8.紅花の妖精


(ええと…貴方達、探してたの?)

(はい!あれだけの妖精眼があるなら、妖精に好かれる筈ですから!)

(精霊眼じゃないの?)

(意味はほぼ同じですの)

(可愛い子だよー)

(でもちょっと弱ってるの)

(治癒しとくね)

 自由に念話を飛ばしてくる精霊達の所業に、半ばくらくらするような心地だったが、表情には出ないように努める。とりあえず弱っているということだったが、それは精霊たちが世話をしてくれるようだからいいだろう。問題は、その子がメリーベルさんに付いてきたであろうことと、メリーベルさんがどうやら精霊達の言う『妖精眼』の持ち主であるということだ。

(さてと…サブマスとエリーナさんにどう話をするか……この後のお茶会で話した方がいいよね)

 平民である私が、またこの屋敷に来ることはまず無いと思う。メリーベルさんがどの程度見えるのか、見える事がどういう意味を持つのか調べてからとも考えたが、引き伸ばすよりは今の方がいいだろう。


 先生の話は地方ごとの精霊や妖精に関する伝説や昔話に移っていた。メリーベルさんは楽しそうにノートをとっている。サブマスとエリーナさんは、それを愛おしげに見つめている。

(この家族にメリーベルさんに妖精眼がある事を伝える…か…)

 正直、何も無いところに問題を掘り起こすような気がしてしまうが、メリーベルさんの気持ちを確かめる時間がないのでどうしようもない。先生の話を半分聞きながら、妖精が多いと言われている地名をいくつかメモしていく。

(主様)

(連れて来たよー)

 ふいに膝の上に重さを感じてそちらを見た。

(どうやって連れて来たの?)

(ドアのところだけ転移しましたの)

 …うん、もう何があっても驚かない気がする。

(この子ですのよ)

 紅花の妖精だという子は、たしかに薄汚れた感じだった。大きさは7、8センチくらいで、乾燥した紅花を集めて蓑か丸く団子にしたような体から頭が生えたような、2頭身の人形のような感じだった。小さく治癒紋様を飛ばすと汚れた顔が綺麗になる。鮮やかな赤い虹彩が私を見た。そして、そのままその目はメリーベルさんへ向けられる。

(メリーベルさんと一緒にいたい?)

 妖精は、ぶんっと音がしそうなほど勢いよく私に目を向けると何度もコクコクと頷いた。

(あのね、主様。妖精って自分の場所からあんまり離れると弱って消えるんだよ)

 カルビンが妖精を撫で撫でしながら言う。

(はい、この子はこの屋敷にある乾燥紅花の瓶の中で眠ってたみたいですのよ)

(どうしてもあの子について来たかったみたい)

 ライとファーナの話を聞きながら、ここは腹を括るしかないと決める。

(どうしようも無くなったら、生まれた場所に戻してあげるか、私が面倒みよう)

 そう決めると、少しだけ気が楽になる。

(妖精のままだと、ずっと一緒にいるのは厳しいの?)

(主様のように、日常的にその土地に住んでるなら大丈夫ですけど…この娘さんは今後どうなるか…)

(紅花の子は、花畑から離れて2ヶ月だって)

(…2ヶ月ですごく弱っちゃうか…このまま着いていくのは危険ね。子爵領で暮らしているなら問題なさそうだけど、多分メリーベルさんは早ければ4年後には王都の学園に行くんじゃないかな…)

 紅花の妖精が口をへの字に曲げてへにゃーっと座り込んだ。わかりやすい。

(妖精のまま捕獲契約はできるのかしら?)

(捕獲は出来るはずです)

(それよりは名前をつけてあげたほうが安定するよ)

(名付けには魔力を使うんでしょ?魔力ってどれくらい必要?)

(名付けには、名付ける方の思いと名付けられる方の思いが作用するので…思いが強ければそれなりに…)

(メリーベルさんにやらせても大丈夫かしら?)

 とりあえずは、サブマスとエリーナさんに話してからになるけれど…紅花の妖精は、またメリーベルさんを見つめていた。

(メリーベルさんの意思も大事だしね)

 できれば相思相愛であって欲しい。私もそんな思いでメリーベルさんの背中を見つめた。

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