第395話 ノーフェイスは何度でも蘇る

 カタリナとエルザがダーインクラブに戻って闘技場コロシアムで見た瘴気について報告すると、ライト達はすぐに蜥蜴車リザードカー闘技場コロシアムへと向かった。


 アンジェラが御者を担い、ライト達は決戦の舞台へと運んだ。


 闘技場コロシアムの外に到着すると、ライト達は蜥蜴車リザードカーから降りた。


「レックス、悪いけどここで待っててくれ」


「グルゥ」


「良い子だ」


 わかったと言わんばかりに頷くレックスに対し、ライトはその頭を撫でる。


 気持ち良さそうに喉を鳴らすレックスを見て和んだ気持ちを引き締め、ライト達は闘技場コロシアムの中へと入った。


 闘技場コロシアムの外へはアンデッドは出られない。


 そうなるように時間をかけて設計して建てた甲斐あって、強いアンデッドの気配は闘技場コロシアムの中からしっかりと感じられた。


「じゃあ行こう!」


「ちょっと待った」


 イルミが通路を抜けて戦場へ元気良く出て行こうとするので、ライトは待ったをかける。


「なんでさ!?」


「ここに敵は来ないんだ。ここでバフをかけた方が良いに決まってるじゃん」


「なるほど! 納得した!」


 イルミが自分に止められた理由を察してくれたので、ライトは息を吐いてから自分以外の全員にバフをかけた。


「【【【信仰剣フェイスソード】】】【【【誓約盾プレッジシールド】】】」


 ライトが技名を唱えると、ヒルダとアンジェラ、イルミが強化されて準備が整った。


「イルミ様、しっかりと旦那様の言うことを聞いて下さいね」


「あれぇ、お姉ちゃん信用されてない?」


「ついさっきライトのバフを待たずに行こうとしたでしょうが」


「ぐぬぬ・・・」


 アンジェラの注意に首を傾げるイルミだったが、ヒルダが冷静に注意せざるを得なかった根拠を述べた。


 指摘されたイルミは反論できない様子である。


「イルミ姉ちゃん、今回の敵はヘル様が暴走したファフナー並みに強いって言ってたからアンジェラもヒルダも心配してるんだよ」


「わかった。勝手なことしない。お姉ちゃんはライトの言うことをしっかり聞くよ」


「よろしい。それじゃあ行こうか」


 イルミから聞きたかった言葉を聞くと、ライトは頷いて3人を連れて戦場へと移動した。


 闘技場コロシアム内の舞台にはライト達に見覚えのある顔が待っていた。


「ファフナー、お前か」


「ノーフェイスは何度でも蘇る」


 ニタァと笑うファフナーだが、その姿は最初から【闇狂化ダークバーサク】を使った時と同じ姿だった。


 あの時と違うのは、ファフナーが正気を保てていることだろう。


 だから、ライトはファフナーは本人、いや、そう呼んで良いものか悩ましい存在が気にしていることを口にした。


「人間を辞めて、だけどな」


小聖者マーリンが死ぬまで蘇り続けてやるとも。人間であろうがあるまいが、そんなものは些細なことに過ぎない」


「だったら僕がここで完全に成仏させてやるさ」


 そんなやり取りをしつつ、ライトはアンデッドとして現れたファフナーに<神眼>を発動した。



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名前:ファフナー 種族:ナイトメアシャドウ

年齢:なし 性別:雄 Lv:75

-----------------------------------------

HP:50,000/50,000

MP:30,000/30,000

STR:3,500

VIT:3,500

DEX:3,500

AGI:3,500

INT:3,500

LUK:2,000

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称号:特殊個体ユニーク

   怨霊

二つ名:ノーフェイス

職業:なし

スキル:<呪吸収カースドレイン><記憶覗メモリーサイト><記憶再現メモリープレイバック

    <影潜><格闘術><状態異常無効>

装備:なし

備考:なし

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 (弱体化してる? デスペナみたいなものかな?)


