第397話 お姉ちゃんをよくも騙したな!

 繭はすぐに崩れ落ち、その中から乾燥した蜥蜴男と表現するのが相応しい姿になったノーライフキングが現れた。


 角や尻尾だけでなく、乾燥してガリガリではあるものの骨に黒い肉が付いている。


 <復讐変身リベンジメタモルフォーゼ>の効果で第二形態とも呼べる姿になったのだろう。


 変化はノーライフキングの体だけではなく、身に着けていたバイオレットメランコリーも変化していた。


 元々はローブだったはずなのに、どういう訳かレザーアーマーに変わっていたのだ。


 (これはさっきよりも強化されたと思うべきなんだろうね)


 そう思うや否や、ライトは<神眼>で姿を変えたノーライフキングのステータスを確認し始めた。



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名前:なし 種族:ノーライフキング

年齢:なし 性別:雄 Lv:85

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HP:40,000/60,000

MP:145,000/200,000

STR:5,000

VIT:5,000

DEX:5,000

AGI:4,500

INT:4,500

LUK:4,500

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称号:アンデッドキング

   特殊個体ユニーク

二つ名:なし

職業:なし

スキル:<格闘術><配下召喚><配下統率><配下起爆>

    <呪吹雪カースブリザード><呪吸収カースドレイン><呪隕石カースメテオ><呪刃雨カースエッジレイン

    <呪防壁カースウォール><復讐変身リベンジメタモルフォーゼ

装備:バイオレットレザーアーマー

   ホロウトレジャー

備考:第二形態

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 (能力値とスキル構成、装備が変わってる?)


 変身前のノーライフキングは、DEXとINTが高い後衛職のような能力値だった。


 それにもかかわらず、能力値はSTRがDEXとAGI、INTの減少と引き換えにSTRの能力値が4,000も跳ね上がっていた。


 更に言えば、<浮遊>があったところに<格闘術>がひょっこり現れており、近接戦闘もできると言わんばかりである。


 (<復讐変身リベンジメタモルフォーゼ>の効果か。なんて面倒なんだ)


 ライトがそう思うのも無理もない。


 この<復讐変身リベンジメタモルフォーゼ>は、実際に使われないとピンと来ないスキルだったのだ。


 自身のHPが1/3減らされる度に、スキル保有者のMPと何かを犠牲にして敵に仕返しができる姿へと変身する効果なのだが、確かに今の姿ならばノーライフキングにも仕返しのチャンスがあるだろう。


