第203話 裏切りおばさんってパワーワードだよな

 ローランド達が北門でパラノイアを倒した頃、ライト達は南門を出て絶賛戦闘中だった。


「数が多いな。【範囲昇天エリアターンアンデッド】」


 パァァァッ。


 【範囲昇天エリアターンアンデッド】を使ったのは、南門を出てから3回目だ。


 一気に倒しても、瞬く間にアンデッドが無限湧きしているのではないかと思う程すぐに現れる。


 ライトが【範囲昇天エリアターンアンデッド】を使えば、それだけヘイトを一気に稼いでしまう。


 それを重々承知しているので、ライトは【範囲昇天エリアターンアンデッド】を使う度にうんざりした。


 そんなライトの力になりたくて、ヒルダ達は周囲にこの事態を引き起こす元凶がいないか手分けして探していた。


 雑魚モブとはいえ、アンデッドが短い間にリポップするとは考えにくい。


 何者かの仕業と考えるのが妥当である。


「ライト、あそこ!」


 ヒルダが指差した方角を見ると、黒ローブを纏った人物が両脇をデスナイトらしきアンデッドに守られてライト達を観察していた。


 アンデッドが足りなくなったと判断すると、何か杖のような物を掲げた。


 それにより、再び雑魚モブアンデッドがその人物を隠すようにわらわらと現れた。


「あいつを倒さないとキリがなさそうだね」


「若様、護衛2体を私とイルミ様で受け持ちましょう。ヒルダ様と一緒に大元を断って下さいませ」


「お姉ちゃんも賛成。さっさと倒して合流するよ」


「イルミ様の仰る通りです。早々に倒して4対1に持ち込みましょう」


「ライトは後方支援をお願い。私があいつを倒す」


「わかった。【範囲昇天エリアターンアンデッド】」


 パァァァッ。


 雑魚モブアンデッドを一掃すると、ライトは続けて詠唱する。


「【【【信仰剣フェイスソード】】】【【【誓約盾プレッジシールド】】】」


 ライトが技名を唱えることで、ヒルダとイルミ、アンジェラを神聖な光が包み込んだ。


 戦う準備が整うと、イルミとアンジェラが対峙すべき者と距離を詰めた。


「【聖拳ホーリーフィスト】」


「せいっ!」


 イルミは自分から見て左側のデスナイトに接近し、そのまま後方に殴り飛ばした。


 空腹による怒りを上乗せしているにもかかわらず、デスナイトはむくりと起き上がった。


 その一方、アンジェラはグングニルを全力で投げて右側のデスナイトに命中させる。


 デスナイトに刺さったグングニルは、自前の効果ですぐにアンジェラの手に戻るので、アンジェラは武器を失うことはない。


 そうなれば、右側のデスナイトもアンジェラを脅威認定してアンジェラを倒そうと動き始めた。


 だがちょっと待ってほしい。


 デスナイトならば、今のイルミやアンジェラの攻撃を受ければ無事ではいられないはずだ。


 それがまだ動けているということは、デスナイトのようでデスナイトではないのだろう。


 デスナイトの上位種と想定するのが妥当と言える。


 2体の護衛デスナイト擬きが離れると、ライトとヒルダの前には黒ローブの人物しかいない。


 顔を隠すためにフードを深くかぶっていることから、ライトは<鑑定>でその正体を暴くことにした。



-----------------------------------------

名前:グロア=ドヴァリン 種族:人間

年齢:39 性別:女 Lv:35

-----------------------------------------

HP:600/600

MP:2,100/3,000

STR:300

VIT:300

DEX:600

AGI:200

INT:1,000

LUK:900

-----------------------------------------

称号:元ドヴァリン公爵

   生死不問デッドオアアライブ

   呪信旅団構成員

二つ名:交渉人ネゴシエイター

職業:学者スカラー

スキル:<弁論><指揮><速読>

装備:プラフィティアー

   黒いローブ

備考:なし

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 (堕ちるところまで堕ちたか・・・)


