第316話 金髪グルグル巻きにしてですわ言うとけばお嬢様やと思うなや
月食の影響が出始めた11月3週目の木曜日、アマイモンノブルスの南門から15分程離れた所にミーアは
御者はアマイモン辺境伯家の執事であるタロスであり、彼はミーアの専属執事でもある。
そして、ミーアと同じ車に乗る人物がもう1人。
「ミーア、まだ着かねえの?」
「目的地まで後半分切ったで。そんぐらい辛抱せえや、オットー」
そう、教会学校時代にミーアとパーティーが同じだったオットーである。
彼は教会学校が休校になって以来、両親ととも”スタンレー一家”というパーティーで教会の依頼を受けて国内各地を旅して回っていた。
しかし、クラスメイト達が徐々に安定した暮らしを見つけていくと、焦るようになったのだ。
まずは貴族組だが、ライトは既にダーイン公爵を継いでおり、
ライト以外の男子組はアルバスとザック、アズライトはそれぞれ婚約者を見つけ、オットー以外婚約を済ませている。
女子組はエルザとカタリナ、アリサが婚約者を見つけている。
婚約者のいないミーアも次期辺境伯に内定しており、ロゼッタもダーイン公爵家で
そんな中、自分だけが親と一緒にアンデッド討伐の依頼をこなすだけになっている。
これは不味いとオットーの中に焦りが生まれた。
どうにか自分も定住先を見つけて婚約者を見つけたいと思っていたところ、偶然依頼で来ていたアマイモンノブルスでミーアとばったり出会った。
オットーを見つけたミーアは、定住先が欲しいなら自分の家に仕えないかと声をかけた。
ミーアはアマイモンノブルスの教会で常に即戦力となる人材を探していたが、報告に上がってくる者はどれもピンと来なかった。
だが、オットーがミーアの前に現れたことで状況が変わった。
”スタンレー一家”は、教会でのアンデッド討伐の依頼達成率が非常に高い。
ヘルハイル教皇国内の依頼達成率が7割なのに、”スタンレー一家”は9割達成させている。
オットーも含めて、自分達が倒せるアンデッドの討伐依頼を受けているから依頼達成率が高い。
失敗、断念した1割については、教会が無理を言って”スタンレー一家”に半ば強制的に受領させたものだ。
つまり、”スタンレー一家”の目利きは極めて正確であり、拠点を持たない
”スタンレー一家”はパーティーリーダーのオットーの父の気まぐれで移動するから、この機会をミーアが逃すことはなかった。
オットーとミーアの需要と供給が一致したため、オットーは”スタンレー一家”を脱退してミーアのお抱え
ミーアは信頼のおける戦力を確保し、オットーはアマイモン辺境伯家の後ろ盾を得たのだから双方納得している。
ちなみに、オットーがミーアにタメ口なのは、オットーの敬語を聞いてミーアが腹が捩れんばかりに笑ったからだ。
かしこまっているオットーなんてオットーじゃないとまで言われたら、オットーも気を遣うのが馬鹿らしくなって気楽な口調で喋る間柄となった。
「つってもよー、全然アンデッドに遭遇しねえじゃん。退屈だぜ」
「あんなぁ、この車はライト君とこで
「・・・そうだった。家族で使ってたのは普通の
「ウチみたいな高貴な
「高貴ぃ? ミーアが?」
胡散臭い物を見る目を自分に向けるオットーに対し、ミーアは額に青筋を立てた。
「
「誰が肉壁だ。誰が」
「そんなもん、オットーしかおらへんやろ。まさか、この車内にウチとオットー以外に何かおるとでも思うてんのかいな?」
「いねえな。じゃあ俺かってなる訳ねえだろ!?」
「ええノリツッコミやないか。褒めて遣わすで」
気づけば漫才が始まる2人に、御者台で思わずタロスが噴き出してしまったのだが、車内の2人はそれに気づかなかった。
それから雑談しつつ更に進むこと10分、ミーア達は目的地に到着した。
「お嬢様、オットー様、到着しました」
「プフッ」
「オットー、いい加減慣れろやコラ」
「悪い。あまりにもお嬢様らしくないからつい」
ミーアの世話になってから、数回に1回はミーアがお嬢様と呼ばれるとオットーが吹き出してしまう。
毎度のことではないが、それでもちょくちょく笑われるとミーアがムッとしてしまうのも仕方のないことだろう。
「おうコラそんなら誰がお嬢様らしいか言ってみいや」
