第350話 メイドは見ました、シスター・ソフィアの女の顔を
ライトとアンジェラが孤児院に行くと、庭で孤児達に囲まれるソフィアの姿があった。
ライトが来たことに気付くと、ソフィアが孤児達に声をかけた。
「みんな、公爵様が来て下さいましたよ。大きな声で挨拶しましょうね。こんにちは」
「「「・・・「「こんにちは~!」」・・・」」」
「こんにちは。みんな元気が良いですね」
「今日はいかがされたんですか?」
「ちょっとソフィアに話があったんだ。みんな、ちょっとソフィアさんを借りて良いかな? アンジェラ、子供達にお菓子を」
「かしこまりました」
「「「・・・「「お菓子!?」」・・・」」」
お菓子という言葉につられ、子供達の注意はお菓子を持つアンジェラに向けられた。
その隙に、ライトはソフィアに案内されて孤児院の応接室に移動した。
「子供達にお菓子を差し入れて下さってありがとうございます」
「気にしなくて良いよ。ここに手ぶらで来たら、子供達ががっかりするだろ?」
ソフィアからの希望で、ライトはソフィアにタメ口で話すようにしている。
これは自分の望みを叶えてくれたライトに仕えるのだから、仕える主にはタメ口で話してほしいとソフィアが言ったからだ。
「それはまあ、ライト様にお越しいただくといつも美味しいものが食べられると喜んでますからね。ところで、今日はどのようなご用件でしょうか?」
「実は子供達に仕事を斡旋しようと思ってね」
「仕事をいただけるんですか? それはどんなものでしょう?」
「今月末にダーインクラブで収穫祭を開くことになったんだ。孤児達には、そこで店を開かないか訊きに来た」
「出店をやらないかということですね。確かに、子供達がお金のやり取りや仕事について学べる良い機会ですが、どういった出店を任せていただけるのですか?」
「これを見てほしい。新しい娯楽について記してある」
そう言うと、ライトはイメージ図を描いたメモを見せながらボウリングや的当て、輪投げの説明をした。
「・・・なるほど。シンプルですが十分に楽しめるものだと思います。これらの作成をして店で体験してもらえるようにすれば良いのですね?」
「そういうこと。ソフィア達が傍にいれば、これらの遊び道具を作るのもそんなに危なくないはず。やってみる気はないか?」
「やります。教育者として、生産と商売について学ぶ貴重な機会を無駄にはできません」
「そう言ってもらえて良かったよ。娯楽もダーイン公爵家で占めちゃうと、他の人の参入が難しくなるから」
「
ダーイン公爵家発案の遊戯ということで話題を呼び、貴族も平民も暇な時にはそれで遊んでいる。
財源が少ない貴族からすれば、またダーイン公爵家が儲けた訳であり、これ以上立て続けに儲かるとやっかまれて足を引っ張られる可能性がある。
「うん。
「お心遣いいただきありがとうございます。必ずや成功させてみせましょう」
ソフィアは深々と頭を下げた。
「ボウリングについては、トールも遊んでるって触れ込めばそれだけでブランドが確立されて他2つの遊びの宣伝のきっかけにもなるよ」
「まぁ、トール様が既に遊ばれてるんですね。それは良いです。公爵家長男と一緒の遊びが孤児でもできるなら、孤児達にも自慢できるものが増えますから」
ソフィアがそう言うと、ライトの表情が険しくなった。
「孤児だからって蔑ろにする者がいるのか?」
「い、いえ、ダーインクラブにはおりません! 昔の話です、昔の!」
「そっか。悪いね、嫌なことを思い出させちゃったみたいで」
「とんでもないです。慈愛に満ちたライト様のおかげで、私は今こうして穏やかな日々を過ごさせていただいております。感謝こそすれど恨むことなんて決してありません」
自分の表情の変化から気を遣われてしまい、ソフィアは慌てて訂正した。
ライトとしては、孤児だからと蔑視されることを許さない。
孤児になってしまった子供達に罪はないからだ。
その原因だって、親が
生きるために必死だった親の心残りである孤児達のことを、どうして蔑視できようか。
だから、ライトは学習塾に孤児達が難なく通えるように手配しているし、道徳教育も徹底させている。
「だったら良いんだけどね。それは置いといて、ランク制度の話は聞いた?」
「はい。素晴らしい制度だと思います。あの制度があれば、子供のいる
「そうなることを僕の願ってるよ。あとソフィアには悪いけど、ソフィアは登録上Cランクになっちゃった。すまない」
「良いんです。私は過去と決別しました。私が本気で戦うのは、子供達を守る時とライト様のために動く必要がある時だけです。呪信旅団が壊滅的打撃を受けたとしても、ノーフェイスがいればきっと時間をかけてでも力を蓄えます。彼等に見つからないようにするためにも、私はCランクの方が都合が良いのです」
「僕のために戦ってもらうこともそうだけど、子供達のために戦ってくれるのは嬉しいよ」
「ライト様・・・」
ソフィアが熱い視線をライトに向ける。
その時、ライトは別の方向から複数の視線が向けられていることに気づいて振り向いた。
すると、応接室のドアが僅かに開いており、そこからアンジェラや子供達の目が覗き込んでいた。
「メイドは見ました、シスター・ソフィアの女の顔を」
「「「僕達も見た」」」
「「「私達も見た」」」
「あ、貴方達!? 何やってるんですか!?」
ソフィアは顔を真っ赤にして声を上げるが、子供達は少しも動かない。
自分の半分しか生きていないというのに、うっかり敬愛の愛が強くなってしまったと自覚したせいでソフィアの顔は赤い。
しかし、ここでライトが切札を出した。
「みんな、
「「「・・・「「ごめんなさい!」」・・・」」」
「素直に謝れるのは良いことです。庭で遊んできなさい」
「「「・・・「「は~い」」・・・」」」
孤児達はライトの
「旦那様、私には何か罰はないのですか?」
「アンジェラに罰を与えたところで喜ぶじゃん。だから何もないよ」
「放置プレイですね、わかります」
「わかるな変態!」
「キレのある罵声ありがとうございます!」
(駄目だこいつ。変態に効く薬ってないのかな? ないんだろうなぁ・・・)
手遅れな
真っ赤だったソフィアもアンジェラの変態ぶりに引いたおかげで、落ち着きを取り戻していた。
話題を変えた方が良いだろうと判断し、ライトから声をかける。
「ソフィア、子供達が収穫祭で遊べるぐらいの蓄えは孤児院にありますか?」
「大丈夫です。ダーインクラブは良心的な方ばかりですから、寄付金で現状でも半銀貨1枚を子供達に使わせてあげられます。ボウリング等で稼げれば、もう少しお店を見て回れるはずです」
「500ニブラか。だったらこれ以上甘やかすのも良くないか」
「はい。ライト様には普段からとても良くしていただいております。これ以上貰ってしまえば、この院が堕落してしまうかもしれません」
「そっか。じゃあ、遊びの出店の件は任せたよ」
「お任せ下さい」
話が終わったので、ライトはソファーから腰を上げていつの間にか応接室の隅で待機していたアンジェラに声をかけた。
「アンジェラ、帰るぞ」
「はい」
「お見送りいたします」
「いや、ここで大丈夫だよ。子供達を待たせてるようだから、ソフィアはそっちに行ってあげて」
「かしこまりました。お気遣いいただきありがとうございます」
ライトはアンジェラの操縦する
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