 <鑑定>の結果を見ると、ライトはグロアを軽蔑した。


 グロアが呪信旅団の手引きを受け、教会から脱走したことは記憶に新しい。


 "元ドヴァリン公爵"は爵位を剥奪されたことを、"生死不問デッドオアアライブ"は指名手配をかけられたことを表す称号だ。


 それは妥当な称号だが、その後に控える称号がいただけない。


 呪信旅団に助けられたグロアは、その構成員になっていた。


 ヘルハイル教皇国を支える4公爵家の血筋から、アンデッドに続く人類の敵となった呪信旅団の構成員となる者が出てしまったことは嘆かわしい。


 特に、ドヴァリン公爵家からすれば末代までの恥である。


 この事実をローランドやヘレンが知れば、胃が痛くなることは間違いない。


 何故なら、身内から呪信旅団に寝返った者を出したことで突き上げを食らうことは必至だからだ。


 いかにローランドが武功を挙げて教皇に就任したとしても、身内の管理ができていないことは看過できない。


 それが見逃されるのであれば、アンデッドと戦えればそれで良いと言っているようなものだ。


 グロアが寝返ったことも十分問題だが、それよりも厄介なのはプラフィティアーと呼ばれる錫杖である。


 これは当たり前だが呪武器カースウエポンだ。


 護国会議の際はグロアが手にしていなかったことから、呪信旅団に寝返った際に<弁論>を駆使してせしめたことは容易に想像できる。


 交渉人ネゴシエイターの二つ名の通り、グロア自身に戦う力はないのでグロアの武器はよく回る舌だ。


 呪信旅団から呪武器カースウエポンを譲り受けられる程とは恐れ入る。


 プラフィティアーの効果とは、MPと寿命を代償に使用者に従うアンデッドを創造して操れるものだった。


 つまり、グロアはこの襲撃に自らの寿命をベットしているということだ。


 ライトが堕ちたと思ったのは、呪信旅団に寝返ったこともそうだが、命を粗末にしてまでこの襲撃を行っていることを知ったからである。


「フードを外したらどうです、グロア?」


「こいつ、裏切りおばさんなの?」


 (裏切りおばさんってパワーワードだよな)


 ヒルダの発言にライトは笑いそうになるのを堪えた。


 仮にも元ドヴァリン公爵だったにもかかわらず、呪信旅団に寝返ったことを裏切りおばさんの7文字で表現するとは思っていなかったのだから、ライトにとって完全な不意打ちである。


「裏切りおばさんってふざけんじゃないわよ! 呼び捨てにするんじゃないクソガキ!」


 ヒルダの口撃に我慢できなくなり、グロアはフードを外して叫んだ。


「あっ、聞こえてたの?」


「私は私をコケにした者は赦さない。私から公爵の地位を奪ったガキ共を赦さない」


 (逆恨み乙とか言ったら発狂するんじゃないか?)


「逆恨みじゃん。みっともない」


「うるさいうるさいうるさい! 私が上、ガキ共が下! それがこの世界の摂理よ! ベーダーを唆してトラブルが起きるはずだったのにガキ共がなんでここに来んのよ!?」


 どこの世界の摂理だろうか。


 自分のことを棚上げして言い切れるふてぶてしさの勝負であれば、グロアが上でライトやヒルダが下で合っていると言えよう。


 そして、ベーダー侯爵の盗難事件の真の黒幕がこの場で明らかになった。


「ライトが裏切りおばさんよりも格下? 冗談はその転落人生だけにしてよ」


「プラフィティアー! 私に生意気なガキを惨たらしく殺すアンデッドを寄越しなさい! げふっ!?」


 激昂したグロアがプラフィティアーに命じると、命じ終えた瞬間にグロアが血を吐いて倒れた。


 グロアは倒れたまま動かなくなり、瞳孔が完全に開いていた。


 まさかと思ったライトは、<鑑定>を再びグロアに発動した。


 (ここまで愚かだとは・・・)


 <鑑定>の結果、グロアのHPとMPは尽きていた。


 それはつまり、グロアが残り全ての寿命とMPを捧げて強いアンデッドを創造したことに他ならない。


 カッとなってやったのだろうが、プラフィティアーのデメリットは他の呪武器カースウエポンに比べてずっと重い。


 哀れな最期を迎えたグロアの前に、時間差で黒い靄が凝縮し始めた。


「【浄化クリーン】」


 完全な状態で出現されては困るので、ライトはその靄を消そうと技名を唱えた。


 しかし、その靄は1回の【浄化クリーン】で消し切れるものではなかった。


 完全に消すことができず、ライトは再び【浄化クリーン】を使おうとしたが、そこで異変が生じた。


「えっ!?」


「これは一体?」


 イルミとアンジェラが戦っていたはずの2体のデスナイト擬きが、黒い靄に変換されてライト達の前にある靄に吸収されたのだ。


 その靄の吸収はライトが【浄化クリーン】と唱えるよりも速く、吸収した瞬間に辺り一帯を暗い光が包み込んだ。


「【範囲浄化エリアクリーン】」


 その光により、どんなアンデッドが出現するかわからない。


 それでも、周囲に瘴気がないことに越したことはないと判断し、ライトは辺り一帯の空気を浄化した。


 光が収まると、ライト達の前に骨だけで体を構成された3つの首を持つ化け物の姿があった。

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