第328話 じゃあ、ブレインストーミングから始めようか
翌日の木曜日、ダーイン公爵家の屋敷のリビングにライトとヒルダ、アンジェラ、ロゼッタの4人が集まっていた。
「それじゃあ、早速会議を始めるよ。議題はアルバスとイルミ姉ちゃんの結婚式のお祝いの品を何にするかだね」
「ダーイン公爵家から1つなの?」
「そうだよ。僕達だけ数が多いと他の招待客に恥をかかせちゃうからね」
「わかったわ」
「じゃあ、ブレインストーミングから始めようか」
ライトの言葉にヒルダ達は頷いた。
「私は食べ物が良いと思う。ライトが作った者ならなんでもOK」
「イルミ姉ちゃんが喜びそうだね」
「うん。イルミなら食べ物を贈っとけばハズレはないよ」
「確かに~」
「私もそう思います」
「食べ物で決まりそうな雰囲気だけど、他にも候補を出してみよう。候補を絞るのはもうちょい後でやるから」
ライトも気持ちとしてはヒルダに賛成だが、ブレインストーミングして1つ目で終了するのは意味がない。
だから、他にもアイディアを出すように促した。
すると、今度はアンジェラが口を開いた。
「それでは、ベタですがペアアイテムはいかがでしょうか? 特注でお揃いのマグカップを用意してはどうでしょう?」
「使える物でお揃いってのは良いね。定番だけど喜ばれる物だよ。僕とヒルダの結婚式でもペアのグラスとか貰ったし」
「確かに。今も使ってるもんね」
アンジェラの意見に、ライトとヒルダが頷く。
プレゼントというのは、相手に喜んでもらう物が良い。
贈る側の自己満足で奇抜な物を渡したって仕方がないのだ。
そういう意味ではベタな物の方が喜ばれたりする。
「は~い」
「はい、ロゼッタ」
「薬効のある植物~。この時期だとポッカソウかな~」
「得意分野で攻めて来たのね」
「ですがこのご時世それも喜ばれると思います」
ロゼッタのアイディアも悪くない。
むしろ、薬効が需要にマッチすれば喜ばれることは間違いないだろう。
ポッカソウとは、煎じて飲むと体がポカポカすることから冬や冷え性の人に重宝される。
1月はまだ冬なので、ポッカソウに需要があると言える。
「ライトはどう? 多分、ライトが最初に言ったらそれに決まると思って黙っててくれたんじゃない?」
「バレてた?」
「当然よ。だってライトのことだもの」
「私もわかっておりました」
「以心伝心だね~」
ライトに対する理解が深いから、ヒルダとアンジェラはライトの考えていることが手に取るようにわかっていた。
ロゼッタはまあ、マイペースなので置いておこう。
「僕は自分で作った聖水を提案するよ」
「ライトが作った聖水、あったら喜ばれるよね」
「喜ばれますね」
「効き目ばっちり~」
現在、市場に出ている聖水は教会の聖水作成班が作る聖水とダーインクラブの月見の塔で作られる聖水、クローバーが舞台で歌った時に作られる聖水の3つだ。
とはいえ、シェアは8:1:1となっている。
教会の聖水作成班の聖水は、作成効率が良くなったこともあり以前よりも供給が安定している。
もっとも、月食やEウイルスのような緊急事態になると、聖水作成班のデスマーチが確定してしまうのだが。
ダーインクラブで作られる聖水は、基本的にダーインクラブで消費されるので国内全体に流通する数が少ない。
月見の塔で作っているだけで、効能は教会作成班が作る聖水と変わらない。
市場に少しだけ出しているのは、聖水作成班の負担を減らすために一定数売りに出すことが決められているからだ。
だから、国内でのシェアは1割になっているし、ダーインクラブでのシェアは10割である。
そして、クローバーの舞台で作られた聖水だが、その効能はライトの【
ほとんどというのは、<聖歌>で聖気を注ぐ対象が多いと効果が薄れるので、どれだけ聖水を作るかで質が変わってしまうからである。
クローバーの聖水は、作られる機会が舞台のみとなっているので他2つよりも高価であり、熱心なクローバーファンや少しでも上質な聖水を求める者しか手を出さない。
以上に挙げた聖水の頂点に君臨するのが、ライトが【
聖気を注ぎたい水の量に関係なく、【
それはさておき、各々からお祝いの品を何にするか意見が出された。
