第98話 賢者半端ないって!
11月3週目の火曜日、ついに事態が動いた。
日が沈み始めた頃、アンデッドの群れの侵攻が知らされ、ライト達生徒会パーティーも戦場出動した。
ライト達が向かったのは南門で、到着してからは救護班として活動していた。
「怪我人をこちらに集めて下さい! 【
「すげえ!」
「治った!」
「こんな一瞬で!?」
「
南門の警備中、アンデッドによって負傷した
常識的に考えれば、MP消費量の多い【
しかし、運ばれてくる負傷者の数が多いせいで、個別で発動する手間を省かないと負傷者で周囲が埋まってしまうのだ。
最初は<
治療された
「ライト、追加だよ!」
「私もです」
「こっちも」
「わかりました。3人共、怪我が酷いですね。【【【
イルミ、メイリン、ジェシカが運んで来た負傷者は、瘴気によって苦しんでいる訳ではなく、純粋に切り傷や打撲で痛そうにしていた。
ぱっと見た感じでも、残りのHPがギリギリだったので、今回は<
「終わりました。失った血が戻った訳ではありませんから、無理は禁物です」
「わかった。ありがとう」
「助かった」
「感謝する」
ゆっくりと立ち上がり、治療を受けたばかりの3人は体の調子を確かめてから戦場に復帰した。
「ライト、水飲む?」
「うん」
ヒルダからコップを受け取り、ライトは水を飲んで一息ついた。
現在、生徒会パーティーは東西南北の門の中で最もアンデッドの動きが活発な南門にいるのだが、ここまで忙しいとはライトも思っていなかった。
どの門でも同じだが、負傷者はランドリザードの牽引する荷車によって救護班のいる場所に搬送される。
ライト達の場合、頻繁にその荷車が来るものだから、イルミとジェシカ、メイリンが負傷者をライトの近くに移動させる役割で、ヒルダがライトの補助をするようになった。
勿論、ライトはひたすら治す重要な役目を担っている。
「それにしても、南門だけがここまでアンデッドが多いのかな?」
「どうだろうね。でも、セイントジョーカーにアンデッドが襲撃して来るなら、きっとダーインクラブはここよりもアンデッドの数は少ないよ」
「そうだと良いな。まあ、アンジェラがいればどうとでもしそうだけどね。それよりも、ドゥラスロールハートも無事だと良いね」
「うん。父様と母様、それにスルトもいるから、無事でいてほしいな」
「そうだね。スルト君、来年入学だったよね。元気な姿で会いたいよ」
スルトとはヒルダの弟だ。
ヒルダの8つ下の男の子で、ドゥラスロールハートの長男である。
ヒルダがライトの婚約者になってから、ドゥラスロール夫妻が頑張った結果がスルトなのだ。
何を頑張ったのかは、わざわざ言う必要はないだろう。
「ライト~、お腹減った~」
「イルミ姉ちゃん、さっき食べたばっかりじゃん」
「さっき兵糧丸食べてたよね?」
「お姉ちゃん、兵糧丸以外のものが食べたいの」
「イルミ、ライトを困らせないで。姉として恥ずかしくないの?」
「そうですよ、イルミ。ライト君が頑張ってるんですから、余計な負担をかけさせては駄目です」
「姉というより、妹」
「ライト~! みんなが虐めるんだよ~! お腹が空いただけなのに~!」
ヒルダとジェシカ、メイリンに立て続けに厳しいことを言われてしまい、イルミはライトに泣きついた。
お腹が空いたり、泣きついたりと世話の焼ける姉である。
「しょうがないなぁ・・・。はい、これでも食べて」
「燻製だ~! やった~! ライト、愛してる!」
「肉・・・」
「メイリン、貴女、目が肉になってますよ?」
「もう、ライトってばイルミに甘いよね」
リュックの中から、ビーフジャーキーの燻製の入った箱を取り出し、ライトはイルミにそれを渡した。
用意周到なライトは、イルミが駄々を捏ねた時のためにあらゆる準備をしている。
姉の扱いに長けた弟である。
「なんというか、駄目なペット程かわいい的な」
「ライト、お姉ちゃん駄目でもペットでもないよ?」
「言われてみれば、確かにそうかも。イルミが周りから好かれてるのって、そういうところが影響してると思うもん」
「ヒルダ、そこはフォローしてよぉ~」
「事実を言ったまでだよ」
「そんなことない。そうだよね、会長、副会長?」
イルミが話を振ると、ジェシカとメイリンがイルミから視線をスッと逸らした。
その反応からして、自分がどう思われているのか否が応でもわかってしまった。
「うぅ・・・。お姉ちゃんペット扱いだったんだ・・・」
「あっ、拗ねた」
そんな話をしていると、ランドリザードが荷車を牽引して来た。
「ライト、負傷者。1パーティー分」
「わかってます。瘴気が結構付着してますね。【
瘴気による汚染が酷かったので、ライトは【
ついでに、荷車を牽引して来たランドリザードや御者、荷車も清めている。
それから、すぐに治療を終えると、
それと入れ替わりに、ローランドとヘレンがやって来た。
「よう、ライト。調子はどうだ?」
「叔父様達、こっちにいらしたんですね。他の所は片付いたんですか?」
「まあな。数が少ない場所から、ちゃっちゃと倒して回ってようやく南門だ」
「ライト君、今までどれぐらい治療したの?」
「100人は超えてたと思います」
「ライト、正確には126人だよ」
「ありがとう、ヒルダ」
「良いの。だって、私はライトの助手だもの」
ニッコリと笑顔で応じるヒルダを見て、ローランドは目を擦った。
「なんか、ドゥラスロールが小さいヘレンに見えたぞ」
「あらあら。ライト君はローランドよりもしっかりしてるもの。ヒルダちゃんが私みたいになることはないわ」
「お、おい。そういうことをここで言うんじゃねえよ」
「はいはい。威厳がなくなるものね。じゃあ、行くわよ」
「あっ、ちょっと待って下さい。【【
「体が軽くなったぜ。ライト、ありがとよ。じゃあな、お前等」
「ライト君、ありがとね。また後で」
ヘレンに手綱を握られたローランドの様子を見て、ヒルダはピンと来るものがあった。
「ライトを私がいなきゃ駄目なくらい骨抜きにすれば、他の女を排除できる?」
「ヒルダ、そんなことしなくても、他の人に靡いたりしないからね?」
真剣な顔で困ったことを考えるヒルダに対し、ライトはやんわりと待ったをかけた。
そこに、イルミがサムズアップして割り込んだ。
「大丈夫! お姉ちゃんは、ライトがいないともう駄目だからね!」
「偉そうに言うことじゃないよね」
「イルミの将来の旦那さん、大変そう」
(アルバスがその座を狙ってるんだけど大丈夫かな・・・)
イルミがどういう感情を抱いているかは定かではないが、アルバスはイルミに一目惚れしたままである。
もし、アルバスがイルミと結婚できたと仮定して、その後のドゥネイル公爵家が心配になった。
まず、アルバスもイルミも単純だ。
アルバスは学年次席の学力があるから、馬鹿ではない。
しかし、単純なのはイルミと変わらないし、思ったことは両者ともすぐに口に出してしまう。
そして、イルミを迎えるということは、その家のエンゲル係数が迎えた瞬間から急激に上昇することを意味する。
公爵家の財力なら、どうにか持ちこたえるとは思っても、イルミがそれをリカバリーできるのかが心配になる。
(まあ、それは僕が考えることじゃないか)
そこまで考えた結果、ライトは思考を放棄した。
未来のイルミへの心配は、未来の旦那が解決すべきだと丸投げしたと言っても良い。
その後、ローランドとヘレンが南門に来たおかげで、負傷者がライト達の前に運ばれて来ることはなくなった。
拘束時間は4時間程度だったが、ライト達の疲れはそれ以上のものである。
ライトは治療院で慣れていたが、それ以外の4人は人の命を預かることの大変さを思い知るのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます