目玉焼き

「絶対ソースよ」

「いいや醤油だね!」

 両親がどうでもいいことで喧嘩してる。

 早く朝食食べないと遅刻するぞ。

「なんでわからないかなぁ。日本人なら目玉焼きには醤油だろ?」

 その理屈はおかしい。

「別にソースでもいいじゃない。好きなんだから!」

 その理屈は正しいと思う。知らんけど。

「大体あなたはなんにでも醤油をかけすぎよ。なんでご飯に醤油かけるの!」

「それこそ別にいいじゃないか。コメに醤油はおいしいんだよ!」

 確かにおいしい。でも真っ黒になるまでかけようとするのは間違いだ。

「君だってご飯にソースをかけるじゃないか!」

「あれはコロッケを上にのせてソースをかけるからよ! ついでにかかっちゃうの!」

 コロッケにソース、おいしいよね。ちなみに俺は醤油よりソースがかかったご飯のほうが好きだ。かけすぎはおいしくないが。

「なんでコロッケにソースなんだよ。醤油だろ!」

 ちげーよ。コロッケにはソースだよ。

「それこそ好きにさせてよ」

 いやどれでも好きにすればいいじゃん。ホントどうでもよすぎる。

「いいや。やっぱり醤油にすべきだ。なぜなら——」

「醤油は取りすぎると危険なのよ!」

 その言葉で会話が止まる。

「私、あなたの体が心配なの!」

「おまえ……」

 よかった。言い争いが止まったな。

「毎日のように醤油をドバドバかけるくらいならいっそ、ソースをかけてよ!」

 たぶん日本で一番醤油の消費量が多い家です。

 ちなみに母の苦労は絶えず、大量に使おうとする父を止めるため、最近は『薄口しょうゆ』に変えたわと言いつつ、醤油に水を混ぜて本当に薄くしている。

 俺を巻き込むなよ。

「すまなかった……」

「好きなものは好きでいいの。でも、一升瓶が一か月で無くなった時の恐怖、あなたにわかる?」

「それを聞いて少しゾッとしたよ」

 いや、三人家庭だからさ。俺育ちざかりだしさ。濃い目の味付けは好きだから。そのくらい消費しちゃってもおかしくは……いやおかしいな。

「ごめん、今後は気を付けるよ」

「あなた……」

「おまえ……」

 始まるぞ。

「あなた!」

「おまえ!」

 二人がテーブルをはさんで抱き合う。体制つらかろうに。つっかえてんねん。腰が。

 あと、目玉焼きが潰れるから。危険だから。味噌汁こぼれるって。

 激しく抱き合うな。息子の前で。抱きしめるな。こっちを見るな。来いってするな。今、俺関係なかったやんけ。なんで付き合わなあかんねん。知らんけど!

「ごちそうさま」

 いろんな意味で。

「まちなさい」

 父に止められた。学校遅刻しちゃうんだけど。

「「目玉焼き残さないの!」」

 二人して仲良いいやん。

「嫌いやし」

 いらんねん。目玉焼き。

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