護国会議編
第169話 ここは俺に任せて先に行け!
9月に入っても、教会学校再開の知らせはライト達に届かなかった。
新たな校長の人選が難航しているせいである。
校長になれば、似たような目に遭うかもしれないと思うと、誰だって校長を引き受けたがらなくなるのも無理もない。
それとは別件で、ダーイン公爵家の屋敷に
ライトは今、その件でパーシーに執務室に呼び出されていた。
「護国会議が開かれる」
「護国会議ってなんですか?」
「教皇と4公爵家だけで行う会議だよ。ヘルハイル教皇国が本当に危機に瀕した時にしか開かれないんだ」
「それに父様も参加するようにと手紙にあるんですね?」
「そうなんだけど、俺は参加したくないからライトに代理で行ってほしい」
「はい?」
大事な会議であると説明したくせに、ダーイン公爵家当主が行きたくないから自分に行けと言うものだからライトは耳を疑った。
「ダーイン公爵家当主代理として、護国会議に参加してほしい。異論は認めない」
「いや、異論は認めて下さい。どこの暴君ですか?」
「行きたくないんだよ。ネチネチしてる奴と頭の固い奴がいるから」
「父様、自分が嫌だからって息子を派遣するのはいかがなものでしょうか?」
「俺は困った時に助け合うのが
(そこまで嫌がるなんてどんだけ面倒なんだ?)
パーシーがイルミのようにごねることは珍しい。
つまり、それだけ護国会議に参加するであろう人物に会いたくないという訳だ。
ローランドとは仲が良いし、ケインとも仲が良い。
そうなると、消去法でパーシーが会いたくないと思っている2人はドヴァリン公爵とドゥネイル公爵になる。
どちらがネチネチしていて、どちらが頭が固いのかはわからない。
ただ、アルバスから聞いたイメージからすると、頭が固いのはドゥネイル公爵だと推測できた。
その推測が合っているのなら、ネチネチしているのがドヴァリン公爵ということになる。
「母様はなんて言ってるんですか?」
「リジー? とてもじゃないけど話せないよ。下手したら戦争になる」
「戦争ですか?」
エリザベスが賛成するならば、パーシーの代理として自分が護国会議に参加するのも仕方ないという考えで質問したが、パーシーの反応はライトの予想とは違うものだった。
賛成か反対の答えが貰えるかと思ったら、戦争になるというのだからライトが首を傾げるのも当然だろう。
「リジーが護国会議に行ったら、教会が焼け落ちるのは間違いない。俺よりもリジーの方があの2人を嫌いだからね」
「えぇ・・・」
「ライトはリジーが
その時、執務室をノックして
なんというタイミングだろうか。
「パーシー、誰が怖いですって?」
「ひぃっ!?」
目の笑っていない笑みを浮かべるエリザベスを見て、パーシーの体が縮こまった。
蛇に睨まれた蛙とはこのことを指すのだろう。
パーシーが怯えている間に、エリザベスはパーシーのデスクに近寄ってその上に広げられた状態であった手紙を拾った。
手紙に目を通すエリザベスを見て、パーシーはすっかりガクブル状態である。
エリザベスは手紙を読み終えると、迫力のある笑みを浮かべた。
「ライト、セイントジョーカーでキャンプファイアーしましょうか?」
(母様、笑顔が怖いです)
どう考えてもプレッシャーが抑えられていない笑みを向けられ、ライトはパーシーの言い分が正しかったのだと悟った。
「ここは俺に任せて先に行け!」
「父様?」
「心配いらない。リジーを落ち着かせたらまた呼ぶさ」
(何言ってんだろう、父様は・・・)
よくわからないことになったが、この場にいると面倒なことになりそうなのは間違いないので、ライトは執務室から去った。
小一時間程経過し、セバス経由で呼び出されたライトが執務室に行くと、エリザベスがおとなしくなっていた。
というよりも、エリザベスはパーシーにべたべたとくっついていた。
普段はこんな様子を見せないので、ライトは珍しいものを見た気分になった。
「母様は大丈夫なんですか?」
「大丈夫。なんとかした」
「一体何をしたんですか?」
「教えてほしいかい?」
「いえ、別にそこまでではありません」
扱いの難しい女性への対応方法なら、ライトはヒルダで十分に理解している。
