第42話 いや、普通の横薙ぎだけど?
30分の休憩が終わると、グラウンドの中央にはライトとアルバスが移動した。
ライトは戦う前にアルバスのステータスを<鑑定>で調べた。
準決勝の時のように隠し玉が用意されていると困るからだ。
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名前:アルバス=ドゥネイル 種族:人間
年齢:11 性別:男 Lv:15
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HP:200/200
MP:180/200
STR:250
VIT:250
DEX:200
AGI:200
INT:150
LUK:150
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称号:ドゥネイル公爵家長男
忍耐の鬼
二つ名:なし
職業:
スキル:<鎌術><格闘術>
装備:アイアンデスサイズ
ヘルハイル教会学校制服
備考:疲労
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(”忍耐の鬼”じゃん。アルバス、君も苦労したんだな)
今のライトは”鉄心”という称号があるが、その前段階は”忍耐の鬼”だった。
この称号はその者が苦痛だと思うことを2年以上継続して初めて会得できる。
ライトにとってはそれがユグドラ汁の摂取だったが、アルバスにとってはドゥネイル公爵家の躾だったのだろう。
とりあえず、準決勝以上の隠し玉がなかったのでライトは戦いの合図を待った。
2人の準備が整ったことを確認すると、審判を務めるシスター・マリアが口を開いた。
「それでは新人戦個人の部決勝、アルバス=ドゥネイルVSライト=ダーイン、開始!」
「先手必勝! 【
「やらせないよ」
「うわっ!? 早っ!?」
【
その横薙ぎを防ごうとしてアルバスは大鎌を構えたが、不思議なことに横薙ぎを防いだ感触がない。
だが、その違和感の正体に気が付いた時にはアルバスはライトの横薙ぎを防ぎきれずに吹き飛ばされた。
ライトの攻撃はアルバスにとってモーションが早いことを除き、何の変哲もない横薙ぎに見えた。
しかし、そこはアンジェラ仕込みなのでライトが決勝戦で簡単に防がれるような横薙ぎをするはずがないだろう。
ライトは右手で左から右に横薙ぎすると見せかけ、右に振り抜く時には剣を右手では持っていなかった。
その時点で既に左手に剣を持ち換えており、アルバスがライトの右手に持っていると思っていた剣を防いだつもりが左手によって横薙ぎが繰り出され、防御のタイミングがズレたのだ。
勿論、ライトはこの攻撃によって下手をすればアルバスが死ぬとわかっていたから、刃ではなく剣の腹でアルバスに攻撃している。
アルバスは起き上がるとニヤッと笑った。
「今のすげーな。スキルか?」
「スキルじゃない。技術だよ」
「マジか。ライト、これで<剣術>持ってないとか詐欺じゃね?」
「いや、普通の横薙ぎだけど?」
「ライト、お前は一旦普通って単語の意味を辞書で調べろ」
「前向きに検討するよ」
「それは絶対調べねえやつ! 【
アルバスが斬撃を乱れ撃ちすると、ライトは準決勝同様【
「それもさっきやってたな! 【
「これは<法術>なしじゃ流石に厳しいかな。【
その場で横に回転してアルバスが遠心力を上乗せした渦巻く斬撃を放つと、これでは【
アルバスとの能力値の差が開いているおかげで、ライトは容易く【
「うわっ、無傷かよ!?」
「デスナイトの攻撃も防いだよ」
「デスナイト? マジかよ・・・」
今の自分では、どう足掻いてもデスナイトに勝てないので、アルバスは改めてライトと自分との実力差を感じた。
「よし、これならどうだ? 【
今度はその場で大きく跳躍し、アルバスが空中で縦回転して遠心力を上乗せした斬撃を飛ばした。
しかし、それも光の壁の前に弾かれた。
「残念だけど、今のアルバスじゃ壊せないよ」
「そうらしいな!」
