまに銃身冷やす の繰り返しで三人一組でないと使えない。それでも2秒に一発撃てるので当時としては画期的な武器である。


 勝頼は森に向けて連発銃 嵐乱連アラレをぶっ放した。


 ダダダダダダ という音に続いて森が蹂躙される。あっという間に100発の銃弾を森にばら撒いた。




 少し前の事、風魔忍者20名は駿府城を張っていた。勝頼の小姓がどこかへ出掛けるのをつけたところ海岸線に向かったので、もしやと思い全員で尾行した。


 途中、森の中に武田の忍びらしき者がいたので風向きを利用し眠りガスを吸わせ寝たところを縛り上げた。


 一人女忍者が眠り耐性があるのか、異常に気づいたので四方から手裏剣で仕留めた。


 小姓は何事もなかったように、というか気づかないまま崖下の建物に入っていった。


 小太郎はこの部隊の長ではない。一兵隊の振りをしている。長が、あの建屋を調べるよう命じたが、その時数人が出てきて見晴らし台にのぼっていった。


 まずはあの見晴台のやつらを仕留める、と15名が森から攻撃を仕掛けた。残りの5名は道から侵入すべく進んでいった。




 15名はこちらに注意を向けさせるべく矢を放った。その間に別働隊が侵入する作戦である。ところが、突然銃撃された。しかも連発で。避ける間も無く全員が被弾し半数は即死した。


 小太郎は道から侵入する5人の中にいて建屋に向かって進もうとしたが、立ち止まった。見晴らし台から一人の男がこちらを見ていた。その時、建屋から2人の女が出てきた。


 女は出てくるなり手に黒い何かを持ちこちらに向けた。小太郎他4人はとっさに避けたが、2人は数発被弾し死亡した。


 もう一人は当たったと思ったら薪のような木になっていた。小太郎の変り身の術である。実際は胸の中に入れていた身代わり用の薪だけ残して素早く動いたので、変わり身の術に見えるのである。


 2人の女は桃と紅だった。手に持つはリボルバー雪風である。



 あっという間に封魔の数は20人が3人になってしまった。見晴らし台から男が同じ黒い銃を持ち、降りてきた。


「どこの者だ、北条か?」


「道に迷ったのですが、ここはどこでしょうか?」


「俺は武田勝頼だ。俺の顔を知らないのか。駿府の者ではあるまい。まして、こんな道に迷い込む者もおらんわ。甲賀ではないな、するともしや風魔か?」


 答える代わりに3人は三方向に散らばりながら刀を抜いた。見晴らし台から降りてきた黄与、紫乃を加え、風魔3人対勝頼隊5人の戦闘が始まった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る