 ライトが前に戦った時、ファフナーはLv80であり各種能力値がもっと高かった。


 <格闘術>と<状態異常無効>は引き継いでいるようだが、<呪術>と<道具箱アイテムボックス>、<呪武器カースウエポンマスタリー>という厄介なスキルはなかった。


 それに加え、今のファフナーは呪武器カースウエポンを手にしていない。


 いくら特殊個体ユニークだとしても、呪武器カースウエポンを持っていないファフナーだと思えばライトが弱体化したと考えてもおかしくないだろう。


 実際、ライトの考えは当たっていた。


 死んだ人間がアンデッド、それも特殊個体ユニークとして現れるには代償が必要だった。


 以前、グロアがアンデッドとして現れた時は、グロア自体が弱過ぎてオニキススペクターのシャーマンがグロアの力を引き上げた。


 しかし、今回はファフナーのスペックが高過ぎたことで、特殊個体ユニークとして現れてなお完全にその力を再現することはできなかったのだ。


 それはさておき、ファフナーはライトが成仏させると言ったことに反論した。


「そんな未来はない」


 その瞬間、ファフナーの両目が光った。


 ファフナーはライトを見ており、何かを読み取っているようだった。


 読み取るのに時間は5秒とかからず、ファフナーの両手が光ったかと思えば右手に木剣が現れた。


「木剣で何をするつもり?」


「き、貴様!? 読んでたな? 私が<記憶覗メモリーサイト>と<記憶再現メモリープレイバック>を使うと読んでたな!?」


「正解」


 ライトはファフナーが何をするか予想できていたので、それを逆手に取ってみせた。


 ファフナーは<記憶覗メモリーサイト>で自分と戦ったライトの記憶からハンプティ・ダンプティを読み取り、<記憶再現メモリープレイバック>で手元に再現しようとした。


 そうすることで自身に足りない戦力を増強を狙ったのだ。


 ところが、ライトは<神眼>でスキルの効果をしっかり把握していたので、スキルの効果を逆手にとってファフナーが木剣で戦っていたと思い込んだ。


 その結果がこれである。


 ライトの方がDEXもINTも能力値が上なので、ファフナーはライトの思い込みに負けて手元に木剣しか再現できなかった。


「仕方ない。木剣だって使いようだ」


 それだけ言うと、ファフナーは<影潜>を発動してその場から姿を消した。


「消えた!?」


「イルミ、落ち着いて。あそこよ」


 ファフナーの姿が消えたことでイルミが驚くが、ヒルダは冷静に地面の表面に黒い影の塊となったまま近づいて来たものがそうだと指差した。


「あ~、あれか。ライト、お姉ちゃんに任せて!」


「任せる」


 イルミの自信満々な様子から、任せても問題ないと判断したライトは頷いた。


「【輝闘気シャイニングオーラ】」


 技名を唱えると、イルミの全身から聖気が溢れ出して戦場が明るくなった。


 それにより、最初は影の色が濃くなるだけだったがイルミと距離が近づくにつれてスピードがだんだん遅くなり、やがては止まってしまった。


 聖気に近づくのを拒むアンデッドの特性が、ファフナーの意思に反して働いてしまったようだ。


「チャンス! 【輝拳乱射シャイニングガトリング】」


 イルミが拳から聖気の散弾を発射すると、これは堪らないとファフナーが<影潜>を解除して後方に退く。


 だが、ライト達を相手にそんな簡単にのこのこと後ろに退けるはずがない。


「【壱式:投瞬殺とうしゅんさつ】」


「ぐぼっ!?」


 アンジェラの投げるグングニルは決して外れない。


 イルミの技に釣り上げられたファフナーは、アンジェラの一撃によって体を貫かれた。


 勿論、これだけでライト達の攻撃が終わるはずもなく、グングニルがアンジェラの手元に戻る前にヒルダの攻撃が始まっていた。


「【水牢ウォータージェイル】」


「しまっ、ゴボッ」


 グングニルはその効果により、アンジェラが投げても役目を終えればすぐに手元に戻って来る。


 それゆえ、ヒルダはグングニルのことを考慮せずに攻撃できたのだ。


 ヒルダが【水牢ウォータージェイル】で自分を捕らえた瞬間、ファフナーは自分を待ち受ける未来を容易に想像できた。


「ナイス、ヒルダ! 【聖付与ホーリーエンチャント】」


 水の牢獄が聖水の牢獄へと早変わりし、ファフナーは自身の体がすごい勢いで溶け始めたことに気づいた。


 しかしながら、全身が聖水に濡れて力が出ない現状ではどうすることもできず、ファフナーはあっという間にHPを削られてしまった。


 辛うじてHPは残っているようだが、ライトは容赦なく追い打ちをかける。


「【昇天ターンアンデッド】」


 パァァァッ。


《ライトはLv81になりました》


《ライトはLv82になりました》


《ライトはLv83になりました》


 ファフナーの体が消滅し、レベルアップのアナウンスがライト達の耳に届いた。


「やったねライト!」


「いや、まだだよイルミ姉ちゃん」


「え?」


 レベルアップのアナウンスが聞こえたことで、イルミは戦いが終わったのだと勘違いしていた。


 それとは対照的に、アンジェラが素早く魔石と思念玉を<不可視手インビジブルハンド>を回収して戦闘態勢に戻った。


 ヒルダも戦闘態勢を崩していない。


 前方空中に留まっている密度の濃い瘴気を指差し、ライトはイルミに告げた。


「どうやらファフナーは前座だったみたいだね」


 ライトがそう言った瞬間、瘴気が姿を変えながら地上に降りて来た。

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