第164話 さては物欲センサーの怖さをわかってないな?

 ライト達が蜥蜴車リザードカーで向かったのは、ダーインクラブの南である。


 月見の塔がダーインクラブに併合されたおかげで、セイントジョーカーからダーインクラブの間にはアンデッドがほとんどいなくなったからだ。


 ダーインクラブの南であれば、まだまだアンデッドはそれなりに多く存在する。


 車内では、ライトがカタリナに今日狙うアンデッドを確かめていた。


「カタリナ、どのアンデッドが【融合フュージョン】に必要なの?」


「幽体のアンデッドとスケルトンアーチャーを探したい」


「その2体が合体するの?」


「ううん。そこにスケルトンライダーも合わせるの。成功すれば、ゴーストライダーになるよ」


 ゴーストライダーとは、幽体の動物型アンデッドに跨ったスケルトンだ。


 攻撃手段は背負った弓矢で攻撃するか、自身が騎乗する幽体である。


 カタリナには、既にトーチホークとデスナイトという【融合フュージョン】によって作り出されたアンデッドがいる。


 トーチホークが索敵、デスナイトが接近戦を担当するならば、後衛か遊撃が欲しいところなのだ。


 以前、バスタ山の洞窟でスケルトンライダーの使役に成功しているので、今日狙うべきアンデッドは2体で済んでいる。


 そこに、御者台からアンジェラの声が聞こえて来た。


「若様、前方にミストの集団がおります!」


「丁度良いじゃん。アンジェラ、蜥蜴車リザードカーを停めてくれ」


「承知しました!」


「カタリナ、ミストでも良いんだよね?」


「大丈夫。スモッグやスレッドを想定してたけど、ミストがいるならそっちの方が良いから」


 ミストとはその名の通り霧状のアンデッドで、体は薄い青色である。


 スモッグやスレッドよりも基本的にレベルが高く、<雨乞い>を会得している個体もいるので、幽体のアンデッドの中では戦う際に注意が必要な相手だと知られている。


 ライト達が蜥蜴車リザードカーから降りると、前方に薄っすら青い霧が広がっていた。


「カタリナ、<雨乞い>を持ってる個体の方が良いの?」


「できればそっちの方が嬉しい」


「了解」


 それだけ言うと、ライトは一旦喋るのを止めて<鑑定>で<雨乞い>を保持しているミストを探した。


 (いた。右から2番目の個体がそうだ)


 運が良いことに、ライトは早々に<雨乞い>持ちのミストを見つけられた。


「【聖戒ホーリープリセプト】」


 折角見つけた個体を見逃す訳にはいかないので、これだけは間違って倒さないようにと目印を付けて拘束した。


「ライト、あれ以外は倒して良いの?」


「倒しちゃって」


「わかった。じゃあ、ここは私がやるね。【舞水刃ダンシングアクアブレード】」


 水で構成された4つの刃が舞い、目印の付いていないミスト達を斬りつけた。


 ヒルダは<聖剣術>を使えば、グラムによる攻撃でもダメージを与えられる。


 しかし、今回は<水魔法>の熟練度を上げるために【舞水刃ダンシングアクアブレード】を使用した。


 スモッグやスレッドよりもレベルは高くとも、雑魚モブであることに変わりはない。


 それゆえ、ヒルダが1回【舞水刃ダンシングアクアブレード】を使っただけでもあっさりと倒せてしまった。


 そうなれば、後は拘束されたミストを使役するだけの簡単なお仕事のみがカタリナに残されている。


「会長さん、ありがとうございます。【絆円陣リンクサークル】」


 ブォン。


 カタリナが円陣を起動すると、それがミストを閉じ込める結界となった。


 結界が明滅しながら収縮し始めたのを確認して、カタリナは手を前に伸ばしてからグッと握った。


 カタリナは使役に成功したとわかると、すぐに次の行動に移った。


「【送還リターン:ミスト】」


 シュイン。


 カタリナが技名を唱えると、ミストが消えた。


「残り1体だね」


「うん。幸先良いよ。この調子なら、あっさりとスケルトンアーチャーにも遭遇できるかも。出現しやすいアンデッドだし、見つからないなんてことはないはず」


 (さては物欲センサーの怖さをわかってないな?)


