第73話
「自律駆動兵が搬入されるのは来週だった筈だろ」
「偶然にも早く搬入出来る目処が立っていたらしい。こればかりはどうしようもない、諜報班の落ち度では無い」
「クソッタレめ、よりによってこのタイミングで早めに搬入するんじゃねぇよ」
「一体でも手を焼くと言うのに、今は更にもう一体、コールリッジの所に機動型の自律駆動兵が搬入されている。今後益々狙い辛くなるぞ、アキムは?」
「別室で思案中だ、今回の件で色々思う所があるんだろ。しかしあれはまずいな、実質、巨人を相手にする様な物だ。最近は手練れが足りてない事を差し引いても、我々のレイヴンが複数人がかりで 殆どが叩き潰された。生存者が居なかったら、まともな情報さえ手に入らなかった……」
「……生き残ったのは、レイヴン一人だけなのは間違いないのか?」
「あぁ、俺の一番弟子が一人だけだ。周りが手練れで無くとも、あいつが居ればまず大丈夫だと思ったんだが………今ではむしろ、いきなりあんな化け物とぶつかって五体満足で生き残っただけ、僥倖だと思わないとな」
「………………ユーリか?」
「あぁ、ユーリだ」
「……その、何というか、撤退より名誉の死を選ぶタイプだと思っていたが」
「元々はそういうタイプだが、“死に時を間違えるな”とよく教えておいたのが功を奏した。癖があるのは勿論だが、あいつが優秀なのは間違いない」
「あぁ、確かにあの状況から情報を持ち帰ってきたのは、随分な功績だ。あの新兵器の事も分かったしな。だが………」
「……あぁ、士気の停滞は免れないだろうな。あれは黒羽の団にはとんでもない脅威だ。確かに我々は、今熟練兵の不足が問題になっている。デイヴをわざわざ呼び込む程にはな。だが今回のレイヴン達だって、経験は浅くとも相当な訓練を積んでいる。それが殆ど殺されたんだ、それだけでもあの巨人がどれだけ脅威の存在かが分かる。何とかしないと、レイヴン全員があの兵器に食い潰されちまう」
「相当な費用を注ぎ込んで開発されたが故に、幸いにも本格的な量産はまだ不可能らしいが……………もし本格的にあの巨人がレガリス中に量産され始める様な事があれば、いよいよもって我々は窮地に追い込まれる事になる。現に今でさえ、上流階級は湯水の様な金を払ってあの駆動兵を買い求めているらしい。幸いにも、高額過ぎて一部にしか行き届いてないが」
「何にせよ、とんでもない兵器を作ってくれたもんだ、アレを周りに被害を出さずに片付けるとなると相当策を練る必要があるぞ」
「……しかし何にせよ、今はコールリッジを何とかしなければ」
「コールリッジを?レイヴンが何人も死んだばかりなんだぞ、暫くはコールリッジは狙えない」
「いや、今コールリッジから手を引けば、『あの巨人を持っていればレイヴンは手が出せない』と帝国に印象付ける事になる。すると、上流階層の“心当たりがある連中”は金貨を山ほど払ってあの巨人を買い求めるだろう」
「……………そうか、このままあの帝国軍や開発班に資金が集まっていけば……」
「今の所、あの巨人は高額過ぎて安定した量産は殆ど不可能らしい。その証拠に実施試験や試験運用を除けば、本格的な交戦、実戦記録は今回が初らしいしな。だが資金が充分に集まり、貴族達からの需要が一定数集まれば、帝国軍は今まで以上にあの自律駆動兵の開発に注力するだろう。そうして万が一にも生産が安定すれば、量産が確立され、配備も進み、我々が狙う対象の傍にあの巨人が何人も配備される事になる」
「クソ、つまりコールリッジをこのまま排除出来なければ………」
「あぁ、我々は直に優位を失い、今後、黒羽の団の未来は絶望的になっていく。レイヴンが来ようとこの鉄の巨人には手も足も出ない、とな。言うまでもなく、士気への影響も計り知れない」
「何としても、今の段階であの巨人を掻い潜ってコールリッジを排除しなきゃならん、という事か。こいつは面倒だぞ」
「一応は諜報班にも資料と情報をかき集めさせているが…………例え情報が集まった所で、あの巨人にそこまで効果的な弱点がある様には思えん。それに敵は巨人だけじゃない、本来の帝国兵達も同時に相手にしなきゃならないんだ。相当腕利きのレイヴンが必要になる」
「しかし士気も停滞している今、もう一度あの巨人が居ると分かっている所にレイヴンを差し向けるのはな…………サメの口に頭を突っ込んで“噛まれるかどうか確かめろ”と言う様なものだ」
「後からアキムにも提案するつもりだが、一つ案がある」
「……クロヴィスがそんな言い方をするとは珍しいな、何だ?」
「レイヴンをもう一度、巨人にぶつける。時間稼ぎ役をな」
「何だって?」
「現場で並み居る憲兵達を蹴り飛ばし、コールリッジの首を斬り飛ばす。件の巨人は、股下をすり抜けるなり頭上を飛び越えるなりして、別のレイヴンが引き付ける」
「……何が言いたい?餌にしたレイヴンが叩き潰されてる最中に、コールリッジの首をはねろって事か?そんなもの爆弾を抱えて突撃するのと大差無いぞ。大体、報告によればレイヴンでさえ簡単に叩き潰されたんだぞ、時間稼ぎにすらならん可能性もある。論外だ」
「まぁ待て。引き付けるにしろ殴り会うにしろ、具体的な弱点も分かっていないのにあんな怪物の様な巨人とレイヴンを戦わせる訳には行かない。だろ?」
「勿論だ。今回散ったレイヴン達も今鍛えているレイヴン達も、皆誇り高い戦士、 大事な兄弟なんだ。“現場でお前が死ねば少しは時間稼ぎになるかも知れない、潔く死ね”なんて命令出来る訳が無い」
「そうだ。誇り高い戦士を、そんな数秒の為に使い捨てる訳に行かない。もう誰一人だろうと死なせる訳には行かない」
「どうした、回りくどいな。要点を言ってくれよ」
「だが、一人居るだろう?殺しても死なない様な、しぶといレイヴンが。その上、最近“高潔に生きろなんて死んでも御免だ”と言ったばかりの男が。ついでに言うなら、君からすれば死んだ所で痛くも痒くもない男が」
「…………おい、嘘だろ」
「帝国の最新技術に、黒魔術で対抗しようってのか?」
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