第79話 そ、そんな!? 私の若様への愛は純粋なものなんです!
聖水を飲み続けることで、神聖な力を身に着けることができる訳だが、どれだけ飲めばスキルが強化されるかわからない。
その事実をライトが伝えると、その場にいた全員が唸った。
「ライト、イルミさんはどれだけ飲んでたんだ?」
「イルミ姉ちゃんは、これぐらいの水筒の半分を一気飲みしたら拳が光ったらしいよ」
アルバスの質問に対し、ライトは自分の水筒を取り出して説明した。
「ヒルダさんは?」
「8日間飲み続けてたよ」
「姉上とメイリンさんは?」
「2ヶ月以上飲んでるけど、まだ変化なし。単純な人程早く効き目が表れるって仮説がある」
被験者の状況を確認すると、アルバス達は再び唸った。
ライトさえ協力すれば、聖水の確保にかかる費用は水代だけだ。
しかし、どれだけの期間飲み続けなければならないかで、自分達の背負うリスクが変わって来る。
パッと飲んで神聖な力をを手に入れられるならば、聖水の利権を守ろうとする者にバレることはないだろう。
だが、聖水を飲み続けるとなると、万が一外で聖水を飲んでいるところがバレれば、どこから手に入れられたとしつこく付きまとわれる可能性がある。
悩んだアルバス達だったが、考えるのを真っ先に止めたのはアルバスだ。
「止めた。リスクばっか考えてても、イルミさんに追い付けねえ。ライト、俺は聖水を飲む」
【
これに【
「まあ、やらなきゃ可能性は0%だしね。【
ライトが技名を唱えると、水が聖水に変わった。
「ここで飲まなきゃ男が廃る!」
それだけ言うと、アルバスはグイッと聖水を一気飲みした。
その直後、アルバスの体に神聖な光が仄かに光った。
「成功?」
「嘘!?」
「1回だよ~」
「これはすごいですね」
(マジか。いや、アルバスもイルミ姉ちゃんと似て単純なところがあるからなぁ)
ライトは目をパチクリさせながら、イルミとアルバスに共通点があることを思い出して無理矢理納得した。
そして、すぐにアルバスに<鑑定>を使った。
-----------------------------------------
名前:アルバス=ドゥネイル 種族:人間
年齢:11 性別:男 Lv:22
-----------------------------------------
HP:320/320
MP:300/300
STR:350
VIT:350
DEX:250
AGI:270
INT:200
LUK:200
-----------------------------------------
称号:ドゥネイル公爵家長男
忍耐の鬼
二つ名:なし
職業:
スキル:<聖鎌術><格闘術>
装備:アイアンデスサイズ
ヘルハイル教会学校制服
備考:なし
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(<聖鎌術>か。イルミ姉ちゃんとも、ヒルダとも違うね)
新人戦の個人の部の決勝で、ライトはアルバスのステータスを確認した。
その時は、確かに<鎌術>と記されていたスキル名が、今は<聖鎌術>へと変化していた。
「おめでとう、アルバス。<鎌術>が<聖鎌術>になったよ。これで、鎌を使った技に神聖な力が付与されるよ」
「単純?」
「ザック。喧嘩売ってるのか?」
「いや、単純な人程効き易いって仮説があるんだから、事実でしょ」
「アル君は~、単純だよ~」
「なんで俺の周りには味方がいないんだ」
「良かったじゃん。イルミ姉ちゃんも1回で神聖な力を手に入れてたんだから、同じじゃん」
「それもそっか」
「「「単純(~)」」」
ライトにイルミと一緒と言われ、ムッとした表情がすぐに緩んだのを見て、ザック達はやはりアルバスが単純だという判断を下した。
実際、今の一連の流れを見る限りでは、アルバスが単純だとしか言えないだろう。
アルバスが成功したのを見て、アンジェラも水が注がれた水筒の蓋をライトに差し出した。
「若様、私もお願いします。このビッグウェーブに乗らないでいつ乗りましょうか?」
「はいはい。【
目がマジなアンジェラを見て、ライトはアンジェラが飲む分の水を聖水にした。
それをすぐに一気飲みするが、アンジェラの体には変化が訪れなかった。
「そ、そんな!? 私の若様への愛は純粋なものなんです!」
「いや、限りなく
抗議されても困る内容だったので、ライトはなんとも言えない表情になった。
項垂れるアンジェラをよそに、アリサは気になったことを訊ねた。
「ライト君、ヒルダさんはどんなシチュエーションで神聖な力を宿したの?」
「確か、ヒルダが自分の
「好きな人の水筒に口を付けて、コロッといっちゃったんだね」
「乙女だね~」
「ね~」
アリサとロゼッタには、ヒルダの気持ちにわかるものがあったらしい。
だが、この話を聞いて余計な知恵を付けた者がいた。
勿論、アンジェラである。
「若様、私が神聖な力を身に着けるため、私も間接キスを希望します!」
「却下」
「そ、そんな・・・。神は死にました」
(ニーチェか! つーか、ヘル様生きてるから!)
