満員電車

満員電車


「さぁ本日も各企業戦士が、地獄の門をくぐるためのゲートが開くのを、いまかいまかと待ち受けています。

 日本人は鉄の檻へ自らを閉じ込めるため鉄の門をくぐる。

 地獄の門をくぐるという行為を日々繰り返しています。

 そのサラリーマンたちの精神は、日々のストレスにさらされ限界を迎えようとしていますそのなか、今、ゲートが開きました!

 各企業戦士が一斉にスタート!

 おおーっとゲートは開いたが入り口がない!

 ぎゅうぎゅうに詰まっている乗車率120パーセントォ!

 いったいどうする気でしょうか。一本逃せば遅刻へ近づく。すでに2本スルーしている企業戦士たちには余裕がありません!

 あーっと! 先頭のサラリーマンが突っ込んだ!

 今、人の壁を打ち破らんとカバンを突っ込んでいったー!

 しかし阻まれる!

 出勤前の、しっかりあつげしょうのおばちゃんという壁に阻まれてしまう!

 どこをどうしたらそんな化け物みたいな化粧になるのか。誰を威圧する必要があるのかこの未開の原住民は!

 ここには動物はいない。日々鉄の檻で戦う企業戦士だけ!

 そんな化粧ではひるまな……おっと、違う!

 おばちゃんは降りた!

 なんとこの駅でおばちゃんは降りようとしていた!

 おばちゃんの厚い脂肪に守られていた壁が崩れた!

 そこへなだれ込むサラリーマンの群れ!

 群れて壁を形成していた先住企業戦士たちはバランスを崩し、吊革につかまったまま体を『く』の字に曲げざるを得ないーーー!

 しかし、しかし!

 おばちゃん一人のスペースにはやはり無理があった!

 企業戦士の突撃を跳ね返さんとする壁が形成されている! これでは入れない!

 残りの企業戦士よ、万事休すかあ!

 おっと駅員の登場だ!

 どんな人間の壁も物ともしない駅員の登場だ!

 それと同時に車内アナウンス攻撃!

 少しくらい隙間を詰めろよという精神攻撃だ!

 さらに駅員がサラリーマンを入り口にまとめて押し込み始める!

 ハードとソフトの両方から激しい攻撃が繰り出され、今、鉄の扉が……閉った!

 今日もミッションコンプリート!

 見事鉄の檻は……おっと!?

 開いた、再び開きました!

 閉じたはずの地獄の入り口が再び開いたぞ、何が起こっている!

 あーっと駆け込み乗車だぁぁあぁ!

 人の壁に駆け込み乗車をしたサラリーマンが挟まっていた!

 駅員もこれには塩対応―!

 企業戦士を壁から引きはがし地獄の門から引きずり出したー!

 これにはサラリーマンもがっくり、うなだれております!

 地獄へ向かう猶予を得てなおうなだれる。くじける!

 定刻通りにつかなければさらなる地獄が待っているという二重苦に、企業戦士の心はズタボロだー!

 おっと待ってください、ここでアナウンスが入ります。

 なんと遅延が発生しています!

 駅で遅延が発生―!

 これにより遅刻するはずだった企業戦士が、上司に白い目で見られるはずだったサラリーマンが救済―!

 地獄の窯の温度を少しだけぬるくする救済措置、遅延証明書が発行されます!

 これにはうなだれていたサラリーマンもガッツポーズ!

 目の前を通り過ぎていく電車を横目に、カバンから取り出した水筒でコーヒーブレイクだ!

 今回のレースは以上で終了となります。遅延証明書は駅の入り口、または駅員から直接お受け取りください。それではまた次回!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る