第119話

「ラシェル、あの任務の話って本当なの?」




「何が?」


「もう、ほら煙草置いて。今度のウィスパー操縦の任務、その、ラシェルがあの“悪魔の遣い”を乗せていく特別任務だって…………」


「マリーも聞いたの?ウィスパーが絡むと整備員連中からどんどん話が漏れるわね、全く」


「……本当なの?」


「ええ、本当よ。上層部が匂わせていたけど、とうとう私に指示が来たわ。明後日には幹部室で直々に任務説明を受ける事になってる」


「何でよりにもよって、ラシェルなの?あんな曰く付きを乗せるなんて……他のウィスパー乗りに任せたって良いでしょうに。これでラシェルに変な噂が立ったら、たまったもんじゃないわ」


「…………まぁ、粗方理由は想像付くけどね」


「え、分かるの?」


「私は整備員じゃないけどね、恐らくはあの新開発の搭載機構が原因でしょう」


「新開発?」


「ほら、あったじゃない。ウィスパーを空中で係留する、ジェリーガスを充填する装備」


「言われてみれば、そんなのあったわね………稼働機関が停止しても、空中に係留出来る機構、だったっけ」


「“駆動”機関よ、マリー。あの空中係留機構で、風船をくくりつけておくみたいに、空中にウィスパーを係留出来る様になった訳よ」


「うん、成る程ね」


「マリー今分かってないのに、分かったフリしたでしょう、ふふ、あはは、分かりやすい、ふふふ、すぐ目反らすんだもの」


「だってしょうがないじゃない、私はただの一般構成員だもの。操縦士でも整備員でもないし、ラシェルみたいなレイヴンですらないんだから」


「ごめんごめん、そうよね、意地悪しないわ、ごめん」


「それで?何でその係留装置とラシェルが関係あるのよ?」


「憶測の域は出ないけどね。係留装置のお陰で、ウィスパーを空中に“留めておく”事が出来る。まぁウィンチなりケーブルなり使うのかも知れないけどね、ここまでは分かる?」


「うん、まぁ」


「なら続けるわよ。つまり係留装置で空中にウィスパーを操縦士無しで係留出来る。場所にも寄るだろうけど、崖のど真ん中とか大陸の下部とか、人がそうそう寄って来れない場所に係留すれば、まず他の歩哨だの憲兵だのは寄って来れない。無人のまま、安全にウィスパーを待機させられる」


「……うん。そこまでは分かるわ、でも何でラシェルなの?」


「つまり、短期間なのか長期間なのかはまだ分からないけど、任務中にウィスパーを完全に無人に出来る訳。つまり、操縦士もウィスパーを離れて任務の実働部隊に参加出来る訳よ。そして、よりにもよって私はレイヴン。もう、分かるでしょ?」


「待って、じゃあそれってつまり」


「ええ」






「この私にあの悪魔のエスコートだけじゃなく、シッターもやれって事でしょうね」

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