第55話 ウィル・オ・ウィスプ、ゲットだぜ!

 時は少し遡ってライト達が月見の塔でヴェータラと戦っていた頃、エルザのパーティーはG4-1のもう片方のパーティーと一緒にドゥリンガル山脈のミミル山に来ていた。


 G4-1のパーティーリーダーはニア=アリトンといい、ブーメランを腰に差すアリトン辺境伯家の次女である。


 ニア率いるアリトンパーティーは男子2人と女子3人で構成されており、エルザのパーティーと男女比は同じだった。


 ニアのパーティーの前衛はロロ=ネレイスとルル=ネレイスの双子の兄妹が務める。


 ロロは両手に盾を持ち、ルルは双剣を使う。


 守りはロロに任せ、ルルが攻めるという訳だ。


 中衛がニアで鞭以外にも飛び道具を使う。


 後衛は2人おり、1人はトルマリン=ウォーロックといってアズライトの兄でウォーロック伯爵家の長男だ。


 もう1人はスカジ=ホーステッドという女子であり、両腕で抱えねば持てない大きな本を持っている。


 それぞれの職業はロロが重戦士アーマーナイト、ルルが傭兵ハイランダー、ニアが狩人ハンター、トルマリンが魔術師マジシャン、スカジが死霊魔術師ネクロマンサーである。


 アズライトとカタリナにとっては同じ職業でアンデッドと戦ったことのある先達がいるので、道中もトルマリンとスカジにあれこれ質問していた。


 トルマリンとアズライトは兄弟ならば、質問なんていくらでもできると思うかもしれない。


 ところが、トルマリンは基本的に寝食を忘れて魔法研究に明け暮れる日々を送っており、自他共に認める魔法オタクだった。


 そのせいで、ウォーロック兄弟が教会学校内で話す機会はほとんどないのだ。


 だから、トルマリンにとって逃げ場のない遠征見学はアズライトにしてみればトルマリンを好きなだけ質問攻めにできる貴重な機会という訳だ。


 その一方、カタリナにとってスカジは死霊魔術師ネクロマンサーの先輩である。


 こちらもまた、自分の職業の戦い方について知る貴重な機会だから、人見知りなカタリナも今日と明日だけは恥ずかしさを我慢してスカジに質問することにしているようだ。


「あ、あの、ホーステッドさんが使役するのはどんなアンデッドなんですか?」


「わ、私は今、キョンシー、ファントム、トーチバードを召喚、使役できるよ」


 カタリナ同様、スカジも人見知りのようで喋り方がどことなく似ている。


 それもあって、カタリナが初対面でも同族意識によって話せているのだ。


「スカジがこんなに話すのは珍しいね」


「こ、この子、仲間」


「まあ、確かにそうかも。職業が一緒なだけじゃなくて、雰囲気もそっくりだし」


「うん」


 ニアは近くで話を聞いていたので、スカジがいつになく喋っていることに興味を持ったようだ。


 スカジがピクッと反応してカタリナとは喋れそうだと伝えると、ニアがそんなスカジを見て良いことを思いついた。


「それじゃあ、先輩としてカタリナちゃんの初めての配下アンデッドを捕まえてあげたら?」


「・・・わ、わかった」


「い、良いんですか?」


「うん。カタリナ、私と一緒。先輩として、後輩の面倒を見るよ」


「あ、ありがとうございます!」


 スカジがアンデッドの捕獲に協力すると言うと、カタリナはペコペコと何度も頭を下げた。


「じゃあ、決まりだね。ロロ、ルル、トルマリン、カタリナちゃんが使役できそうなアンデッドがいたら、倒さずに弱らせるだけにして」


「「「了解」」」


 遠征の目的はアンデッドの数を減らすことだが、それを深掘りすると人類の敵となるアンデッドを減らすことである。


 つまり、味方となるアンデッドはいても困らないのだ。


 死霊魔術師ネクロマンサーに使役、召喚されるアンデッドはほとんどが死霊魔術師ネクロマンサーに従順だ。


 動物をペットにするなら餌や飼う場所の問題があるけれど、アンデッドであれば食事は不要で死霊魔術師ネクロマンサーなら召喚しない時は異空間にアンデッドをキープできる。


 アンデッドから人類の生活圏を守るため、立っている者は親でも使えという方針であれば死霊魔術師ネクロマンサーもまた必要とされる職業だと言えよう。


 昼休憩が終わり、午後から本格的にミミル山での遠征が始まった。


 前の蜥蜴車リザードカーにニアを除く4年生が、後ろの蜥蜴車リザードカーには御者のニアとエルザのパーティーが乗ったまま山を登っていく。


 すると、前の蜥蜴車リザードカーで御者をしていたロロが叫んだ。


「前方にアンデッド発見! 数4! ウィル・オ・ウィスプだ!」


「ロロ、蜥蜴車リザードカーを止めて! 戦闘準備!」


