第223話 ダーインクラブよ、お姉ちゃんは帰って来た!
翌日、ライトはヒルダとアンジェラを連れてダーイン公爵家が有する工場に来ていた。
この工場では、ランドリザードに牽かせる車も取り扱っている。
車を作る工場はダーインクラブにここの他にもう2つあるが、ダーイン公爵家の車はこの工場で製造される。
乗り合い
だから、どの工場でも車を製造するのは年に1回あるかどうかであり、ダーイン公爵家が自分達の車を自作しても彼らを圧迫しない。
もっとも、それが今後も同じかは定かではないが。
そこまで考慮したうえで、ダーイン公爵家は車も製造できる工場を有している。
今日ライト達がこの工場にやって来たのは、以前からコツコツ進めていた計画の仕上げのためだ。
ライト達の姿を確認すると、工場で働く者達が一斉に頭を下げた。
「ライト様! ヒルダ様! おはようございます!」
「「「「「おはようございます!」」」」」
「おはようございます。工場長、準備はできてますか?」
「勿論です。いつでも仕上げができるように準備は済んでおります」
作業員達の前に挨拶した工場長は、ライトに訊かれても自信をもって答えた。
「わかりました。では、早速始めましょう」
「かしこまりました。お前達、順番に運んで来い!」
「「「「「はい!」」」」」
工場長の指示に従い、作業員達は屋根に陣を描く溝の掘られた車を運んで来た。
「ヒルダ、お願い」
「任せて。【
ヒルダが技名を唱えると、溝を満たすように水が張られた。
そこにライトが続く。
「【
その瞬間、車の屋根の溝を満たす水が聖水に変わり、それが神聖な光を放って車を覆うように広がっていく。
「流石は旦那様と奥様です。2人揃えば、
アンジェラの言ったことが、ライトがヒルダを連れて来た理由だ。
ヒルダが水を創り出し、ライトがそれを聖水に変えてから結界を張る。
そして、天井に蓋をすればただの車が移動する結界こと結界車へと姿を変えた。
本当のところを言えば、ホーリーポットがあるので仕上げはライトだけで事足りる。
しかし、ホーリーポットは人前で使える代物ではないし、ヒルダの<水魔法>の修練にもなるからヒルダは仕上げに必要なのだ。
それに、夫婦の共同作業がしたいというライトのちょっとした願いも含まれている。
結界車と名付けたのはライトだ。
普通の車との差別化を図るためであり、名前だけでどんな効果があるかすぐにわかるようにしている。
今完成したのは3台目で、それ以外の結界車は1台目はライトが、2台目は教皇に就任したパーシーが乗るもののみ存在する。
試験的に結界車を製造したとはいえ、その有用性は結界のありがたみを知る全ての者が理解している。
ダーイン公爵家の家紋が入った結界車は、お披露目されてすぐにこの国で憧れない者はいない乗り物になった。
そんな乗り物があれば、欲しいと思うのが当然である。
実際、結界車を注文したいと頼む貴族は、とてもではないが少ないとは言えない数になっている。
しかし、ライトは注文を受けるのを保留していた。
ライト自身が忙しかったのもそうだが、結界車をまとまった数用意するには時間がかかるからだ。
在庫もないのに注文をポンポン受ければ、ライトが結界車の製造にかかりきりになってしまう。
公爵になってから仕事が山のようにあったので、それをひと段落させる間にベースとなる車を工場で用意させて、一気に仕上げるというのがライトの考えた計画だった。
1台仕上げた後も、ライトはヒルダと協力して次々に結界車を仕上げていった。
工場にある全ての結界車を完成させたのは、正午になる寸前だった。
「旦那様、奥様、お疲れ様です。注文のやり取りと受け渡しは私にお任せ下さい」
「お願いするよ。数に限りがあるから、1台ずつの販売にすること。それと、新品の
「かしこまりました」
ライトは結界車を注文する際、買い方を2つから選べるようにした。
1つ目は、ただ結界車を買う方法。
2つ目は、新しい車を下取りに出して結界車を買う方法。
1つ目は販売価格から値引くことはないが、2つ目は4割引である。