 先程までの姿だと近接戦闘ができず、<呪防壁カースウォール>を壊された瞬間に追撃されたり、防御が追い付かないとダメージを受けてしまった。


 ところが、今の姿ならば<格闘術>があるから近接戦闘もこなせる。


 変身の代償として呪武器カースウエポンのバイオレットメランコリーは、ただの紫色のレザーアーマーになってしまったが、それぐらい安い代償と言えよう。


 ちなみに、バイオレットメランコリーの効果は高貴な称号を持っていない者が直視すると憂鬱になって全能力値が10%下がるというものだ。


 代償はどんな贅沢をしても満たされなくなるというもので、アンデッドであるノーライフキングにはデメリットになり得ない。


 それはさておき、ライトはノーライフキングの変化を手短にヒルダ達に伝えた。


「気を付けて! ノーライフキングが<格闘術>を使えるようになった! STRも4,000伸びてる! その代わりに魔法系スキルの威力は落ちた!」


「「了解!」」


「承知しました」


「復讐するは我にあり」


 ノーライフキングがそう言うと、ライト達の頭上に瘴気塗れの隕石が現れた。


 <呪隕石カースメテオ>を発動してすぐに、ノーライフキングは手に持っていたホロウトレジャーを地面に突き刺した。


 その瞬間、ホロウトレジャーが抵抗なく地面に吸い込まれて行くように消えた。


 それと同時に辺り一帯の地面に無数の宝箱が出現した。


「ひゃっほう! 宝箱だぁ!」


「イルミ姉ちゃんの阿保! 【治癒キュア】」


「はっ!? お姉ちゃんは一体何を!?」


 コロッと幻覚に騙されて宝箱に気を取られたイルミに対し、ライトは【治癒キュア】で治療した。


「ヒルダ、アンジェラは問題ない!?」


「大丈夫!」


「問題ありません」


「わかった! ノーライフキングは任せる!【範囲浄化エリアクリーン】【聖穿孔砲ホーリーピアッサー】」


 ヒルダとアンジェラの無事を確認すると、ライトは周囲の瘴気を浄化してから【聖穿孔砲ホーリーピアッサー】で隕石を砕いた。


「【嵐連脚ストームキック】」


「【水壁ウォーターウォール】」


 ライトを狙うノーライフキングの攻撃に対し、ヒルダは水の壁を両者の間に造り上げて妨害する。


 水の壁は夥しい数の蹴りによって弾け飛ぶが、時間稼ぎと【嵐連脚ストームキック】の威力の減衰に成功した。


「【伍式:旋風陣せんぷうじん】」


 アンジェラもライトとノーライフキングの間に割って入り、威力が落ちた【嵐連脚ストームキック】を片手だけでグングニルを高速で回転させて受け流してみせた。


 しかも、【嵐連脚ストームキック】が終わる瞬間にグングニルをノーライフキングの足に引っ掛けて投げ返した。


 バランスを崩されてしまい、ノーライフキングは背中から地面に落ちた。


「お姉ちゃんをよくも騙したな! 【輝闘気シャイニングオーラ】【輝踏槌シャイニングスタンプ】」


「がはっ!?」


 イルミが大きく跳躍し、倒れ込んだノーライフキング目掛けて豪快に両脚を揃えて突き出す。


 【輝闘気シャイニングオーラ】によって威力が上乗せされていたこともあり、ノーライフキングは少なくないダメージを受けた。


「おのれ!」


 ヒット&アウェイで素早くイルミが自分の上からいなくなると、起き上がったノーライフキングは広範囲に向けた<呪吹雪カースブリザード>で反撃する。


「【防御壁プロテクション】」


 INTが2,500も落ちた<呪吹雪カースブリザード>ならば、1枚でも十分だとライトは単発で全員を守れるぐらい大きな光の壁を創り出した。


 決戦が始まる前から想定していた通り、ライトの消費MP量は著しい。


 減った瞬間から<生命樹セフィロト>で回復しているものの、回復量よりも消費量の方が多い。


 そろそろMPストックに手を出さざるを得ないぐらいだ。


 とりあえず、自然回復の足しになるようにライトはユグドランηを飲んでMPを回復させた。


「お前が邪魔だ。【幻影歩行ファントムステップ】【幻影走行ファントムドライブ】」


「ライトはやらせない! 【聖大犬牙陣ホーリーシリウス】」


 吹雪が止んで【防御壁プロテクション】も解除されると、ノーライフキングはライトが邪魔だと判断して一気に距離を詰めた。


 しかし、その動きはヒルダが予想しており、ライトに近づくにつれてノーライフキングの体のあちこちに切り傷が増えていく。


 切り傷が増えるということは、グラムによって斬られたことを意味する。


 つまり、斬られる度にノーライフキングのAGIが20%カットされていく。


 ライトに近づいたまでは良いのだが、ライトの前に到着した時にはライトにとってスローモーションに見える程ノーライフキングの動きが鈍っていた。


「【拾弐式:亥突いとつ】」


 ライトはミストルティンで振り下ろし、左下への振り下ろし、胴、左上への振り上げ、上への振り上げ、右上への振り上げ、逆胴、右下への振り下ろし、刺突を高速でノーライフキングの体に叩き込んだ。


 【聖穿孔砲ホーリーピアッサー】を使わずとも、【拾弐式:亥突いとつ】ならば十分にダメージを与えられる。


 動きが鈍ったノーライフキングならば、ライトが外す訳がない。


 9つの攻撃を喰らったノーライフキングは後方に吹き飛ばされた。


「ここですね。【壱式:投瞬殺とうしゅんさつ】」


「ぬぁにぃ!?」


 吹き飛ばされていたノーライフキングの背後から、アンジェラがグングニルを投擲した。


 それにより、ライトとアンジェラ技の衝撃がノーライフキングの体をサンドイッチし、ノーライフキングは力が釣り合ったことでその場に強制的に留められた。


「お姉ちゃんもいるよ! 【聖拳ホーリーフィスト】」


「させぬ!」


 イルミが追撃しようとすると、こればっかりは喰らってなるものかとノーライフキングが<配下召喚>で自分とイルミの間にトーチナイトを召喚した。


 召喚したトーチナイトがイルミの攻撃を盾で防いだ瞬間、ノーライフキングはにやりと笑って<配下起爆>を使用する。


 その結果、元々体が燃えているトーチナイトは派手に爆発し、イルミは後方に吹き飛ばされた。


「イルミ姉ちゃん!」


「大丈夫! 盾が守ってくれた!」


 吹き飛ばされたイルミを心配したライトだったが、イルミはライトの【誓約盾プレッジシールド】で守られていたらしく、爆発の威力を受け流せなかっただけでダメージは受けていなかった。


 イルミが無事だったことを知ると、ノーライフキングは忌々しそうな表情だった。


「これでも足りぬか」


 そう言ってすぐに、ノーライフキングは再び濃い瘴気を繭のようにして自分を覆い始めた。

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