「同学年ならエルザじゃね?」
「金髪グルグル巻きにしてですわ言うとけばお嬢様やと思うなや」
明らかに悪口なので、車から降りつつオットーは止めに入る。
「エルザのことディスんなよ。ミーアも普通に喋れば良いんじゃねえの?」
「これがウチの普通や」
「それと男同士で喋ってるのを見かけた時、グフフって笑ってるのがヤバい」
「ええやんか! 男同士でくんずほぐれつしてるのを妄想してニヤけてもええやないか!」
「良くねえよ。あのな、俺は使用人じゃねえから言わせてもらうけど、妄想は顔に出すな。顔に出ると正直ドン引きする」
オットーに真顔で言われると、ミーアがうっと身構えた。
使用人達では言い出せなかったことをオットーにズバッと指摘され、ミーアも流石にしまったと思ったらしい。
ちなみに、タロスはよくぞ言ってくれたとオットーに惜しみのない拍手を送っていたりするのだが、今は置いておこう。
そんな雑談をしていたミーア達だったが、オットーが周辺の空気が変わったことにいち早く察して真剣な顔になると静かになった。
「遠巻きに見てる奴がいる」
「目当てのアンデッドやろか?」
「いや、これは違う。人の視線だ。そこの岩陰に隠れてる奴、何者だ!」
オットーが気配を察して叫ぶと、岩の向こうから観念して現れた人物がいた。
「気づかれてたか」
黒いローブを着た男を見た瞬間、ミーアは矢をいつでも放てる体勢になった。
「呪信旅団やな」
「バレてしまってるのならば仕方がない。その通り、俺は呪信旅団の団員だ」
「オットー、目当てのアンデッドやないが先にあいつ倒すで」
「おう。油断するなよ。あいつは
オットーが断定すると、男は感心した表情になった。
「いかにも、俺は
「呪信旅団の幹部未満の団員は、一部を除いてパーティーで動く。一部ってのは斥候と
オットーの推理を聞くと、その男が称賛するよりも先にミーアが口を開いた。
「オットーのくせに名推理やないか」
「くせにってなんだよ、くせにって。こんぐらい旅する
「いやはや大したものだ。だが、俺の正体を知ろうが関係ない。何故ならここで皆殺しにするからだ! 【
男が剣を持ったデスナイトとトーチホークを召喚すると、ミーアがすぐに矢を放つ。
「【
その矢がトーチホークに命中し、トーチホークはあっさりと消滅した。
「なっ!? 俺のトーチホークが!?」
「ごっつ弱いトーチホークやな。あんなんいくらおってもウチが一撃で仕留められるで。ほれ、デスナイト以外にもいるんなら召喚せえや」
「おのれぇぇぇっ!」
男がミーアに煽られてキレると、デスナイトへの指示が遅れる。
その隙にオットーがデスナイトと距離を詰めていた。
「喰らいやがれ! 【
走って来たことによる運動エネルギーを上乗せしたまま、オットーはデスナイト目掛けておびただしい数の蹴りをお見舞いする。
その嵐のような激しい蹴りで、デスナイトの体勢がガクッと崩れた。
「オットー退がりや! 【
オットーがバックステップで後退するのと入れ替わりで、矢が雨のようにデスナイトに降り注ぐ。
「デスナイト! 何してやがる! 敵を薙ぎ払え!」
男に指示を出されたデスナイトは、攻撃が止んですぐにミーア達に向かって突撃するために体勢を立て直そうとした。
ところが、その時には既にオットーが再びデスナイトと距離を詰めていた。
「【
仰け反ったまま曲がったデスナイトの脚を踏み台にして、オットーが飛び膝蹴りを放つ。
オットーの膝が顔面にクリーンヒットし、デスナイトはHPが尽きて消滅した。
「そんな馬鹿な!? 俺のデスナイトが!?」
「そんなんウチらがあんたより強いからに決まってるやろ」
そう言った時には、ミーアの放った矢が男の首を撃ち抜いていた。
捕縛して尋問する時間がないので、ミーアはこの場で殺した。
「ミーアおつかれ」
「オットーもな。ようやったで」
ミーア達は倒した男の死体から使えそうなものだけ剥ぎ取ると、地面を掘って死体を埋めた。
忘れてはいけないが、今日の外出の目的は呪信旅団の団員の討伐ではない。
それゆえ、ミーア達は警戒を続けたまま周囲を見渡して目当てのアンデッドを探した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます