第93話 その発想はなかったわ
聖鉄と比べても、
また、聖気に相性が良いばかりか、アンデッドの攻撃を受けても、それが余程の者でない限り
ライトがルクスリアから受け継いだダーインスレイヴは、ライトの<鑑定>によれば
銀の部分が
そもそも、
それに加え、
しかし、
ライトが世界樹を守り切れなかった場合、誓約違反で死ぬ。
これは死が必ず訪れるという点では、最大のデメリットではあるが、考えようによっては常に体を蝕むような悪影響はないし、寿命が来たら人間はどうせ死ぬ。
そう考えてみれば、ダーインスレイヴはライトにとって十分頼りになる
ルクスリアから引き継いだ当時は、INTの能力値が倍になるという効果しかなかった。
ところが、ライトがソードブレイカー戦の後に確認したら、MP消費量を本来の1/4だけカットする効果が増えていた。
ルクスリア曰く、ダーインスレイヴは使えば使う程成長する武器だ。
ソードブレイカーを倒したことで、ライトが一定以上成長したとダーインスレイヴが認めたから、MP消費量を本来の1/4だけカットする効果が追加されたのだろう。
話は戻るが、
ローランドとヘレン、エーリッヒの3人を放置したまま、思考の海にダイブしてしまっていたことに気づき、ライトは慌てて口を開いた。
「
「そんなことが起こるのか」
「初めて知ったわ」
「そんな鉱物があるとは驚きです」
「作るのは簡単です。僕が銀に【
「確かにな。急ぎで聖気を銀に注ぎ込むなら、ライトがやるのが確実だ」
「急ぐとなると、ライト君に力を借りるしかないわね」
ライトの発言に対し、ローランドとヘレンが頷く中、エーリッヒが疑問を口にした。
「ですが、その後はどうするんですか?
「
「なるほど。聖水と作成手段は変わらないんですね」
「それと、今思いついたのですが、いや、上手くいくでしょうか・・・」
「なんだ? ライト、言ってみろよ。できるかどうかはさておき、お前の発想がヒントになるかもしれん」
ライトとしても、下手に期待させて成果が出なかったら申し訳ないので、咄嗟に思い付いたことを話すかどうか悩んだ。
しかし、ローランドにとってはその閃きすらなかったのだから、思いついたことがあるなら話してほしいと思うのは当然である。
「虫眼鏡ってありますよね。あれで日光を集めるのと同様に、月光も虫眼鏡で集めて水や銀に浴びせれば、通常よりも早く聖水や
「試してみる価値はありそうだな」
「その発想はなかったわ」
「至急、必要な物をかき集めて来ます」
ライトのアイディアを聞き、3人は実験する気になった。
エーリッヒに至っては、ローランドの部屋からダッシュで出て行くぐらいの気合の入りようである。
「確証もなんもありませんよ?」
「確証なんてものは、これから試せばわかるもんだ。駄目で元々だが、上手くいけば聖水と
「そうね。上手くいった場合は、予算の使い道も変えなければいけない訳だし、実験することは必要よ」
「それもそうですね。ところで、聖水の作成はどうしますか?」
「おう、頼むわ。ヘレン、トーテムポットを持って来てくれ」
「わかったわ」
ヘレンはローランドに頼まれ、以前ライトに渡したものとは別のトーテムポットを持って来た。
前回のトーテムポットの容量は、せいぜいが学校のプール並みだった。
しかし、今日ヘレンが持って来たものをライトが<鑑定>で容量を確認すると、体育館1つ分はあった。
それだけ、この機会を利用してライトに聖水を作ってもらおうということだろう。
一体、ゴーント伯爵家の一派が夜逃げした影響がどれだけなのか、ライトは訊きたいような訊いたら負けなような気持ちの狭間で揺れた。
結局、その影響の規模を質問することなく、ライトはヘレンからトーテムポットを受け取った。
「【
一瞬にして、大量の聖水ができあがった。
「相変わらずすげえな」
「あっという間ね」
「これでどのぐらい聖水不足の状態を凌げますか?」
「2週間だな。ゴーントの馬鹿共が逃げ出さなければ、1ヶ月は凌げたんだが」
「あの腐れデブ達に領地に引き籠られると、逃げられないように包囲するのが面倒なのよね」
ゴーント伯爵家の領地は大陸の東にある。
ドゥネイルスペードよりも奥にあるから、セイントジョーカーから討伐軍を出すとなると、道中のアンデッド対策も必要になるし、時間だってかかる。
そうなれば、ゴーント伯爵家を討伐するための費用も時間も馬鹿にならない。
実際、既得権益にしがみつく貴族がここまでやって来れたのも、費用と時間の無駄にすることを良しとせずに見逃されて来たというのが大きな要因である。
しかし、今回は少々おいたが過ぎる。
聖水の作成ノルマは達成させないくせに、備蓄は抜かりなく行って論文発表会では若い芽を摘もうとした。
それはそれとして、ローランドはとりあえずライトに報酬を払うことにした。
「ライト、報酬は金貨150枚だ。今回は、お前の好きそうな
「いえいえ、お気遣いいただきありがとうございます」
臨時収入は、ライトにとってありがたいものだ。
だから、遠慮なく懐に収めた。
支払いが済むと、ヘレンはムッとした表情になっていた。
「ローランド、今回は腐れデブファミリーを取り潰しても良いんじゃないの? 貴族のままにしておくにはあまりに目に余るわ」
「そうだな。ライトの一件じゃねえが、ゴーント伯爵家全員をボンレスハムにしてやるぜ」
(ボンレスハムって言葉がウケたこと、叔父様にも伝わってたんだ。というか、腐れデブファミリーってなかなかのパワーワードだよね)
ライトはローランドの発言により、思い出し笑いした。
「僕がやっといて言うのもなんですが、ハムならもっと美味しそうですよ」
「だろうな。つーか、<法術>って捕縛もできるんだな。入学試験の時、見せてくれれば良かったのに」
「あの技は、使えるようになったのが最近なんですよ。あの時はあれが精一杯でした」
「それもそうか。入学時点でなんでもかんでもできるなら、ダーインクラブで治療院を続けてた方が良いに決まってるもんな」
「そういうことです。では、そろそろ会長の論文発表会の手伝いがあるので失礼します」
「おう、またな」
「じゃあね、ライト君」
ローランドとヘレンに挨拶してから、ライトは教会学校の生徒会室へと向かった。
生徒会室のドアを開けると、ジェシカ達は丁度休憩中のようだった。
「ライト、おかえりなさい」
「ただいま、ヒルダ」
ライトの姿を視界に捉えてすぐ、ヒルダが笑顔でライトに駆け寄った。
「ここはヒルダとライト君の家ではありませんよ?」
「ラブラブ」
「ライト、おかえり~」
砂糖を吐き出しそうというよりも、単純に疲れた表情のジェシカは苦笑いで、メイリンとイルミはそうでもなかった。
ジェシカの表情からして、自分が不在だった時に何かあったことは間違いない。
その後、ライトが聖水の作り方の詳細を教わったと聞くと、ジェシカは早速該当部分を修正した。
ジェシカとしては、論文をきっちり詳しく仕上げたい気持ちだったらしい。
ついでに、ライトがゴーント伯爵家の一派が夜逃げしたことを伝えると、無様ですねと手短にコメントしたが、ライトはジェシカの口元が緩んでいたのを見逃さなかった。
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