第168話 パーシー、貴方疲れてるのよ
光が収まると、ライトは礼拝堂に戻っていた。
「帰って来たか・・・」
ヘルとの対話は実りの多いものだった。
新たな称号と技に
幸い、ヘルが1つずつ説明してくれたから、情報量の多さに頭がパンクするような事態にはならなかったが、問題はライトがどこまで他の者に話すかである。
それはさておき、用事は済んだのだから礼拝堂を出ることにした。
礼拝堂のドアを開けて外に出ると、ライトを見た瞬間に支部長が歓喜に満ちた表情で手を組んで両膝を付いた。
「ライト様、代行者にご就任おめでとうございます!」
「わかるの?」
教会関係者から無条件で協力を引き出せるとヘルは言っていたが、まさか見ただけでわかるとは思っていなかったのでライトは困惑気味である。
「勿論でございます! ライト様からは、聖典に記されております代行者としてのオーラがございます! ありがとうございます! ありがとうございます!」
(宗教関係者ってこれだから怖い。いや、僕も関係者か・・・)
支部長が自分を崇め始めたのを見て、ライトは本格的に引いていた。
前世が無宗教な日本人なので、宗教を拠り所にする者を見ると苦手意識を抱いてしまうのだ。
そんなライトを崇める支部長を放置して、ヒルダはライトが腕に抱える苗木を指差した。
「ライト、その苗木はどうしたの?」
「これ?
「「「え?」」」
「おぉ! ライト様はヘル様とお会いになられたのですね! これは教会総出でお祝いせねば!」
ライトの発言を聞き、ヒルダとイルミ、アンジェラが固まった。
支部長だけはテンションがおかしくなったのか、立ち上がって自分の抱いた喜びを教会中に届けるために駆け出した。
(支部長は
3人がショックから立ち直ると、ライトは屋敷に戻った。
屋敷に戻ったライトが、パーシーとエリザベスに教会であったことを説明すると2人も先程のヒルダ達のようにフリーズした。
少しして動き始めたが、どっと疲れた表情になっていた。
「リジー、聞き間違えたのかな? ライトがヘル様の代行者になって
「パーシー、貴方疲れてるのよ。いえ、私もね。まったく同じように聞こえたわ」
「【【
疲れた様子なので、ライトがその疲労を取り除いて同じ説明を繰り返した。
「聞き間違えた訳じゃなかったのか。よし、わかった。ライトの思うままにすれば良いよ」
「パーシー、思考を放棄しないで」
「でも、これはもう俺のなんとかできる領分じゃないよ。だって、ライトはヘル様と対話してるんだから」
「それはそうだけど」
パーシーの言いたいことはわかるが、親として
「母様、とりあえず食事にしませんか? これ以上夕食まで時間がかかると、イルミ姉ちゃんが困ったことになるかもしれません」
「・・・そうね。お腹を空かせた状態で考えても良いアイディアは出ないわ。夕食にしましょう」
チラッとイルミを見たエリザベスは、夕食と聞いて目を輝かせるイルミを見て先に食事を取ることに賛成した。
今日の食事は普通の夕食だったが、めでたいことがあったのだからと女性陣がライトに強請って<
特にイルミに至っては、ケーキをホールごと食べかねない雰囲気だったため、ライトはそれを落ち着かせるのに手を焼いた。
食後、エリザベスは使用人を集めてライトに”ヘルの代行者”の称号が与えられたことを知らせ、その代行者の家族である自分達もそれにふさわしい態度を取るようにと命令した。
正直なところ、それ以上にエリザベスにできることはない。
だから、使用人が下手に言いふらしたり不遜な態度を領民に取らないように釘を刺すに留めた。
その一方で、ライトはロゼッタを呼び出していた。
「ライ君どうしたの~?」
「ロゼッタにお願いがあるんだ」
「何かな~?」
「この苗を庭に植えて育ててほしい。最優先事項だ」
「この木なんの木~?」
「
「そ~なんだ~。じゃあ頑張って育てるね~」