どうして2つ目の方法を用意したかと言えば、新しい結界車を製造する負担を減らすためだ。
結界車の受注を始めれば、十中八九すぐに在庫切れになるだろう。
その際に、
早めに在庫を補充するには、2つ目の方法は必須だと言えよう。
結界車を安く買えるならば、注文する貴族も喜んで新品の車を用意するに違いない。
遠方の貴族は損耗を考慮してただ買うだけになるだろうが、ダーインクラブ近隣の貴族は間違いなく下取りに出して新しい結界車を買うだろう。
とりあえず、第一陣の製造が完了したので、ライト達は昼食を取りに屋敷へと帰った。
昼食を取り終えて一休みしていると、ライトを訪ねて客がやって来た。
その客は応接室に行くことなく、ライト達がいる食堂のドアを勢い良く開けた。
「ダーインクラブよ、お姉ちゃんは帰って来た!」
(相変わらず元気だなぁ・・・)
食堂のドアを豪快に開けたのはイルミである。
結婚式を除き、今日まで一度もダーインクラブに帰って来なかったので、その期間の屋敷は忙しさはあれど穏やかだった。
しかし、その穏やかな日々に終止符を打つのはやはりイルミしかいない。
「イルミ、ちょっとは落ち着きを身に着けたらどうなの?」
「フッフッフ。お姉ちゃんは静かにしてると具合が悪いと思われるんだよ」
「「それはわかる」」
イルミの言い分に対し、ライトとヒルダの声が揃った。
そこに、イルミを追って4人組がやって来た。
「イルミ、私達を置いて行かないで下さい」
「イルミさん、私達の護衛ですよね?」
「まあまあ、きっとイルミも帰省してテンション上がっちゃったんだよ」
「納得しました」
遅れてやって来たのは、クローバーの4人だった。
4人の様子からして、イルミがクローバーの護衛をしてダーインクラブまでやって来たらしい。
状況がなんとなく理解できたライトは、とりあえずクローバーの4人に声をかけた。
「お久しぶりです、皆さん」
「「「「お久しぶりです、プロデューサー、ヒルダ((さん))」」」」
そんな挨拶の流れの後、ライトは早速本題に入った。
「イルミ姉ちゃん、今日はどうして帰って来たの?」
「お姉ちゃんの家はここだもん。帰って来るのに理由はいらないよ」
「それはわかるけど、だったらクローバーを連れて来る理由は?」
「えーっと・・・、なんだっけ? メア、後は任せた」
家に帰れてテンションが上がってしまい、すっかり本題を忘れてしまったイルミは説明をメアに丸投げした。
「はぁ。イルミはしょうがないですね。実は、エリザベス様からプロデューサーにお手紙を預かっております。まずはそちらを読んでいただけますか?」
「母様から? わかりました」
メアが取り出した手紙を受け取ると、ライトはすぐにそれに目を通し始めた。
そこには、クローバーにヘルハイル教皇国を巡業させるにあたってイルミが護衛を務めていることが記されていた。
最近では、戦場でも後方で歌って支援することから、戦力に関しては申し分ないイルミを護衛にするのは納得できよう。
また、ダーインクラブにイルミとクローバーを送ったのは、クローバー用の結界車を用意してほしいとのことだった。
クローバーの安全面を考慮すると、
(なるほど。言われてみれば確かに大事なことだ)
エリザベスの指摘を受け、ライトは貴族達の注文を受けるのも大事だが、ヘルハイル教皇国を巡業するクローバーこそ結界車を必要としていることに気づいた。
「メアさん、ここに来るのに
「勿論です。教会所有の
「お姉ちゃんが御者なんだよ」
話に割り込むイルミはドヤ顔である。
「うん、偉い偉い。メアさん、その
「問題ありません。エリザベス様から、プロデューサーが今使ってる車を改造したいと仰ったら好きにさせるようにと言われております」
「流石は母様ですね。それなら話が早いです。工場にメアさん達が乗って来た車を移しましょう。そこで結界車に改造します」
「「「「ありがとうございます!」」」」
こうして、ライト達の午後の予定も工場での作業に決まった。
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