「じゃあ、僕の手作り料理か、ペアのマグカップ、ポッカソウ、僕作成の聖水から選ぼうか」
「自分で出した案だけど、私はライトの料理を取り下げて良いと思うわ」
「どうして?」
「ライトがいれば<
「まあ、折角作るんだったら、美味しい内に食べてもらいたいよね」
「うん。長持ちする保存食を贈るのも違うと思うし、私は自分の案を取り下げるね」
ヒルダの言い分はもっともだったので、ライトは引き止めはしなかった。
「私も自分の意見を取り下げます」
「アンジェラも?」
「はい。私は定番の品を提案しました。これもまたハズレはありませんが、逆に言えばハズレがないと思って他の参加者と被る恐れがあります。であるならば、被る可能性が低いポッカソウや旦那様が作った聖水の方が良いと思います」
「そうね。悪くないアイディアだったけど、ダーイン公爵家と被った相手がかわいそうだし、私もアンジェラに賛成」
ヒルダも賛成し、ペアのマグカップも候補から外れた。
となると、残るのはポッカソウか聖水である。
「ライ君~、ポッカソウにはね~、煎じて飲む以外にも使い道があるの~」
ロゼッタはヒルダやアンジェラとは異なり、自分の提案を取り下げたりしなかった。
むしろプッシュしている。
「使い道?」
「そうだよ~。擂り潰して粉末にしたワイルドビーンズと混ぜて~、それで紅茶の茶葉みたいにお湯を注ぐとね~」
「お湯を注ぐと?」
ロゼッタが溜めるから、ライトは相槌を入れる。
のんびり喋っているようで、聞き手を自分の話に引き込んでいるのだから、案外ロゼッタはプレゼンが上手いのかもしれない。
「滋養強壮剤になるの~。きっとすぐに子供できるよ~」
「「えぇっ!?」」
「天然だからこその破壊力。ロゼッタ、侮れませんね」
ロゼッタの口から滋養強壮剤なんて言葉が出て来るのものだから、ライトとヒルダは驚かずにはいられなかった。
その一方、アンジェラはロゼッタがサラッと下世話な発言をすることに戦慄していた。
(悩ましいな。貴族だから跡継ぎの話とは無縁ではいられないから、ポッカソウを渡すのもありだと思う。だけど・・・)
ライトは悩んでいた。
ロゼッタはアルバスとイルミが気にするであろう跡継ぎのことを考えてプレゼントを提案したようだが、貴族の中には若い内から滋養強壮剤を渡されると気分を悪くする者もいる。
自分は薬に頼らなくても平気だというプライドから、折角の厚意が伝わらない可能性があるのだ。
無論、アルバスは自分を傷つける意図があってプレゼントされたとは思わないだろうが、結婚式に招待された他の客がどう思うかは別だ。
そう考えると、ロゼッタの案を通すかどうかは悩ましいのだ。
「ライ君はポッカソウの効果を知らなかったんだね~?」
「煎じて飲む方は知ってたけど、ワイルドビーンズとの組み合わせの方は知らなかったよ」
「ライトは滋養強壮剤なんてなくてもすごいもの」
「ヒルダ!?」
「そっか~」
「ロゼッタ!?」
「流石は旦那様! 夜も無敵です!」
「黙れ変態!」
「ありがとうございます!」
(もう疲れた・・・)
ヒルダ、ロゼッタ、アンジェラの順番にツッコミを入れると、ライトはぐったりした表情になった。
アンジェラに至っては業の深さまで露呈しているので、ライトが疲れるのも無理もないだろう。
「アルバスならプライドを傷つけられたとかキレたりしないと思うけど、他の招待客の目もあるからポッカソウは止めとこう」
「そうね。アルバス君があらぬ風評被害を受ける可能性があるのは避けるべきだと思う」
「私も個人的に渡すならば構いませんが、結婚式で誰に見られてるかわからないところで渡すのはリスクがあると思います」
「そうなんだ~。貴族って大変だね~」
「・・・ロゼッタ、君も貴族の家で働いてるんだからね?」
「そうだった~。それじゃ~、ライ君の聖水で決定だね~」
軽く反応してすぐに話を元に戻し、ロゼッタは自分の意見を取り下げた。
ライトが作った聖水を贈られて喜ばない者はいないし、被る可能性も皆無だ。
お祝いの品が決定すると、ライト達は解散した。
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