第375話 俺達が道を切り拓く

 ジェシカに入口の見張りを任せたライト達は、地下の開けた空間に到着した。


 天井と壁、床のすべてが石造りになっていることから、すぐに崩落することはないだろう。


 (この拠点、とてもじゃないけどその場凌ぎとは思えない。あっちも入念な準備をしてると思った方が良さそうだ)


 梯子を下って見た光景から、ライトの警戒度は1段階上がった。


 ライト達がいる広間には、離れた位置にある重厚な鉄でできた扉以外何もない。


 進むべきは扉の先であることはすぐにわかったが、梯子のある場所から扉まで床を素直に歩いて良いとは思えない。


 それゆえ、ライトはアンジェラに意見を求めた。


「アンジェラ、ここからあの扉までに罠はある?」


 訊ねられたアンジェラは、その場にしゃがみ込んで床を観察し、それから立ち上がって壁と天井を順番に見てから答えた。


「壁と天井にはなさそうです。しかし、床のすり減り具合が気になります。おそらく、踏み外せば落ちるような罠があるでしょう」


「なるほど。それなら床を踏まずに扉まで進もうか。【防御壁プロテクション】」


 ライトが技名を唱えることで、光の壁が床に平行な向きで地面から少し浮いた場所に現れた。


 万が一踏み外して罠に嵌まることは避けたいと考え、ライトは光の壁で足場を要した。


「旦那様がいるだけで侵入の難易度がグッと下がりますね。ありがとうございます」


「大したことじゃないよ。罠の見極めはアンジェラが頼りなんだ。このまま頼むよ」


「お任せ下さい」


 ライト達は光る足場の上を歩き、扉の前まで何事もなく移動した。


「ライト、お姉ちゃんこの扉壊した方が良い?」


「最終手段は破壊だけど、壊した時に何があるかわからないな。アンジェラ、どうかな?」


「この扉は魔法道具マジックアイテムの可能性が高いです。しかも、招かれざる客への殺意が強過ぎることから製造禁止になった物です。私も噂でしか聞いたことがありませんので、旦那様に調べていただきたく存じます」


「わかった」


 アンジェラに調べてほしいと頼まれ、ライトは<神眼>で扉を鑑定した。


 (地獄扉ヘルズドア。アンジェラの言う通り、かなり殺意が強いじゃん)


 調べてみた結果、明らかにヤバい名前と招かれざる客への殺意が異常なまでに強いことがわかった。


 その機能とは、扉の開閉には扉に触れてMPを放出する必要があるのに対し、登録したMP反応以外を検知すると致死性の毒が正面に向かって霧状に噴射されるというものだ。


 <状態異常激減>を保有していても、触れるか吸い込んでしまえばその場から指1本たりとも動かせなくなるレベルの毒が噴射される。


 扉自体も硬く、仮に扉を壊して通過しようとすると、MP反応の登録有無に関係なく毒が噴射されるから、殺意が高過ぎると称してもおかしくないだろう。


 地獄扉ヘルズドアを設置するような者は、身内以外を一切信じていないと公言しているようなものであり、製造する生産者プロダクターも命がけであることから、人道的な意味でも製造禁止になった過去がある。


 ちなみに、地獄扉ヘルズドアが設置された当時の治安が悪く、下手をすれば領地にアンデッドが現れることもあった。


 アンジェラのような超一流の暗殺者アサシンですら、地獄扉ヘルズドアを生で見るのは初めてということを考えると、ノーフェイスがこの拠点に引き籠っていられるのも地獄扉ヘルズドアがあるからだと考えられる。


 ライトが地獄扉ヘルズドアの機能を解説すると全員ドン引きした。


「侵入防止というよりも積極的に殺しにかかってますね」


「身内以外敵ってことね」


「えぐい扉だぜ・・・」


「お姉ちゃん触らなくて本当に良かった」


 (さて、どうやって開けるかなぁ)


 開けねば先には進めないので、ライトは進むのは当然としてどうやって開けるか頭を回転させた。


 そして、手っ取り早いのは爆破だと考えてアルバスに声をかけた。


「アルバス、前に使ったらしい囮爆弾デコイボムの失敗作ってもうないの?」


「すまん、持ってない。あれは携帯するのも危険だから、もう絶対に作らないようにって言ってある」


「そりゃそうだよね。となると、イルミ姉ちゃんの出番かな」


「ライト! お前、イルミさんを犠牲にするつもりか!?」


 ライトがイルミの出番だと言うと、アルバスがすぐさま抗議した。


 大慌てのアルバスに対してライトは落ち着かせる。


「違うから落ち着いて。イルミ姉ちゃんに遠距離から攻撃してもらう。毒の霧が噴射されても、僕がいれば噴射された瞬間に【範囲浄化クリーン】で無毒化できるでしょ? それに、万が一毒を受けても【治癒キュア】があるから必ず助けられる」


