第79話

「聞いたか?あのカラスの話」





「本当なのか?……ブロウズが、カラスを従えてるって話」


「ルドヴィコが真っ青になって走り回ってたぞ。あのルドヴィコがだぞ?」


「信じられんが、あいつが嘘を言い触らす様には見えん。大体、あれだけの愛煙家が“煙草どころじゃねぇ”と言いきったんだ。ただ事じゃねぇさ」


「クルーガーさんには“恐れる事は無い”って聞いてたんだが………いよいよもって、恐ろしい事になってきたな」


「でも、ブロウズがカラスを扱うのは任務だけだって話だったじゃねぇか。不気味な、目ン玉くり貫かれたカラスを呼び出すって話だろ?」


「そりゃあそうだけどよ、いきなりカラスが肩に止まったんだぜ?有り得ねぇだろ、そんなの。何か黒魔術だのでカラスを呼び出すだけでもとんでもねぇのに、森中のカラスを従えていたらどうする?その内俺達、ブロウズの話をするだけでカラスに耳を引っ張られる様になるぜ」


「たかだかカラスが肩に留まっただけだろ?そんなに恐ろしい事か?」


「馬鹿かお前は、恐ろしいに決まってるだろ。お前、森を歩いてて肩にカラスがいきなり留まった事があるか?ねぇだろ?野生のカラスなんてな、普通は餌投げてもそうそう寄って来たりしねぇんだよ。それどころか、腐った餌を投げた奴を皆で覚えてる様な、タチが悪い程に警戒心が強い鳥なんだよ」


「じゃあブロウズが好かれてるとかじゃねぇか?」


「野生のカラスにいきなり好かれる訳無いだろ、飼育してようやく懐く様な鳥だぞ。野生のカラスがいきなり肩に留まるなんてそれこそ、悪魔の使いでも無いと有り得ないんだよ。いい加減、俺達もブロウズを警戒するべきかもな」


「そりゃあ幾ら何でもあんまりだろ、ブロウズが何をした訳でも無いんだからよ。クルーガーさんも言ってた通り、俺達ぐらいしか味方が居ねぇんだろ?俺達まで警戒したらあんまりじゃねぇか。色々噂はあるが、俺は味方してやった方が良いと思うぞ」


「頭を齧られるまでそうやってるつもりか?言っておくが、タカを信じてタカに喰われた奴は皆に“どうしようもない愚か者だ”と笑われたんだぞ。喰われるまでは“彼こそ自然の代弁者だ”と持て囃されていたにも関わらず、だ」


「いや、だがよ………」


「兎に角、俺は生き残る方を選ぶ。お前がカラスの群れに挽き肉みたいにされても、助けは期待するなよ、俺まで挽き肉にされたらたまったもんじゃないからな」





「待てよ、分かった。分かったよ。俺もブロウズを警戒する事にする。だが、まずはもう一度ルドヴィコを呼んでこい。しっかり話を聞いてからにしよう」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る