第360話 アルバス、混ぜるな危険って知ってる?

 応接室に移動したライト達は、月食に関する打ち合わせを始めた。


「まず、戦力の確認だけど、ダーインクラブ近辺に現れる特殊個体ユニークは僕とアンジェラ、父様と母様で戦う」


「お義父さんとお義母さんの両方来るのか。豪勢だな」


「まあね。ヒルダが戦えない分、2人が助けてくれるって話だけど、2人にとってもSランク守護者ガーディアンになるチャンスだからね。逃すはずないよ」


 守護者ガーディアンにランク制度を導入したことで、現状のSランク守護者ガーディアンはライトとヒルダ、イルミ、アンジェラの4人だけだ。


「なるほどなぁ。確かに、ライトが参戦するなら手厚い支援が確約されてるし、少数精鋭で戦えば両方の領地に所属する守護者ガーディアンを温存できるから、万が一イレギュラーなことが起きても待機戦力を派遣できる訳だ」


 このままだと、いざという時は最前線で戦うパーシーとエリザベスがAランクのままで統治の面で具合が悪い。


 だから、ライトとアンジェラの2人と共に特殊個体ユニークと戦ってパーシーとエリザベスは箔を付けたいのだ。


 無論、Aランクとしての実力は申し分ないから足手まといになる可能性は低いし、ライトの支援があれば実力を遺憾なく発揮できるのは間違いない。


 そうなれば、パーシーとエリザベスが寄生していただけだと後ろ指を指されることもないだろう。


 ついでに言えば、ヒルダが戦闘に参加できない今、アタッカーとしてパーシーとエリザベスが参加することで戦闘を早く終わらせることもできるだろう。


 そのような事情から、ライトとしても両親の参戦はありがたいのだ。


 両方に利があるため、ライト達の特殊個体ユニーク戦のメンバーはこれで問題ない。


「そういうこと。それで、アザゼルノブルスとドゥネイルスペードの中間地点に現れるだけど」


「こっちは俺とイルミさん、姉上に加えて、助っ人でスカジさんが来てくれることになってる」


「スカジさんが行ってくれるんだ。じゃあ、クローバーはセイントジョーカーで待機?」


「そうなる。俺とイルミさんと姉上だけだと、残念ながら全員前衛でバランスが悪い。だから、お義父さんがクローバーに月食期間はセイントジョーカーで聖水作成を任せるらしい」


 (察したわ。メアさん達、頑張って下さい)


 Eウイルスが大陸東部を中心に蔓延した時、聖水作成班の作成分だけでは足りずクローバーも聖水作りに着手する羽目になった。


 その時の話をする時、メアの目が死んでいたのを思い出したライトは心の中でメア達にエールを送った。


 クローバーがセイントジョーカーにいるならば、スカジが護衛として張り付いている必要がない。


 したがって、前衛3人ではバランスが悪いところにスカジが参戦する。


 スカジは死霊魔術師ネクロマンサーだから、使役するアンデッドも考慮すれば1人で5人分の戦力になる。


 その上、カタリナがダーインレポートの記述によって使役できるアンデッドの幅が広がった件について、当然ながらスカジにもフィードバックしているのでスカジも戦力の増強をしている。


 となると、アルバス達4人だけでも特殊個体ユニークの討伐は火力の面で問題はなさそうだ。


「そっか。だったら、戦力面の話はこれで良いとして、月食対策の話をしようか」


「そうだな。まずは俺からだな。使う機会があるかわからねえけど、こいつを受け取ってくれ」


 そう言ってアルバスが箱から取り出したのは、手のひらサイズの投げナイフだった。


 以前アドバイスしたデコイと同じデザインであることから、ライトはそれが新作の魔法道具マジックアイテムだろうと推測した。


 そして、<神眼>でその機能を確認し始めた。


 (囮爆弾デコイボム。新作というより前作とスペツナズナイフを合体した感じだね)


 ライトは知り得た情報からそう結論付けた。


 デコイは使用者のMP性質を真似して放出する消耗品であり、アンデッドが生者に反応するのを利用してこれに意識を向けさせた隙に攻撃したり逃げたりする。


 囮爆弾デコイボムも同系統の消耗品だが、MP放出の出力がデコイの3倍であり、爆発によって刃の部分が射出されて前方の敵にダメージを与えられる代物だった。


 デコイよりも更に戦闘向きになったのは間違いないが、ライトは気になることがあった。


「この囮爆弾デコイボム、作成コストは大丈夫? 消耗品型の魔法道具マジックアイテムだから、採算が取れないと金食い虫になりそうだけど」


「まだ普段使いできる程じゃないけど、来たる特殊個体ユニークとの戦いで1人2つまでなら問題ない。気づいてると思うけど、これはデコイと同じ生産者プロダクターの発明だ。そのノウハウもあって、完成させるまでに積み上げた失敗作の数はデコイの半分以下だ」


