第52話 ライトの敵に慈悲はない!

 醸し出す雰囲気から、そのアンデッドは間違いなくデスナイトと同等、あるいはそれ以上であることは間違いない。


 口が体の半分以上を占める以外の特徴として、黒い肌で背が高くて目は猛禽類のような鋭さがあった。


 敵の情報は素早く確認するに限るので、ライトはすかさず<鑑定>を発動した。



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名前:なし 種族:ヴェータラ

年齢:なし 性別:なし Lv:35

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HP:4,000/4,000

MP:3,000/3,000

STR:2,000

VIT:2,000

DEX:1,000

AGI:1,000

INT:2,500

LUK:1,000

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称号:なし

二つ名:なし

職業:なし

スキル:<恐慌圧フィアープレッシャー><呪噛カースバイト><呪爆弾カースボム

    <呪砲カースキャノン><死体憑依>

装備:なし

備考:なし

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 (配下を呼ぶことはなさそうだけど、単体でも十分強いね)


 デスナイトと比べて武器や防具がないくせにSTRとVITが高く、INTに至っては2.5倍もある。


 デスナイトよりレベルが5しか違わないのに、ここまで強さに違いが出るのはヴェータラが単体だけで戦うからに他ならない。


「イルミ姉ちゃん、ヒルダ、このヴェータラはデスナイトよりも強い」


「わかった。だったら、戦うのはお姉ちゃんとヒルダ、ライトの3人だね」


「エマ、ターニャ、ノアは1年生を守りながら月見の塔を脱出。ランドリザードのいる所まで移動して」


「「「了解!」」」


 ライトの鑑定結果を聞くと、イルミはすぐに遠征見学としての体裁を無視した戦いをすると言った。


 ヒルダもそれに賛成であり、エマ達にライト以外の1年生を守るように指示を出した。


 デスナイト以上の強さとなれば、4年生のイルミのパーティーでも倒せるかは怪しい。


 しかし、幸いなことにここには<法術>使いのライトがいる。


 ジェシカとメイリンがいなくても、ある程度弱らせれば【昇天ターンアンデッド】で倒せることはわかっているのだから、持久戦に持ち込むつもりだ。


 デスナイト戦の時とは違って、イルミもヒルダも<聖闘術>や<聖剣術>を会得しているので、ヴェータラに攻撃が通じないこともない。


 パーティー人数が少なくとも、戦力自体はそこそこあるからこその判断だ。


「1年生、すぐに撤退するわ! ついて来なさい!」


 エマが指揮を執ってアルバス達を連れてこの場から撤退すると、ライト達はヴェータラとの戦いに集中した。


「ライト、指揮をお願い」


「私の命、ライトに預けるよ」


「わかった。イルミ姉ちゃんとヒルダで攻撃してヘイトを稼いで。防御と支援、回復、とどめは任せてもらって構わないよ」


「「了解」」


 ライトが指示を出し終えると、ヴェータラが叫び始めた。


「ヴォォォォォイ!」


「「きゃぁぁぁっ!?」」


「<恐慌圧フィアープレッシャー>か。【範囲治癒エリアキュア】」


 イルミとヒルダが悲鳴をあげた原因が<恐慌圧フィアープレッシャー>にあると判断しつつ、ライトは恐慌状態の2人を元通りにするために【範囲治癒エリアキュア】を使った。


 見た目は落ち着きを取り戻したようだったが、ライトは念のため声をかけた。


「大丈夫?」


「ありがとう!」


「もう大丈夫!」


 ライトの抜群の反応支援のおかげで、イルミもヒルダも恐慌状態から脱せていた。


 そして、【範囲治癒エリアキュア】のせいでライトがヴェータラのヘイトを稼いでしまったことを理解し、2人はヴェータラに攻撃を仕掛けた。


「【輝正拳シャイニングストレート】」


「ヴヴヴ・・・」


 イルミが左側面から輝く拳をぶつけた。


 ロッテンウルフと比べ、VITの数値が倍以上あるヴェータラが吹き飛ぶことはなかったが、神聖な力による攻撃を受けてヴェータラのイルミに対するヘイトが上がった。


「右がお留守だよ! 【輝狼噛シャイニングバイト】」


「ヴォォォッ!」


 今度はヒルダが右側面から攻撃を命中させたことでヴェータラが叫んだ。


 イルミへのヘイトも上がったことで、ライトに対するヴェータラのヘイトが相対的に低くなった。


