第35話

 「丁度良い所に来ましたね、クルーガー」






 「……出直した方がよろしいですかな?」


 「いえ、結構です。そこについてください」


 「ミスゼレーニナ、都合が悪いなら」


 「クルーガー。そこに、座りなさい。二度は言いません」


 「分かりました、分かりましたよ。此方も元々話すつもりでしたから。それで?」


 「貴方の発明品について伺いましょう。良いですか、“貴方の”発明品です」


 「…………グレムリンやリッパーに何か問題が?それともヴァイパーに?」


 「ウィスパーです。良いですか、クルーガー。ウィスパーです。とある筋から聞いたのですが、どうやら最近はウィスパーは貴方の発明品という事になっているそうですね。それについて説明をしてもらいましょうか」


 「ウィスパーですか?…………あぁ、成る程。確かに聞きますね、皆どこから聞いたのかは知りませんが何故か、ウィスパーを私の発明だと思う者が多くいるとか」


 「勿論、否定しているのでしょうね?」


 「ええ、聞こえる限りは、ですが」


 「……………………良いでしょう、今はそれを信じましょう。ですが、今後とも強く否定してください。貴方が作り替えた物はまだしも、私が直々に作った物まで貴方の発明品だと思われるのは我慢なりません」


 「分かりました、私の耳に入れば否定しましょう。それでよろしいですかな?」


 「ええ。確実にお願いします」


 「それで、此方の話に移らせてもらいますが、資材費と開発費の話です」


 「審査は通りましたか?」


 「いえ、大半が却下されましたが、一部は審査が通りました。資材費においては貴方の要求額の全額とは行かずとも、半額程が提供されるそうです」


 「半額……ですか、まぁ妥協点でしょう。あのウォリナーの頑固さから考えれば、一部でも通っただけ良しとしましょう」


 「その資材費ですが、条件がありまして」


 「……そういう訳ですか、全く。良いでしょう、その条件は?」


 「資金の用途が正式に指定されているんです。指定通りに使われているか確認の査察も入る、との事で」


 「一応聞きますが、その指定とは?」


 「資金の大半をウィスパーの量産、及びウィスパーの量産体制設立の為に使用する事。以上です」


 「話になりませんね、却下です」


 「ですが、指定通りの用途に使われていない事が査察で確認された場合、“可及的速やかに全額返還させる”そうですよ」


 「………………………………」


 「そんな眼で睨まれても私にはどうしようもありませんミスゼレーニナ、仕方ありませんよ」


 「ウォリナーの意地の悪さには辟易します、全く」






 「おや、来客ですかな」

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