第47話 絶対に負けられない戦いがそこにはある
パーティーの部の決勝戦が終わると、そのまま表彰式へと移った。
昨日と同様にライトのパーティーを表彰するのは校長のシスター・アルトリアだ。
「第366回新人戦パーティーの部優勝、ダーインパーティー。おめでとう」
「ありがとうございます」
パーティーリーダーのライトが2日連続でシスター・アルトリアから表彰された。
今日の表彰では勲章の代わりにパーティーの人数分の引換券が渡された。
この引換券があれば購買で買える物なら1つだけなんでも無料で貰える。
表彰式が終わると生徒達は後片付けに入った。
とは言っても、後片付けをするのは
何故なら、出店やら救護テントを使ったのは彼等だからである。
ライトのパーティーがノルマを終えて寮に帰ろうとすると、待ったをかける者達がいた。
イルミとヒルダである。
「ライト、ちょっと待った~!」
「待って!」
「イ、イ、イルミさんだ」
「アルバス、君、マジか・・・」
わかってはいたことだが、イルミに一目惚れしたアルバスがきょどっているのを見て、やはりライトは顔が引き攣るのを我慢できなかった。
そんなライトの心中を知らず、イルミはライトに駆け寄るとライトの背中をバンバン叩き始めた。
「ライト、お姉ちゃん信じてたよ! 姉弟揃って無事に2冠達成だね!」
「「ぐぬぬ」」
3年前、イルミに個人の部で決勝で敗北したヒルダと、イルミに背中を叩かれるライトを見たアルバスの反応がシンクロした。
ちなみに、イルミとヒルダは同じパーティーに所属していたため、今年のライトとアルバスの関係に似ている。
「イルミ姉ちゃん、昨日から連戦の弟に対してもうちょっと優しくしようとか思わないの?」
「デスナイト戦の方が新人戦の何倍も疲れたでしょ?」
「そりゃまあそうなんだけどさ」
イルミの言いたいことはわかる。
命を懸けて戦ったデスナイトと比べたら、今日1日の試合なんて大したことはない。
というよりも、昨日の試合全てを含めてもデスナイト戦の方が疲れたのは間違いない。
だが、今日の新人戦は
副賞目当てとはいえ、まがりなりにも2冠を達成したのだから、少しは労わってほしいとライトが思うのも仕方のないことだろう。
もっとも、そのライトの心情をイルミが読み取れるはずもないのだが。
「ライト、今日は打ち上げしよ!」
「そんなことできんの?」
「フッフッフ。こういう時こそ生徒会の権力の使いどころなのさ」
「うわぁ、イルミ姉ちゃん悪い顔してる」
「ライト、安心して。場所は生徒会室になるけど会長が打ち上げ許可を事前に貰ってるから。勿論、ライトのパーティーメンバーのみんなも参加して下さいね」
「やった!」
「感謝」
「ありがとうございます~」
「ありがとうございます!」
ヒルダはアルバス達を仲間外れにすることなく、ライトと一緒に4人を生徒会室へと誘った。
イルミが突っ走れば、ヒルダがフォローする。
ヒルダの日頃の苦労が誰の目から見ても明らかになる瞬間だった。
その後、ライト達は身支度を整えるために一旦寮に戻った。
明日は日曜日と言うこともあり、堅苦しい制服ではなく私服で打ち上げするからである。
ついでに、シャワーを浴びて汗や汚れを落とす時間も必要だからだ。
そして、本来ならば食堂で夕食を取る時間、ライトのパーティーは生徒会メンバーと一緒に生徒会室で打ち上げを始めた。
「では、生徒会メンバーのライト君の新人戦2冠達成、ライト君のパーティーがパーティーの部を優勝したことを祝して、乾杯!」
「「「・・・「「乾杯!」」・・・」」」
ジェシカが乾杯すると、その場にいる全員がグラスを掲げた。
生徒会室にあるテーブルは普段なら書類やら備品が置いてあるが、今日だけはテーブルクロスがかけられ、その上には飲み物や食事が所狭しと並べられていた。
「愚弟、おめでとう。個人の部は準優勝でしたね」
「うっ、姉上容赦ねえ・・・」
「ザック、上出来」
「精進」
生徒会メンバーはライトの関係者ばかりなのでこうなることもライトは事前に察していた。
「ライトとパーティーだからって、イチャイチャしてないよね?」
