第99話

 ある技術者の報告記録より抜粋


 1832年

 夜霜の月、17日。





 随分と騒がしい日だった。


 とんでもないガキが技術班に押し掛けて来やがったんだ。


 信じられるか?つい3日前にカラマック島に来たガキが、自分に開発をさせろと押し掛けて来たんだぜ?


 それも、手伝いとか整備員とかじゃない。自分が設計した航空機をお前らが組み立てろだとよ。


 ふざけんじゃねぇ、と突っぱねたんだが、このガキがしつこいの何の。


 俺と同じラグラス人で枝みたいに細いチビの癖に、裾に噛み付いた犬みたいに俺から離れようとしねぇんだから、流石に参ったよ。


 ド素人の設計図なんぞケツ拭くのが精々だと何度説明しても、俺達をスパナ持ったヤギみたいに見下しやがる。


 こりゃ一度痛い目見せた方が早いか、とまで考え出した頃にクルーガーさんが仲裁に入ってきた。


 正直、助かったよ。


 幾ら俺がガサツったって、ガキを凝らしめるのは流石に良い気はしねぇからな。しかもこう言いたくは無いが、顔だけに限って言えばかなり可愛い女の子だぜ?俺だって痛む良心ぐらいある。


 しかし、話を聞いてる内にクルーガーさんが妙な事をやらせ始めた。


 そのガキに、設計図を書く様に言ったんだ。


 どんな物を作ろうとしてるんですか、ってな具合にな。


 するとガキがペンと定規を引ったくる様にして、一心不乱に設計図を引き始めたんだ。


 暫くして、クルーガーさんが妙な事を言い始めた。


「この子の指示通りに試作機を作ってください」だとよ。


 流石の俺も驚いたね、あのガキの言う通りにしろってんだから。


 俺が言うまでもなくクルーガーさんに質問と文句が殺到したよ。何故あんなガキの言う事を聞くんですかって。


 そして、誰がどれだけ、何度聞いても、クルーガーさんは「彼女には破格の才能があるかも知れません」の一点張りだ。


 その上、「何かあれば私が責任を取ります」の一点張りだもんで、そこまで言われちゃ俺達にはどうしようもない。


 当のガキにしても、態度にゃ思う所はあるが不思議と指示は的確で、内容もはっきりしてると来た。


 飽きる程に練習した講話みたいに淡々と説明しやがるし、指示も全部暗記してる様に話しやがる。


 変に落ち着いてるのがやたらと不気味でな、熟練の技工士か技術者が女の子の皮を被ってるみたいに見えて皆、気味悪がってた。


 あのガキは何なんだ?奇妙で仕方ねぇ。クルーガーさんは何やら思う所があるんだろうが…………


 正直に言うなら、あんなガキは追い払って欲しいってのが本音だな。






 あの不気味なガキは有角種らしく、頭にヤギみてぇな巻き角も生えてるもんだから何やら不吉で仕方ねぇよ。


 俺やクルーガーさん、技術開発班の連中に悪い事が起きなきゃ良いが。

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