夜間飛行

 夜のフライトは好きだ。

 キラキラ光る星空に囲まれているみたいで。

 操縦桿を握れば自分の思い通りに飛んでくれるけど、上下さかさまにするとどっちがどっちだかわからなくなるのがタマにキズ。

 難しいよね、計器の見方。

 この間、上司にもそれで怒られた。

 ちょっとふざけて上下反転させてたら、どっちがどっちかわからなくなり、民家に突っ込みそうになったから。

 都心部はいつでも明るいのだけど、少し離れれば明かりが急に少なくなっていく。

 夜が深まればそれは顕著に表れる。

 ポツポツと点在している街の小さな明かりを誘導灯と間違えそうになったこともある。

 眼下では明かりに誘われるかのように、人が建物へ入っていくのが見えた。

 規則正しい明かりがあるだけで、きっと人は安心できるのだろう。

 真っ暗闇の中、なんの目印もなく進むことは出来ない。人も、飛行機も。

 飛行機の低いエンジン音が、静まり返った街の中に響いていく。

 操縦桿を少し傾けると、目的地へと進路を変える。

 決して上司から怒られたからじゃない。

 今も通信機からとても言葉に表せないような言葉が飛んでくるけれど。

 やがて俺の上司の罵詈雑言が、そのまた上司に怒られたのか、徐々にトーンダウンしていった。

 その会話も楽しい。楽しいことは大切だ。

 少しでも今をよくしたいと思ったらまず楽しむこと。

 何が楽しいのか、何が好きなのか。それらを見失わないようにして生きていくことが大事だと思う。

 俺は空を飛ぶのが好きだ。出来たら自由にこの空を飛んでみたい。そしてそこから眺める景色を、いろんな国々の景色を目に焼き付けておきたい。

 そうしたら死ぬときに思い出せるのが、きっときれいな思い出ばかりになるから。

 だけど航空法やらなんやらがあるからそうはいかない。

 この法律は『やたら目ったら飛び回る奴ばっかり』になったら大事故を引き起こしてしまうからあるのだ。そう、思うことにしている。

 同僚の中には、わざわざ電車の個室を取って、そこから眺める景色を独り占めしているのだという奴がいる。

 俺はその楽しみ方と似ていると思っている。

 この空を、自分しか飛んでいない大空を、一人だけの景色を楽しむ。最高の贅沢だ。

 たまにバードストライクがある以外は。

 キャノピーにぶつかった瞬間、なんか申し訳なくなる。それとたまに勢いがよすぎて貫通しかけるのも怖かったりする。

 でも、おおむね空の旅は快適で、とても贅沢だと思う。

 それに、近くで花火を見ることが出来たりもするのだ。

 ドォンという音で何があったのかと周りを見渡すと、下からヨロヨロと火の玉が上がってきて、少し上になったくらいでドオンと爆発する。

 花火とはよく言ったもので、大輪の花が咲く光景を間近で見た時は本当に楽しかった。

 もちろん航空法違反なので上司からすごく怒られた。停職くらったので悲しかった。

 その上司から指示が入る。

 目的地までもうすぐとのことで、各機連携を確認せよとのことだった。

 相棒たちに通信を入れると、各自良好な返事が返ってきた。準備万端だ。

 俺は飛行機を加速させると目的地に接近。上空を通過するとスイッチを入れた。

 帰投するため機体を旋回させると、地上に小さな明かりがいくつも灯り、すぐに消えた。

 続く仲間たちが作った光も見えた。

 最後に思い出す光景がきれいな景色がいいだなんて、贅沢だなと思った。

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