「してないです!」
「してないで~す」
ヒルダはヒルダでライトのパーティーの中で女子メンバーのアリサとロゼッタを尋問と呼んでも過言ではない雰囲気の中で話していた。
どうやら、自分と学年が違うライトが同級生に誑かされていないか気が気でないらしい。
ヒルダは笑みを浮かべて訊ねているが、どう考えても目は笑っていないのでアリサは恐怖から姿勢を正して返事をしていた。
その一方、ロゼッタはヒルダに全然怯えることなく、いつも通りの間延びした喋り方で返事をしていた。
「ライト、はい、これ。お姉ちゃんチョイスだよ」
「山盛りだね」
「いっぱい食べて、大きくなるんだもんね」
「・・・いただきます」
イルミがライトのために盛りつけた皿の上には、これでもかというぐらい料理があった。
同じダーイン公爵家で育ったのに品性の欠片もない盛り具合に苦笑いだったライトだが、イルミに痛い所を突かれておとなしく皿を受け取った。
品性なんかよりも、この場においては身長を伸ばすことの方がライトにとっては重要なのだ。
その後も生徒会とライトのパーティーとの交流は続いた。
アルバスは緊張して上手く喋れていなかったが、ライトの紹介もあってイルミと話すことができた。
ザックはメイリンと並べられ、ジェシカの興味本位でロアノーク姉弟の特徴的な喋り方について話をさせられていた。
口数の少ないザックとしては、ジェシカにぐいぐい来られて困った様子だった。
アリサとロゼッタは、ヒルダから解放されて料理と飲み物を堪能しつつ、副賞で何を貰うか話していた。
となれば、当然ライトはヒルダと一緒に話しているに決まっている。
というより、ヒルダがライトを離さないと表現した方が正しいだろう。
「ライト、改めて新人戦2冠おめでとう」
「ありがとう、ヒルダ」
チン。
グラスを合わせ、ライトとヒルダは改めて乾杯した。
「個人の部の決勝で見せた【
「そう? アンジェラとの模擬戦に比べれば、全然大したことないよ?」
「おのれアンジェラ。ライトを魔改造しちゃうなんて許すまじ」
「魔改造はされてないよ」
「でも、アンジェラって変態なんでしょ? イルミから聞いたよ?」
「我が家の恥を口外するなんて本当に馬鹿な姉だ」
「ライトと私が結婚したらアンジェラってついて来るのかな?」
「絶対に来るよ。だって、アンジェラは僕に執着してるから」
「絶対に負けられない戦いがそこにはある」
メラメラと目から炎を燃やし、ライトは渡さないとヒルダは気合十分である。
そんなヒルダに対し、ライトは落ち着いてくれと優しくその肩に触れた。
「大丈夫。僕がアンジェラに靡くとか絶対にないから」
「本当?」
「勿論。僕に蔑まれて喜び、僕の下着に顔を埋めて恍惚の表情を浮かべる変態に僕が靡くと思う?」
「・・・ライトの貞操は私が守る」
アンジェラの所業の一部を聞いただけで、ヒルダはライトを優しく抱き締めた。
そして、絶対にアンジェラをライトに近づけてはいけないと判断した。
ライトにその気がなくても、
アンジェラの話はここまでにして、ライトはヒルダと購買で取り扱っている商品の話に移った。
いつまでもアンジェラの話をするよりも、パーティーの部の副賞の話をした方が楽しいからだ。
「ヒルダの時は何を貰ったの?」
「<水魔法>の魔導書だよ。残念なことに父様は<水魔法>が使えないから、私は実家で<水魔法>の技にバリエーションがなかったの。だから、少しでも戦う手段を増やした方が良いと思って<水魔法>の魔導書にしたわ」
「魔導書も売ってるんだね。流石は教会学校の購買だ」
魔導書なんて本屋でも売っている店はごく僅かだ。
「ライトは何が欲しいの?」
「僕の場合、魔導書を貰ってもスキルがないもんね。<法術>の魔導書なんて、見かけたことないよね?」
「ある訳ないよ。<法術>自体が珍しいんだもの」
「だよねぇ。色々見て考えてみるよ」
「それが良いと思う」
その後も、料理と飲み物がなくなるまでライト達の打ち上げは続いた。
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