アルバスは諦めることなく走り出し、光の壁を迂回するように移動した。
それを見たライトは逃げることなく迎え撃ちに行った。
すると、アルバスは大鎌をライトに目掛けて投擲した。
至近距離のことだったので、ライトは咄嗟に大きく横にジャンプして避けた。
だが、それはアルバスの読み通りでライトが跳んだ先の正面には拳を振りかぶったアルバスがいた。
「もらったぁ! 【
「甘いよ」
アルバスはライトの動きを見切り、回避した先で渾身の一撃をぶつけるはずだった。
しかし、その瞬間は訪れることはなかった。
何故なら、アルバスは背中から地面に叩きつけられたからだ。
その際に後頭部を地面に強打してしまい、アルバスは意識を失った。
それはつまり、ライトの勝利ということだ。
「そこまで! 新人戦個人の部優勝はライト=ダーイン!」
「うぉぉぉぉぉっ!」
「すげぇ!」
「なんだ今の!」
「何が起きたんだ!?」
「投げた!?」
シスター・マリアが
ライトがアルバスに使ったのは、アルバスが殴りかかる勢いを利用した背負い投げだ。
柔道はまだヘルハイル教皇国に導入されていないので、アルバスは正しい受け身の取り方も知らなければ、背負い投げの対処方法も知らなかった。
だから、アルバスは何をされたのかわからないままライトに背負い投げされた。
ちなみに、ライトは生徒会の仕事が終わってからイルミを相手に何度か背負い投げを練習していた。
これは余談になるが、その時にイルミは柔道に興味を持ち、今ではライトよりも柔道が得意になっている。
それはさておき、ライトが個人の部で優勝したのでパーティーの部より一足先に表彰式が行われた。
ライトを表彰するのは、校長のシスター・アルトリアだ。
ちなみに、このシスター・アルトリアはシスター・マリアの母親だったりする。
親子二代、揃って教会学校の教師とは教育熱心なものだと言えよう。
「第366回新人戦個人の部優勝、ライト=ダーイン。おめでとう」
「ありがとうございます」
シスター・アルトリアはライトの制服の心臓部分に勲章を付けた。
この勲章を身に付けていれば、卒業まで食堂を無料で利用できる。
ライトの当初の目的はこの瞬間にしっかりと果された。
その日はその場で解散となり、明日はパーティーの部があるので午前9時に
新人戦の個人の部が終わるや否や、ヒルダとイルミがライトに合流した。
「ライト、おめでとう! 流石は私の婚約者だね!」
「ライト、お姉ちゃんは嬉しいよ! 最後のやつ、背負い投げだもんね!」
「ヒルダ、イルミ姉ちゃん、ありがとう」
そこに、少し遅れてジェシカとメイリンがやって来た。
「ライト君、おめでとうございます。やはり、愚弟じゃ君の相手は難しかったみたいですね」
「ザックも、まだまだ」
「いやいや、アルバスもザックも強かったですよ。多分、1年生の中ではトップクラスです」
「その頂点が君なんですけどね」
「ライトがトップ」
「アハハ」
ジト目を向ける2人に対し、ライトは苦笑いするしかなかった。
「さあ、ライト。今日は私と優勝を祝って時間の許す限りずっと一緒にいようね!」
「ライト、お姉ちゃんも見てたら熱くなってきちゃった。模擬戦やろ!」
「ヒルダ、イルミ、駄目です。私達には、今日の反省会と明日の準備があるんですから」
「「そんなぁ・・・」」
絶望したと言わんばかりにヒルダとイルミががっくりと肩を落とした。
「ライト君、ここは私とメイリンに任せて先に行きなさい」
「わかりました。じゃあ、ヒルダ、夕食を一緒にどう? それなら、この後頑張れない?」
「本気出すよ。ライト、待っててね!」
「あれ、お姉ちゃんとの模擬戦は?」
「しないよ」
「ガーン・・・」
ヒルダがやる気を出してイルミがどんよりすると、ジェシカもメイリンもその様子を微笑みながら見守っていた。
その夜、夕食ではライトにべったりなヒルダが目撃されたのは言うまでもないだろう。
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