「あぁ、ドゥネイルスペードの技術力は世界一って叫んだ人ね」


 自分が真似して叫んだことを思い出してニヤニヤしたライトに対し、アルバスは一瞬恥ずかしさから顔が赤くなったもののすぐに落ち着きを取り戻して応じた。


「そ、その人だぜ。ライトとヒルダさんから貰ったアドバイスと、ライト発案のスペツナズナイフに感銘を受けて囮爆弾デコイボムの開発に成功したんだ」


「なるほどね。魔石がデコイよりも質が上がってるけど、これはアルバス達がアンデッドを倒して提供したの?」


「コストカットのためだ。俺達だって動くさ。実は、これの発明者は俺がアザゼルノブルスの領主になったらわざわざ追っかけて来てくれたんだ」


「アルバスにとっては嬉しい話だろうけど、ジェシカさんがそれを認めたの? 魔法道具マジックアイテム関係の生産者プロダクターがドゥネイルスペードを出てくなんて許可しないと思うんだけど」


「俺も許してもらえないんじゃないかと思ったけどな、喧しくて癖もすごいからって姉上は喜んで手放してくれた」


「・・・ジェシカさんが厄介払いしたんだ」


 ジェシカはドゥネイルスペードの発展を優先させるから、喧しかろうが癖が強かろうが発展に必要な人材を他所に放出するとはライトには考えられなかった。


 その予想に反して、ジェシカがその生産者プロダクターを手放したから、ジェシカでは手に負えないのだろうと判断した。


「まあ、姉上とは反りが合わないんだよな。あの人、ロマン重視なところもあるから」


「ロマン重視だと、実現できないことに時間を割いてジェシカさんキレそう」


「そういうこともあったって聞いてる。でも、アザゼルノブルスに来てからはイルミさんと意気投合してるぜ」


「アルバス、混ぜるな危険って知ってる?」


 今までの流れから、イルミとその生産者プロダクターは一緒にいたら財政的に碌なことにならないだろうと思ってライトはアルバスにジト目を向けた。


「意味はわかるけどよ、イルミさんの笑顔のためならそれぐらいの危険どうってことねえよ」


「僕としては、イルミ姉ちゃんのせいでアザゼルノブルスが財政破綻したなんて聞きたくないな」


「そうはならないって。真面目な話、魔法道具マジックアイテムで費用が嵩むのは魔石だ。それをイルミさん自身が集めてるから、イルミさんの労力で製作費が半額になってる。だから大丈夫だ」


「僕も男だ。ロマンがわからないとは言わないけど、領主なんだから引き際はちゃんと決めときなよ?」


「おう。肝に銘じとく」


 手伝いをしていた時期も含め、領主の経験でもライトと差を付けられているアルバスはライトの忠告を真摯に受け止めた。


 ロマンの話はこれぐらいにして、今度はライトが月食対策に用意した物を披露することにした。


「次は僕の番だね。これだよ」


「トーテムポット? いや、それにしてはデザインが違うよな。だって鯉だし」


「その通り。これはトーテムポットを改良した魔法道具マジックアイテムだよ。タリスマンポットって言うんだ」


「タリスマンポット?」


 聞いたことのない単語と共にそれを渡されたため、アルバスはその単語をオウム返しした。


「トーテムポットは液体を中に注ぎ込むと水になり、その容量は内部の魔石に蓄えたMP量に比例して増えることは知ってるよね?」


「知ってる」


「このタリスマンポットの中には、僕の【聖付与ホーリーエンチャント】で聖気を付与した魔石が設置されてて、10Lの水を聖水に変えた状態で蓄えてるんだ。中の水が空になっても、3回までは満杯まで入れた水が聖水になるよ」


「何それすげえ」


「魔石に直接【聖付与ホーリーエンチャント】したから、3回で壊れる消耗品だけどね」


 このタリスマンポットは、ライトの所持するホーリーポットとトーテムポットの中間に位置する魔法道具マジックアイテムだ。


 理想としては、魔石を壊さずに水さえ注げば聖水を作れる物に仕上げたかったが、ライトの手持ちの魔石では3回の使用制限がやっとだった。


 その結果を受けて、改めてホーリーポットは別格だとライトは思い知ったが今はそれを置いておこう。


「アルバス、これを君に託す。上手に使ってくれ」


「わかった。姉上とも相談したうえで慎重に使わせてもらうぜ」


 魔法道具マジックアイテムの交換が終わると、アルバスはタリスマンポットの扱いについて検討するためにすぐに帰って行った。

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