アンジェラのリアクションに対し、ライトはツッコミをどうにか心の中に留めるのに苦労した。
罰当たりな発言だが、それだけアンジェラはショックを受けたらしい。
「アンジェラ、間接キスに頼らなきゃ神聖な力を身に着けられないの?」
「・・・若様、わかってませんね。若様への愛は純粋ですが、純粋ゆえに気持ちが溢れて色々考えてしまうんです」
「そのほとんどが変態的なものだよね」
「おかしい、おかしいです。私の見立てでは、ヒルダ様もこちら側の資質を十分に備えた
「今、変な当て字したよね?」
「あぁ、私だけ想いが報われないなんておかしいと思いませんか!?」
「おかしいのはアンジェラの頭だよ」
「ありがとうございます!」
「お礼言っちゃったよ・・・」
ライトから向けられる養豚場の豚を見るような目に耐えられず、アンジェラが頬を赤く染めて礼を言った。
そんな変態度合いに呆れ、ライトは大きく息を吐き出した。
それから、ザック達も聖水を1杯ずつ飲んだが、アルバス以外に神聖な力を身に着けられた者はいなかった。
その後、アンデッドの捜索を再開して数分歩いていると、ザックがアンデッドを発見した。
「前方、ロッテンベアー、1体」
「ライト、ここは俺にやらせてくれないか?」
「<聖鎌術>を試したいの?」
「おう。悪いけど、援護もなしで頼む」
「はぁ、しょうがない。じゃあ、今回だけは特別に1人でやって良いよ。でも、危なくなったらすぐに介入するから」
「助かる」
強化されたスキルを試したいという気持ちは、ライトも男なのでわからなくもない。
自分が注意しておけば、取り返しのつかない事態にはならないだろうと判断し、ライトはアルバスに許可を出した。
アンジェラもライトの判断を尊重し、特に口を挟むことはなかったので、アルバスはロッテンベアーと1対1で戦うことになった。
「それじゃ行くぜ! 【
アルバスの大鎌が神聖な光を放つと、アルバスはそのまま【
その斬撃は、ロッテンベアーが身を守ろうと体の前に移動させた両前脚を切断した。
「パワーアップしてるね」
「羨望」
「良いな~」
すっかり観客になったアリサ達が言う通り、アルバスの技が間違いなく強化されていた。
今までのアルバスの【
それはつまり、<鎌術>が<聖鎌術>に変化した影響でここまで威力が上がったということだ。
アリサ達が羨ましがるのも当然だろう。
両前脚を失ったロッテンベアーに対し、アルバスは距離を詰めた。
ロッテンベアーは移動に欠かせない両前脚を失い、その場で立ち往生している。
アルバスにとって、攻撃するなら今がチャンスである。
「【
刃の部分ではなく、石突の方で素早く連続で突きを放つと、勢い余ってロッテンベアーの心臓部を貫いてしまい、体の形を維持できなくなったロッテンベアーの体は崩れ落ちた。
「うへぇ、汚ねえや」
「やれやれ。僕がいなかったらアルバスはどうしたんだろうね。【
「面目ねぇ」
ロッテンベアーの肉片は、アルバスにも飛び散っていた。
それをきれいさっぱりなかったことにしてもらうと、アルバスはライトに詫びた。
そして、アルバスがパワーアップし、それ以外のメンバーも聖水を毎日飲もうと決意を固くした。
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