(緩い! いや、ロゼッタだしこんな感じか。肝が据わってるよね、マジで)
だが、それと同時に頼もしく思えたのも確かである。
「与える水は聖水にすることだけ気を付けてくれれば、育てるのに失敗はないと思う」
「了~解~。ライ君に~、私を雇って正解って思ってもらえるように頑張るね~」
「よろしくね」
ロゼッタと別れると、ライトはそのままシャワーを浴びて部屋に戻った。
自室に戻ると、ヒルダがライトを待っていた。
「おかえり」
「ただいま」
「ウフフ。なんか夫婦みたい」
「そうだね」
同じ屋敷にいるのに何をやっているんだろうか。
ツッコミ不在である。
ヒルダはライトのベッドに腰かけており、ライトに隣に座ってほしいとベッドを叩いた。
ライトが隣に座ると、ヒルダが横から抱き着いて体重を預けた。
「ライト、私を置いて行かないでね」
「置いて行かないよ?」
「”ヘルの代行者”を獲得しても、私を必要としてくれる?」
「勿論だよ。僕がヒルダを要らないなんていう訳ないでしょ?」
「ずっと私を隣にいさせてくれる?」
「当然」
「本当?」
「本当」
「本当に本当?」
「本当に本当」
どうやら、ライトがヘルと対面したことで、ヒルダはライトが遠い存在になってしまうんじゃないかと不安になったらしい。
ライトに抱き着くヒルダの体は、その不安が小刻みな震えによって表れていた。
「きっと、今までよりもライトはいろんな人から好意を寄せられるよ」
「称号ありきで僕に寄って来られても、僕の気持ちは揺れたりしないってば。ヒルダは違ったでしょ?」
「私は母様を治してくれたライトがとても素敵に見えたの。欲に眩んだ目を持つ女がいたら、私が問答無用で斬り捨てるよ」
「・・・ヒルダに人殺しになってほしくないから、僕がヒルダだけを見てるって安心してほしいな」
「ライトのことは十分信じてるの。本当よ? でも、周りに群がる雌共を見るとどうしても不安になっちゃうの」
(ヒルダに落ち着いてもらうには、成人になったらすぐに子供を作るしかないな)
自分とヒルダの間に子供ができれば、きっとヒルダも落ち着いてくれるはず。
ライトはそのように考えている。
実際、ライトの考えは正しい。
独占欲が強いヒルダとしては、早くライトの子供を授かりたいと思っている。
それゆえ、ライトは仮に自分が今この時成人だったなら、ヒルダを押し倒すべきだとわかっている。
だが、ライトはまだ学生であり、ヒルダもまた同じだ。
学生同士で子供ができれば、自分達に対するアンチがこぞって攻撃するきっかけを作りかねない。
だから、ライトはそういった連中にきっかけを与えないようにするために、節度のある付き合いを続けている。
(これぐらいなら問題ないよね?)
不安が目に宿るヒルダに対し、ライトはそっと唇を奪った。
ヒルダは驚いて一瞬だけ目を見開くが、すぐにライトとキスをしている事実によって幸せな気分が心を満たして蕩けた表情になった。
お互いの愛を確かめ合うこと10分、ヒルダはライトに抱き着いたまま幸せそうに寝息を立てていた。
ライトからキスをしてもらえたことで、ヒルダは安心した途端に眠気に負けたのだ。
ライトはヒルダをベッドに寝かせようとしたが、ヒルダはライトをがっちりと抱き締めたまま離れない。
寝てもなお、ライトと離れたくないという意志の強さを感じる。
「ライト・・・、5人目ができちゃった・・・」
(夢の中の僕、そこまで頑張ったのか)
ヒルダの寝言を聞き、ライトは成人したら間違いなく夜が大変なことになると確信した。
身動きが取れなくなってしまったライトは、仕方なく今日はもう寝ることにしてヒルダを起こさないようにそっと動かして一緒に横になった。
その夜、ライトは成人してヒルダと子沢山な家庭を築く夢を見たが、それは寝る前の出来事が影響しているのは言うまでもない。
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