「オッケー。壊して良いならお姉ちゃん頑張る」


「イルミさん!? 良いんですか!? 危険なんですよ!?」


 ライトが安全性を説明すると、イルミは軽い感じで承諾した。


 その一方、アルバスはイルミに地獄扉ヘルズドアを壊させることが不安で仕方ないらしく、本当に良いのかと問い質した。


「アルバス君、心配してくれるのは嬉しいけど大丈夫だよ。ライトがいればなんとかなる。でしょ?」


「勿論。どんなことがあっても僕が全力でどうにかするよ」


「うん。だったら問題なし」


「イルミさん・・・。わかりました。お願いします」


「任せて」


 イルミに任せて良いのかと悩む気持ちもあったが、自分が代わりに壊せる自信がない以上イルミに頼むしかないとアルバスは悔しさを噛み締めつつイルミに頼んだ。


 ヒルダもアンジェラもアルバスも、流石に鉄製の扉を切断することはできない。


 だとしたら、イルミの高いSTRによる技で壊すしかない。


 アルバスも理屈ではわかっているのだが、感情の面で受け入れることができなかったのだ。


 ライト達はイルミの技の射程圏ギリギリまで移動した。


 準備が整うと、イルミが扉を壊しにかかった。


「【輝闘気シャイニングオーラ】【輝拳乱射シャイニングガトリング】」


 イルミが深呼吸してから聖気を拳に集中させると、そのまま地獄扉ヘルズドアに向けて拳から光の散弾を飛ばした。


 地獄扉ヘルズドアに光の散弾が命中した途端、耐久度を超える攻撃に破壊されると共に霧状の毒が噴射される。


「【範囲浄化クリーン】」


 噴射された毒が自分達のいる場所に届く前に、ライトはこの辺り一帯の空気を浄化した。


 そして、<神眼>を発動してこの場にいる誰一人として毒を受けていないことを確認した。


「イルミ姉ちゃん、お疲れ様。全員体調に問題なしだよ。流石は拳聖モハメド


「お姉ちゃん有能?」


「マジ有能」


「イルミさん、本当に良かったです! やっぱりイルミさんは最高です!」


「ドヤァ」


 ライトとアルバスに褒められ、気分が良くなったイルミはドヤ顔を披露する。


 そんな中、ライトとヒルダ、アンジェラが壊した地獄扉ヘルズドアの向こうから杖を持った黒ローブの人物に気づいて武器を構えた。


「来たか」


死使ネクロムね」


「1人だけでしょうか」


 敵が現れたとわかれば、浮かれているアルバスとイルミもすぐに真剣な表情に戻る。


 死使ネクロムはライト達の姿を見つけると、害虫を見るような目を向けた。


「私とノーフェイス様の愛の巣に侵入するとは不届千万。万死に値するわ」


 死使ネクロムの言葉を聞くと、アルバスとイルミが互いに目を合わせて頷いた。


「ここは俺達がやる。ライト達は先に行け」


「アルバス君とお姉ちゃんに任せて」


 死使ネクロムが使役するアンデッドを含む戦力を考えれば、アルバスとイルミどちらかでは心許ない。


 それゆえ、2人が残ってライトとヒルダ、アンジェラを先に進ませるという選択は妥当と言えた。


「わかった。アルバス、イルミ姉ちゃん、十分に気を付けて。ここは敵のホームなんだから油断禁物だよ」


「わかってる」


「大丈夫」


「私が黙って先に行かせると思ってんの? 【召喚サモン:トーチジェネラル】【召喚サモン:キョンシータイラント】」


 アルバスとイルミがライト達を先に進ませようとしていると知ると、死使ネクロムが素通りは許さないと態度で示した。


「俺達が道を切り拓く。【聖断ホーリーサイズ】」


「チッ、トーチジェネラル、私を守りなさい! キョンシータイラント、死守しなさい!」


 アルバスの放った光り輝く斬撃により、トーチジェネラルは守るだけで手いっぱいだった。


 アルバスの技を防がねば、自分に直撃するコースだったから、死使ネクロムはトーチジェネラルに自分を守るように命じた。


 それと同時に、ライト達を通す訳にはいかないのでキョンシータイラントに進路妨害を命じる。


 しかし、その妨害はイルミが阻止する。


「お姉ちゃん達も後で追いつく! 【輝昇撃シャイニングアッパー】」


「ありがとう。先に行くよ」


「後で必ず合流して」


「お待ちしております」


 イルミの聖気を纏ったアッパーが命中し、キョンシータイラントが上空に打ち上げられてライト達の進路を妨害する者はいなくなった。


 死使ネクロムの身体能力では、3人を止めることができずにライト達は拠点の先に進んだ。


 してやられた死使ネクロムはその場で地団太を踏んだ。

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