「わかった!」


 2台の蜥蜴車リザードカーが横並びになり、両パーティーがの蜥蜴車リザードカーから降車した。


 その時、相手の射程圏内に入ったようでウィル・オ・ウィスプ達が火の球を放ち始めた。


「トルマリン、頼む!」


「任せたまえ。【水鎧ウォーターアーマー】」


「おっしゃぁ! 【引寄盾ドローシールド】」


 トルマリンが技名を唱えると、ロロが薄い水の膜に包まれた。


 そのロロが両腕の盾を構えて技を発動させると、別々の場所に向かって飛んでいた火の玉がロロに引き寄せられて水に覆われた盾に触れて消火された。


 トルマリンとロロの連携プレイはバッチリである。


「ニア、1体だけ残して」


「カタリナちゃんに使役させるのね、了解。ララ1体残して!」


 ウィル・オ・ウィスプならば、カタリナの初めての使役に丁度良いと判断してスカジはニアに声をかけた。


 ニアはすぐに理解し、ララが全滅させないように指示を出した。


「OK! トルマリン、私にもよろしく!」


「良いだろう。【水鎧ウォーターアーマー】」


 ニアの指示を承諾すると、ララはトルマリンにロロと同じことを頼んだ。


 トルマリンはそれに応じ、ララの体を薄い水の膜で包み込んだ。


「んじゃ、やりますか。まずは1体! 【十字突撃クロスブリッツ】」


 手前にいたウィル・オ・ウィスプに対し、ララは双剣を交差させながら突撃し、衝突の瞬間に両手の剣を振り抜いた。


 双剣が水に覆われていたことで、斬られたウィル・オ・ウィスプはそのまま火が消えて倒れた。


「あと2体か。じゃあ、私も。トルマリン、こっちもお願い」


「よかろう。【水鎧ウォーターアーマー】」


「これで良し。【蛇鞭スネークウィップ】」


 水を纏った鞭が蛇のように蛇行して2体のウィル・オ・ウィスプに向かい、衝突してすぐにそれらを消火して倒した。


 ニアのおかげで残るはカタリナが使役するための1体だけとなった。


「カタリナ、【絆円陣リンクサークル】を使ってみて」


「は、はい。【絆円陣リンクサークル】」


 ブォン。


 スカジの指示に従い、カタリナは<死霊術>に含まれる技名を唱えた。


 それによってウィル・オ・ウィスプの真下に円陣が現れ、そのままウィル・オ・ウィスプを閉じ込める結界となった。


 その次の瞬間、結界が明滅しながら収縮し始めた。


「カタリナ、結界を自分の手だと思って。ウィル・オ・ウィスプを握り締めて」


「はい!」


 カタリナはスカジのアドバイスを受けてそれを実践した。


 だが、拳を握り締めるだけだと思っていたにもかかわらず、なかなかそれができない。


 結界の中でウィル・オ・ウィスプが抵抗しているのだ。


 それは当然のことだろう。


 いきなり結界に閉じ込められ、そのまま結界が収縮してきたらどうにか抜け出そうと必死に暴れるに違いない。


「使役は根性。絶対に逃がさないって気合を見せて」


「気合!」


 スカジは気合と叫べと言った訳ではなかったが、カタリナが叫んだ後、ウィル・オ・ウィスプの抵抗が少しずつ弱まり始めた。


 それに伴って結界の明滅が激しくなり、結界のサイズがどんどん縮小していった。


「カタリナ、気合ですわ!」


「カタリナ、気合やで!」


「カタリナ、気合見せてみろ!」


「カタリナ、気合だよ!」


「気合!」


 パーティーメンバーに応援されてカタリナが再び叫ぶと、一気に結界が圧縮してウィル・オ・ウィスプと同じサイズになった。


 すると、明滅が止まってウィル・オ・ウィスプの抵抗が完全に止まった。


 その状態を見て、スカジはニッコリとカタリナに笑ってみせた。


「おめでとう。カタリナ、ウィル・オ・ウィスプの使役に成功したよ」


「ウィル・オ・ウィスプ、ゲットだぜ!」


「なんであんたが言うねん!」


「オットー、空気を読みなさいな!」


「痛ぇ・・・」


「オットー・・・」


 カタリナが言うべきセリフを、オットーがドヤ顔で言ってのけたせいで、ミーアとエルザのWツッコミがオットーの脳天に落ちた。


 痛みに悶えるオットーに対し、アズライトは助け船を出すことなくジト目を向けた。


「やりました・・・・。私のウィル・オ・ウィスプです」


「よくやったね。これで、晴れて死霊魔術師ネクロマンサーの仲間入りだよ」


「はい!」


 スカジに認められ、カタリナは死霊魔術師ネクロマンサーとしての自信をつけることができた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る