 ライトがそう思うのも無理もない。


 この物欲センサーにより、前世では人類がどれだけ苦労して来たのかライトは十分に理解しているからだ。


 それに加えて、今ライト達がいる場所はスケルトン系アンデッドが頻繁に出現する訳でもない。


 いくらスケルトンアーチャーが出現しやすくとも、母数が少なければなかなか出現しないと言うことだって十分にあり得る。


 実際、その心配は現実となった。


 蜥蜴車リザードカーに乗ってスケルトンアーチャーを探すが、スケルトンアーチャーになかなか遭遇することができなかった。


 ロッテン系アンデッドやスケルトン、スケルトンライダー、スケルトンランサー、スケルトンタンク、スケルトンソルジャーのような望んでいないスケルトン系アンデッドとは遭遇できた。


 それにもかかわらず、スケルトンアーチャーにだけ遭遇できないのだから、これは物欲センサーが発動しているといっても過言ではないだろう。


「出ない・・・」


「出ないね」


「そうだね」


「お姉ちゃんはたくさん戦えるから全然良いよ」


 カタリナがどんよりとしたオーラに包まれ、ライトとヒルダもスケルトンアーチャーが出なくてテンションが下がっている。


 とっくの昔に【幸運付与ラッキーエンチャント】を使っているが、スケルトンアーチャーと遭遇できないので余計に凹んでいる。


 そんな中、イルミだけが戦って経験値を溜められるなら一向に構わないという態度だった。


 昼休憩を挟み、スケルトンアーチャーを探すこと1時間が経過するが、それでもライト達はスケルトンアーチャーと遭遇できずにいた。


 カタリナの顔からは焦燥感が隠せなくなっていた。


「な、なんでスケルトンアーチャーがいないの? 普段はちょくちょく出るのに、いざ必要になった時には全然出ないじゃん」


 (カタリナ、これが物欲センサーというものだよ)


 そう思っていても、ライトはそれを決して口にはしなかった。


 理解してもらえない言葉を喋らないように、ライトなりに気を使っているからだ。


 その時、アンジェラの声が聞こえた。


「若様、スケルトンアーチャーが出ました! 出ましたが亜種です! 全身が灰色です!」


 (物欲センサー仕事し過ぎじゃない? ノーマルなスケルトンアーチャーは何処?)


 ストレートにカタリナの望みが叶わないので、ライトは物欲センサーの恐ろしさを改めて思い知った。


 だが、そこで呆けている訳にもいかないのでカタリナの方を向いた。


「カタリナ、称号に亜種が付いてても構わないよね?」


「スケルトンアーチャーに変わりないから大丈夫。多分、きっと・・・」


 最後の方になるにつれて、自信がどんどんなくなっていくようでカタリナの声が小さくなった。


 それでも、ここで亜種でも構わないからスケルトンアーチャーをカタリナに使役してもらわないと、ライト達はスケルトンアーチャー探しから解放されない。


 是が非でもこれで終わりにしてもらおうとライトは気合を入れた。


「アンジェラ、停めてくれ!」


「承知しました!」


 ライト達が蜥蜴車リザードカーを降りると、スケルトンアーチャー亜種が矢を放つ寸前だった。


「【防御壁プロテクション】」


 光の壁が現れると、スケルトンアーチャー亜種の放った矢がそれに当たって弾かれた。


 そのすぐ後に、カタリナが動いた。


「【麻痺パラライズ】」


 バチッ。


 逃がしてなるものかという思いからか、カタリナはすぐに使役しようとするのではなく、スケルトンアーチャー亜種を弱らせてから使役させる作戦にシフトしたようだ。


 【麻痺パラライズ】のせいで、思うように体を動かせないスケルトンアーチャー亜種に対し、カタリナはこれでいけると確信した。


「【絆円陣リンクサークル】」


 ブォン。


 カタリナが円陣を起動すると、それがスケルトンアーチャー亜種を閉じ込める結界となった。


 結界が明滅しながら収縮し始めたのを確認して、カタリナは手を前に伸ばしてからグッと握った。


 カタリナは使役に成功したとわかると、すぐに次の行動に移った。


「【召喚サモン:スケルトンライダー】【召喚サモン:ミスト】」


 融合素材と言えるアンデッド3体が揃うと、カタリナは続けて技名を唱えた。


「【融合フュージョン:スケルトンライダー/ミスト/スケルトンアーチャー】」


 その瞬間、以前デスナイトが【融合フュージョン】によって現れた時よりも眩しい光がその場を包み込んだ。


 目を瞑っていたことで、ライト達は光に目をやられることはなかった。


 しかし、ライト達が目を開けられるようになるまで時間が少しかかった。


 やがて、無理せずに目を開けるようになると、ライト達は目を開いてゴーストライダーの姿を見た。


 その姿は、教科書で記された姿とは異なっていた。


 まず、ゴーストライダーが騎乗している幽体のアンデッドだが霧状の狼だった。


 ゴーストライダー自身の体は、スケルトンアーチャー亜種の色を引き継いで灰色に染まっており、背中には弓矢がある。


 ライトが<鑑定>を使うと、ゴーストライダーの亜種となっていた。


 確認した情報を伝えると、カタリナは細かいことは気にしなかった。


「強い分には問題ないよ。やっと終わったぁ」


 これ以上探索なんてしたくない。


 これがその場にいる者の総意であることは間違いなかった。

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