海外旅行


「わー、きれいな海!」

 私は友人と一緒に女子旅に来ている。

 今は2人で使うには大きなプライベートビーチについたところだ。

「来てよかったなー」

「うん!」

 2人して顔を見合わせて喜ぶ。私たちの暮らしているところは都心部で、周りには海どころか自然すらない。

 無機質なビルがいっぱい立ち並んでいて、それだけで気が滅入ってしまう。

「見て、サメ!」

「ほんとだ、食べられるかな?」

 このプライベートビーチは左右を、だいぶ遠くにだけど出っ張った岩が取り囲んでいる入り江になっている。

 目の前には水平線が見え、まるで映画のワンシーンのようだった。

「っきゃ!」

 友人が驚いて尻もちをついた。なんだろうと思ったら、入り江の入り口からこちらに向かって、サメが加速しているのが見えた。

 仕方ないなぁ。

「っほ!」

 ポーチの中から愛用の剣を取り出すと、とびかかってきたサメを細切れにする。

 そして要領のいい友人が細切れになったサメを魔法で受け取り。

「ナイス!」

「あんた、最初っから私にやらせる気だったでしょ」

「えへへー」

 満面の笑みである。

 サメは早速海の家で借りてきたバーベキューセットで火を通す。

 途中『生焼けは嫌』と言い出した友人が魔法で火を通し始めたので止めた。

 魔法を使うとあんまりおいしくなくなるのよ。

「いっただきまーす!」

「いただきます」

 バラしたサメに醤油とバターを塗っていただく。獲れたて新鮮なのでとてもおいしい。

 少し臭みがある気がしたので、胡椒を振りかけていると。

「それ私にも」

 友人にせがまれたので少し振った。おいしそうに食べていた。


 それから日光浴を楽しみ、少しだけ日が落ちてきたころ、再び海にサメのヒレが見え隠れし始めた。

 どうやら撒き餌にしておいたサメの頭におびき寄せられたようだ。

「よし」

 私は剣を取るとヒレの一つに照準を合わせる。雷の魔法を剣に乗せると。

「ふんぬぁ!」

 気合と共に剣を投擲。

 剣はサメのヒレに命中すると、稲妻を落とした。

 衝撃と電撃で周辺のサメも一緒に浮き上がってくる。6匹か。まずまずだな。

「やったねー」

「解体、手伝えよ」

「えーやだー」

「子供たちの分にもなるんだけど」

「わかったーやるー」

 日光浴を楽しみきり、すっかりだらけ切った友人を起こすと、サメを回収。

 解体して収納袋に詰め込んだ。いやぁ、なんでも入る収納袋は実に便利だ。買っておいてよかった。


 そろそろ帰ろうかと片付け始めると、上半身裸で浅黒い肌をした男が20人ほどやってきた。

 一様に髪が金色であるところを見ると、どうやらこの世界の種族の一つらしい。

 バーベキューセットを借りた店主は黒髪でちょっとだけ日焼けしている人だったから、近しい種族なんだろう。

 おや、集団の後ろで困ったような顔をしているじゃないか。金髪種の一人と肩を組んでるところを見ると知り合いなのか?

「店主。ここはプライベートビーチと聞いたのだが?」

「ハイ。ソウデス。ムリヤリ、ヨバレル。ツレテクル、サレル」

 まだ私たちの言葉を使うのに慣れていないのか、だいぶ片言だけど意味は聞き取れる。

 どうやら無理やり金髪種に連れてこられたらしい。

「そうか。こいつら話は通じるか?」

「ムリ。ツウヤク、シロ、イワレタ」

 なるほど。

「では伝えてくれ。帰れ。さもなければご自慢の竿が無くなるぞ、と」

「ハ、ハイ!」

 店主が何かごにょごにょと伝えると、一同から笑いが起きた。

「ワンのが何をしちゅうがっぺよ、でぇきルもんだらしちゃっせぇ!」

「店主。何を言っているのだ?」

 男の一人ががなり立てているが、通じないということをわかっていないのだろうか。

 まぁ、なんか下品なことを言っているような気はするが。

「エ、エト。ヤレルナラ、ヤレト」

「そうか。ではやろうか」

 友人に目配せをすると、すっごく嫌そうな顔をされた。

「頼む」

「キャビア作ってねー」

「……チョウザメがいないから無」

「キャビアねー」

「……努力しよう」

 友人が呪文を唱え始める。友人を中心にして緑色の魔方陣が広がっていく。

 魔方陣はやがて入り江すら飲み込むほどの大きさとなり。

「えーい!」

 魔法が発動した。

「「「ッキャー!」」」

 そして金髪種を全員色白女子に性転換した。

 ふむ。我が国で苦肉の策として生み出された魔法だが、こうかはばつぐんだな。

 心まで一気に女子化するので、胸を露出させているのが恥ずかしくなったのであろう。

 そそくさと退散していった。

「エト、スミマセンデシタ」

「気にするな」

 ふむ。店主は気づいていないようだが、女子化に巻き込んでしまったな。

 友人のほうを見るとすごくめんどくさそうな顔をされた。

 とぼとぼ歩いて帰ってく店主を後ろから襲うと気絶させ、魔法をかけてもとに戻しておく。

 と思ったら。

「む。元に戻らない」

 女子化したまま元に戻らな……ほう。これはこれは。

「元が、女子か!」

「うわぁ、つまんなーい」

「そういうこと言うんじゃない!」

 ということでもろもろを店主の店に運び込み、ごめんねと書置きを残して退散した。

 帰りにアキバとナカノによって、同僚たちにお土産を購入しておいた。

「また来たいねー」

 私たちの世界への帰り道。開いたゲートの前で友人が笑う。よほど楽しかったらしいな。

「そうだなー」

 次は戦争を終結させてから来たいな。早く終わらないかなぁ、腐女子世界大戦。どっちのカップリングでも私はイケルのに。

 後日、持ち帰ったBL本が新たな戦争の火種になりかけた。

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