 そんなヴェータラが狙ったのは、自身に与えたダメージ量が多いヒルダだった。


 その巨大な口を広げ、歯には瘴気が込められている状態で噛みつくのは、<呪噛カースバイト>に間違いなかった。


 しかし、ヒルダはヴェータラの攻撃を避けたりしなかった。


 何故なら、ヒルダは避けずともライトが守ってくれると信じていたからだ。


「【防御壁プロテクション】」


 ヒルダが信じていた通り、光の壁がヒルダを守るように現れて噛み砕こうとしたヴェータラの歯は弾かれた。


 その隙にイルミが背後から攻撃を仕掛けた。


「【聖拳ホーリーフィスト】」


「ヴォォォッ!?」


 光が右腕に収束して黄金に輝くと、イルミの渾身の一撃がヴェータラの背中に入った。


 良い感じに攻撃が決まったようで、ヴェータラは吹き飛びはしなかったがバランスを崩してふらついた。


「だったら私も! 【聖十字刃ホーリークロスブレード】」


「ヴォォォォォイ!」


 ヒルダが右側面から十字に斬ると、ヴェータラはその痛みに怒って吠えた。


 ヴェータラが何か仕掛けて来ると判断し、イルミとヒルダはヴェータラから距離を取った。


 すると、ヴェータラの口の前に瘴気が急激に集まり始めた。


「<呪砲カースキャノン>でも撃つ気かな? 撃たせないけど。【浄化クリーン】」


「ヴォッ!?」


 ヴェータラは自分の集めた瘴気が消し飛ばされて驚いた。


 <呪砲カースキャノン>で戦況を変えようとしたにもかかわらず、それを不発にされてしまえばヴェータラは不愉快で堪らない。


「ヴォォォォォイ!」


「【範囲治癒エリアキュア】」


 ライト達の動きを鈍らせようとして<恐慌圧フィアープレッシャー>を発動したが、すぐにライトが治してしまって効果がなかった。


 ヴェータラは激怒した。


 必ずかの清廉潔白なライトを除かなければならぬと決意した。


 ライトへのヘイトが留まるところを知らず、ヴェータラはライトだけを狙って<呪噛カースバイト>を発動した。


「【防御壁プロテクション】」


 光の壁がライトの前に現れると、ライトを噛み殺そうとしたヴェータラの歯は弾かれて壁の硬さに負けて何本か折れた。


「お姉ちゃんを無視するなぁぁぁっ! 【輝拳乱打シャイニングラッシュ】」


「私のライトに何すんのよ! 【輝狼爪シャイニングクロー】」


 ライトのヘイトを少しでも奪うべく、イルミはヴェータラの左側面から殴りまくり、ヒルダは背後から複数の輝く斬撃を放った。


 イルミとヒルダの怒りが込められた技はヴェータラにも確実に効いている。


「ヴォォォォォッ!」


 ヴェータラは痛みに耐え、この場に憎き敵が全員揃っていることを確認した。


 叫びながら周囲に漂う瘴気を自分を中心に集め始めた。


「無駄だよ。【範囲浄化エリアクリーン】」


 瘴気を利用して攻撃しょうとするヴェータラの行動を見抜き、ライトは周囲一帯の空気を新鮮なものへと変えてみせた。


 ヴェータラはライトが憎くて憎くて仕方なかった。


 だから、攻撃してくるイルミやヒルダを無視してライトに<呪噛カースバイト>を発動した。


「学習しなよ。【防御壁プロテクション】」


 またしても光の壁がライトの前に現れ、ライトを噛み殺そうとしたヴェータラの歯は防がれ、残っていた歯も全てが折れた。


「お姉ちゃんを無視するなって言ってるよね! 【聖拳ホーリーフィスト】」


「ライトの敵に慈悲はない! 【聖十字刃ホーリークロスブレード】」


「ヴォォォォォォォォォォッ!」


 今日一番の絶叫を見せるヴェータラに対し、ライトは<鑑定>によって残りのHPを確認した。


 (よし、残りHPが700切った。これならギリギリ倒せる)


 ヴェータラの残りHP、VITの数値、そして自分のINTの数値から、ライトはこれで倒せると結論を出した。


「鬱陶しい。【昇天ターンアンデッド】」


 パァァァッ。


 イルミとヒルダの攻撃により、バランスがガタガタになっていたヴェータラはライトの技をまともに喰らって消滅した。


 ヴェータラがドロップして現れたのは、雑魚モブアンデッドのものよりもずっと大きな魔石だった。


《ライトはLv26になりました》


《ライトはLv27になりました》


《ライトはLv28になりました》


《ライトはLv29になりました》


《ライトはLv30になりました》


 ヴェータラが倒れて戦いが終わった証として、ライトの耳には自分のレベルアップを告げるヘルの声が届いたのだった。

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