だから、そこまでライトはパーシーがエリザベスをおとなしくさせた方法に興味がなかった。
「くっ、ヒルダちゃんで既に学習済みか。先が恐ろしいな」
「そういうのは良いので、話を本題に戻して下さい。護国会議の件ですが、僕が行かなければならない理由は父様が行きたくないという以外にないのですか?」
「リジーが暴走するのを食い止められるぞ?」
「なんというかこう、僕が行かなければならない理由はなさそうですね」
「うっ・・・」
ライトが呆れ顔になっていると、エリザベスが真面目な顔になった。
「ライトが行く意味はあるわ」
「母様?」
「パーシーに難しい話は向いてないわ。ダーインクラブに不利な条件が結ばれるかもしれない」
「それは避けたいところですが、母様が同伴すれば問題ないと思います」
「私が行くと、うっかり燃やしたくなるかもしれないから」
(そうだった・・・)
パーシーとエリザベスが行くと、とにかく相性が悪いのだろう。
それを理解すると、ライトは大きく溜息をついた。
「はぁ、わかりました。僕が行ってきます」
「お願いするわ。ライトの意思がパーシーの意思だと思ってくれて構わないし、いざとなったら”ヘルの代行者”を盾に不利な条件を蹴散らしちゃって良いわ。私が許可する」
(母様ってば過激だなぁ)
とりあえず、ライトは自分が護国会議に参加しなければならないと諦めた。
そこに、ノックする音が聞こえた。
「ヒルダです。入ってよろしいでしょうか?」
「構わないよ」
パーシーが入室を促すと、ヒルダが静かに室内に入って当然のようにライトの横に移動した。
「お義父様とお義母様は仲が良さそうですね」
「ヒルダちゃんも楽にして良いわ」
「ありがとうございます」
エリザベスが許可したことで、ヒルダはライトの腕を抱いた。
(なんだこの状況は? 真面目な話をする空気じゃないぞ)
「ヒルダちゃん、俺にどんな用事かな?」
「実は父様から、護国会議に代理で出るようにと手紙が来ました」
「え? そんな速く連絡がついたの?」
自分が今代理を任されたという状況なのに、ドゥラスロールハートにいるケインから代理を任される手紙が来たというのでは時間的におかしい。
電話なんて存在しないのだから、護国会議開催の手紙を受け取ってから代理の指示をヒルダが受け取るまでにもっと時間がかかるはずなのだ。
「何言ってるのライト? 護国会議の案内は3日前には来たって話だよ?」
ヒルダの回答を聞き、ライトはパーシーにジト目を向けた。
「父様、まさか手紙を開封し忘れてたんですか?」
「開けはしたんだけど、あまりにも行きたくなさ過ぎて3日間現実逃避してた」
(何やってんの父様?)
パーシーがどれだけ護国会議に出たくないのか改めてわかり、ライトのジト目が強まった。
「父様もドヴァリン公爵とドゥネイル公爵に会いたくないから、私にライトと一緒に出てほしいって書いてあったよ」
(ケイン様、貴方もですか・・・)
パーシーとケインは好き嫌いが似ているらしく、逃げ方がそっくりだった。
しかも、ヒルダならライトと一緒に参加すれば良いと言われれば嫌とは言わない。
4公爵家間でも、自分がライトと仲睦まじい所をアピールできるのだから当然だ。
牽制できる良い機会だとすら思っているだろう。
その時、ライトはある可能性に辿り着いた。
「父様、正直に言って下さい。ケイン様と護国会議が開かれることになったら、僕とヒルダを代理で参加させようと画策してましたね?」
「・・・な、なんのことかな?」
「目が高速で泳いでますよ、父様。もうちょっと表情で悟られないようにしましょうよ」
イルミとパーシーは似た者親子である。
イルミも誤魔化そうとする時、目が高速で泳いでしまう。
それゆえ、ライトはパーシーがイルミ同様嘘をつけない性格だと察した。
いずれにせよ、ライトはヒルダと一緒に護国会議に当主代理として参加することになった。
この時のライトはまだ、護国会議がヘルハイル教皇国の転機を迎えることになるとは思ってもいなかった。
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